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もっと心の深いところへ。唯一無二の歌声と心震わす楽曲で聴く人を魅了する吟遊詩人

ミュージシャン 青谷 明日香 さん

大自然をバックに気持ちよさそうに歌っているのは、秋田県大仙市出身のミュージシャン・青谷明日香さん。秋田では「あんべいいな」や「うつくしい秋田」などの曲でおなじみの方も多いでしょう。青谷さんは年間約100カ所もの全国津々浦々のライブ会場に足を運び、今日もじんわりあったかい歌声を届けています。今回は藤里町のライブに訪れた青谷さんに、お話を伺うことができました。

「かなしい・さみしい」の中にある小さな光に見えるもの

— 青谷さんは現在“旅する吟遊詩人”としてご活躍ですが、このスタイルに至るまではどのような活動をしてきたのですか?

青谷 大学からバンド活動をしてきまして、ソロでの弾き語りは2006年から始めました。そして2009年に当時組んでいたバンドが解散したので、そこから本格的にソロアーティストとして活動しています。楽器はピアノを3歳から始めて中学で一度やめたのですが、25歳からあらためてキーボードを始めました。

— 青谷さんの音楽は、聴く人の琴線にふれる曲と歌声がとても印象的ですが、ご自身の感性に一番影響を与えた人や物は?

青谷 小さい頃は漫画家になりたくてよく漫画を描いていたり、ゲームもたくさんやってきてゲーム音楽も好きなので、そのようなサブカルチャーが私のバックグラウンドにあると思います。それと20代前半で矢野顕子さんのピアノ弾き語りアルバムを聴いて、『ひとりでもこんなに世界をつくれるんだ!』と、とても感銘を受けましたね。

— 曲作りではどんなことから一番インスピレーションが湧きますか?

青谷 感情で言えば「たのしい・うれしい」よりも、秋田の天気のイメージのようにほの暗い、「かなしい・さみしい」の中にある“小さな光”を感じた時に、曲のイメージが湧くことが多いです。音楽ですと、南米や北欧の少数民族の音楽のような、音楽が生まれた悲しみの背景が色濃く感じられるジャンルが好きです。

普段ライブで日本各地に行きますが、小さなお祭りだったり地元の人しか知らない歴史など、その土地の文化を吸収することも自分の身になっていると思います。

ライブ会場で生まれるご縁や思い出たち

— 大型フェスから神社仏閣、公民館などさまざまな場所で演奏していますが、それぞれの場所の良さを教えてください。

青谷 大型フェスでは私のことを知らずに観てくれる人もいて、そこからつながることや知ってもらうことがありがたいですよね。あとは諸先輩のライブを観て勉強したり。小さな会場では距離が近い分、会場の雰囲気やお客さんからエネルギーをダイレクトに受け取れます。

青谷 私はもともとその土地の歴史や文化を知ることが好きで、ライブ前によく地元の方からいろいろお話を聞いたりするのですが、あまり調べすぎるとライブ中もそちらの脳みそになってしまうので(笑)、打ち上げでさらに深くお話を聞くようにしています。ですので同じ会場に二度三度呼ばれると、その土地にどんどん愛着が湧いてきますね。

— 日本各地のライブで印象的だったことは?

青谷 山形県鶴岡市でライブした時のことですが、“上手く歌う”ことからはずれて自分でも驚くほど感情的になって、「今日はエモーショナルだったな〜!」と感じたことがありました。自分の声で歌っているのではなくて、まるで自分が人形になって、私の体を通して歌が流れているような不思議な感覚でした。

能登半島にある限界集落でライブした時は、会場に地域住民全員が集まったぐらいの大賑わいで、夜遅くのスタートだったにも関わらず、子どもからお年寄りまで本当に盛り上がりました。聞けばかつては北前船が立ち寄る場所として栄えていたらしく、来る者を受け入れる風土が根付いているのだと。それを体感できたのは印象深かったです。


(日本各地でのライブの一コマ)

東日本大震災や出産を経て変わったミュージシャン的視野

— 東日本大震災の前後で、音楽に対するアプローチに変化があったと聞いたのですが、具体的にはどのように変わったのですか?

青谷 私は秋田から東京に出た身なので、何となく“東北が地元”という感覚だったんです。それが震災後は、東北人としてのアイデンティティをしっかり自覚するようになって、東北の歴史を調べたり、東北人らしい表現を考えたりするようになりました。

それまでは“北国の人が憧れる南国”をイメージした曲も多かったのですが、自分の中にあった“秋田のほの暗さ”を包み隠さず表現するようになりましたね。昔から私を知る人には「そういう一面があったんだ」と驚かれたり、たまに共演する人には「また輪が広がったね」と言っていただいたこともありました。

— 青谷さんは一昨年にお子さんをご出産されましたが、妊娠中はどのように過ごされましたか?

青谷 妊娠期間中はすでにスケジュールが決まっていたので、それはなんとか完走しました。ちょうど妊娠した頃にアルバム制作の話もあったので、出産経験のあるアーティストの先輩に相談したら、「生む前にアルバム制作をして、生んだ後にリリースした方がいいよ」と。なのでその通りがんばって妊娠中に制作を終えました。


(産後にリリースした最新アルバム「いつか歌になる」。収録曲の「帰っておいで」は、世界120カ国で20万回再生された秋田県の動画「True North,Akita.」のために書き下ろした楽曲)

— ミュージシャンとして、産後に変化はありましたか?

青谷 産後2カ月半で復帰したのが体力的にちょっと早かったみたいで、なかなか体力が戻らずに高い声が出づらくなりましたね。声が戻るのに半年くらいかかりました。あと自覚はないのですが、歌声が変わったとは言われます。太くなったとか、角が取れて丸くなったとか。

曲作りに関しては、出産前は世の中に対して言いたい気持ちが強くて、攻撃的な歌が多かったんです。でも産後は「そんなことはもうどうでもいい」という気持ちになって。自分自身の歌ではなく、誰か他の人の話や、その土地の歴史などを調べて曲を作るようになりました。

幼少期の記憶をたどって作った秋田のうた

— 青谷さんは、秋田県のイメージソング「あんべいいな」や「うつくしい秋田」など、秋田県にまつわる楽曲を数々手がけられていますが、制作する上で意識したことはありますか?

青谷 「この言葉を使おう」と、言葉ありきにならないように心がけました。それよりも、小さな頃に地元で見た景色やぼんやりとした色彩感覚など、自分の記憶をたどって作るようにしていましたね。

私の地元の大仙市は、田んぼが広がる光景も多いですが、私にとっては姫神山が印象深いシンボルなんです。山脈で一番高い山に電波塔が建っていて、それが山の形の一つになっている。それを見ると「あ〜帰ってきたな〜」って思います。

— 手がけられた秋田県の曲に対して、『これからこんな風に育って欲しい』という想いはありますか?

青谷 この曲を聴いたことのある皆さんが、暮らしの中でふとした時に口ずさんだり思い浮かべたりと、日常生活に根付いていって欲しいですね。

聴く人の隣にそっと寄り添えるような存在に

— ライブで日本各地に行っていると、素敵な景色にもたくさん出会えそうですね。

青谷 富山湾に面している富山県氷見市では、海越しに立山連邦が見える場所があって。白い山々が海に浮かんでるように見えるんですよ!地元の方でも条件が揃わないと見られない景色なんだそうです。福岡の福津市では、海岸から見た夕焼けが本当にきれいでした。あさりが大量発生していたのをよく覚えています(笑)。


(田園越しに望む、海に浮かぶ立山連峰。青谷明日香Twitterより)

そういう人間が太刀打ちできない圧倒的なものに触れる機会があると、東京でビルに囲まれながら暮らしていても『向こうでは今も同じ景色が流れているんだ』と思えて、心のよりどころの一つになっていますね。

— ミュージシャンとして、これから目指すところを教えてください。

青谷 もっと人の心の深いところに入っていきたいですし、もっとそういう曲を書きたいです。物騒だったり悲しい事件を見聞きする度に、そんな世の中を救うまではできないけど、隣にそっと座ってあげられるような存在になれれば、と思っています。

今回私は青谷さんのライブを初体験!老若男女が集まる会場では、ときおり涙する姿あり、お客さんが振り付けに参加して盛り上がる場面もあり。聴く人の心のひだを震わせる青谷さんの歌詞やメロディは、まるでその土地土地に言い伝わる民話のような、人を惹きつける不思議な魅力がありました。ほっこりあたたかいだけじゃない、「何か」を感じさせる青谷さんのパフォーマンス。それを完成させるのは唯一無二の歌声です。その「何か」を感じたい人は、ぜひライブ会場で!


【青谷 明日香さんプロフィール】
秋田県大仙市出身。キーボードかついで街から街へ。郷愁あふれる田舎の風景から、哀愁ただよう都会のビルの風景まで、様々な主人公の物語を歌い紡ぐ。笑いあり涙あり、じわじわと感情ゆさぶるステージで、じわじわと信望者を増やし続ける。CM、映像作品、テレビ番組主題歌等への楽曲提供や、FUJIROCK FESTIVALをはじめとした大型フェス、お寺、神社、カフェ、公民館などさまざまな場所で演奏活動中。
青谷明日香ホームページ
青谷明日香ツイッター
青谷明日香インスタグラム

Writer

熊谷 清香

熊谷 清香

地元タウン誌や広告代理店勤務を経て、フリーランスで企画・編集・取材・インタビュー・ライティング等をしています。中高生の母。秋田市出身。

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