白くてコロンとした形がかわいい、「蒸しぱん時」(秋田市)の蒸しパンの数々。店主ご夫妻が「まるでわが子のよう」と愛しんでつくる蒸しパンは、天然酵母を使い長時間発酵させた生地を蒸しあげています。指先でつついてもへこまないくらいしっかりしていて、口にすると弾力のあるもちもちの食感。季節限定など味のバリエーションも多く、「また食べたくなる味」と地域の人気店になっています。
甘いものからお惣菜系までいろいろ
ここの蒸しパンには、普段私が食べ慣れている蒸しパンとは違うところがいくつかあります。ひとつはもっちりした食べ応えのある生地。それから、ひとつひとつクリームや具が入っているものが多く、割ってみないと分からない楽しさが。さらに、店内には常時20種類ほどが並ぶので、甘いものやしょっぱいものなどから選ぶ楽しみがあります。例えば人気の「きんぴらマヨネーズ(194円)」は、きんぴらごぼうが上にもトッピングされ、中にもしっかり入っています。「食事になる」といって、男性からも支持されている定番商品です。
パンの元種からお店に並ぶまで7日間
ほんのり甘みを感じる生地の美味しさには理由があります。生地づくりに長い時間をかけているのです。天然酵母を加えた元種をつくるところから蒸しパンがお店に並ぶまでかかる時間は、およそ7日間。発酵の具合を見ながらじっくり待つところが美味しさの秘訣といいます。また、生地には油や卵、乳製品を使っていません。シンプルな材料で時間も手間もかかるため、一日にお店に出せる数が限られてしまいます。「並んで待ってくれたお客さんが買えない時があり、もっと出せたらいいのにと思うこともあります。でも、手間を省くわけにはいかないので、なんともならないところです」と店主の石川信彦さん。
石川信彦さん、育子さんご夫妻が「これだ」と思う蒸しパンに出会ったのは数年前。2020年に定年を迎える予定だった信彦さんは、退職後に夫婦で一緒に何かをやりたいと考えており、探していた中から蒸しパンを見つけました。お菓子づくりも趣味にしていた育子さんと、県外の蒸しパン専門店を訪ねるなどして開業の準備を重ね、2021年2月にお店をオープンしました。
ちょうどよい具材や量に苦心
「苦労したのは、蒸しパンの中に入れる具材と量でした」と、育子さん。「中身や量によっては、蒸している途中で破裂してしまったり、具材が漏れてきてしまったりということがありました」といい、ちょうどよい分量を求めて試作と試食を繰り返したそうです。
店頭には定番商品に加えて、季節限定のものも並びます。春の限定商品は、さくらあんが好評でした。これから開店して初めての夏を迎えますが、「ガパオライス」をイメージしたものや、レモンを入れてはどうだろう、などと楽しいアイディアを練っているところだそうです。
「わが子」をお届けする思いで
お店に並べる先から売れてしまう蒸しパンですが「生地をつくるために長い時間がかかるので、一緒にいると愛着がわいてきます。私たちの蒸しパンは子どものようなもの。大事にお渡ししたいと思っています」と育子さんは笑顔で話してくれました。
それでは、人気商品をいくつかご紹介!一部、特別に断面もお見せしちゃいます。
取材を通して、評判の蒸しパンに出会えてうれしかったです。それにもまして魅力を感じたのは、定年後の人生をともに歩んでいる店主ご夫妻の姿でした。予想外の人気ぶりに戸惑いも感じているそうですが、お二人の暮らしのペースを大事にして、この特別な蒸しパンを届け続けてもらいたいと思いました。