朝のヨーグルト、昼のスープ、夜のごはん。毎日の食卓で何度も手にするスプーンだからこそ、口あたりや手触りは大切にしたいもの。木の質感を生かし、長く使い続けることを前提に作られている「九十九スプーン」。作り手の鎌田学さんにお話を伺いました。

きっかけは木彫りのクマ
鎌田さんが木を彫るようになったきっかけは、奥さんが集めていた木彫りのクマ。2019年、北海道八雲町の木彫り熊資料館を訪れることになり、せっかくなら、行く前に自分で一体彫ってみようと、杉の木材で初めての木彫りに挑戦したそうです。しかし想像以上に難しく、思うように形になりません。気分転換に作ってみたのが、スプーンでした。形にはなったものの、実際に使ってみると口から引き抜きづらく、使い心地はいまひとつ。「使いやすいスプーンって、どんな形なんだろう」。そんな素朴な疑問から、少しずつスプーン作りにのめり込んでいくことになりました。


作り手の視点で見つめ直すと、スプーンは驚くほど機能的で無駄のない、美しい道具だと気づきます。シンプルだからこそ難しく、考えながら2本目、3本目と作り続け、理想の形を探る日々。2020年には秋田市の雑貨店blank+で個展を開催し、意見をもらいながら改良を重ね、現在の形になりました。原点となった木彫りの熊は、初心を忘れないための存在として、今もイベント出店の際には一緒に連れて行っているそうです。

4つの木から生まれる個性
現在使っている木は、ウォールナット、樺、ブラックチェリー、山桜の4種類。硬さがあり、磨くことでなめらかに仕上がる木だけを選んでいます。同じ木から削り出しても、木目や節の表情は一本ずつ異なり、自分だけの一本を選ぶ楽しさがあります。
サイズは、大・小・細長の3種類。大は毎日の食事に、小はデザートやお子さんに、細長はジャムや調味料をすくうのにちょうど良いサイズです。


手間を惜しまない仕上げで、なめらかな使い心地をつくる
ウレタン加工で均一な滑らかさをつくることはせず、木そのものの質感を生かすため、手間がかかっても何度も磨きを重ね、最後にエゴマ油で仕上げています。そうして生まれるのは、木の温もりが生きた、やさしい口あたりのスプーンです。手に取ると、その一本に込められた時間と手間、そして長く使うことを前提とした誠実さが、自然と伝わってきます。


長く使い続けるためのメンテナンス
使い続ける中で生まれる傷や色の変化は短所ではなく、そのスプーンだけが重ねてきた時間の証です。九十九スプーンでは、長く使い続けてもらうため、定期的にメンテナンス会を開催しています。当日は、やすりで表面を整え、オイルを染み込ませてケアをします。大きな割れや折れがなければメンテナンスは無料で、作業時間は15〜30分ほど。メンテナンス会は、作り手・売り手・使い手が一方通行ではなく、ゆるやかにつながり続ける場でもあります。

「子どもがとても気に入り『このスプーンがいい』と言うんです」という声もあります。使いやすいから自然と手に取る機会が増え、毎日の食卓で使い続けるうちに、少しずつ手になじんでいきます。長く使う中で生まれる愛着が、暮らしの中に「大切にしたいもの」がある豊かさを感じさせてくれます。

「九十九(つくも)」という名前に込めた想い
「九十九」には、二つの意味があります。「作るまでは九十九。使っていただいて百になる」という、使われてこそ完成する道具でありたいという想い。そして、長く使われた道具に魂が宿るという「つくも神」の言い伝えです。暮らしに寄り添い、長く大切に使われる一本であってほしいという願いが込められています。

手に取れる場所
秋田県内では、blank+、秋田市文化創造館、Cafeみきょう、和装はきもの小物 加藤で購入できます。また、交点やCafeみきょうでは、実際に食事を提供する際のスプーンとして使われており、使い心地を体験することができます。今後もイベントや出店などの予定はInstagramで確認できます。


使う人と一緒に時間を重ね、育っていく九十九スプーン。新しい暮らしの始まりや、節目の贈りものとして選ぶのも素敵です。丁寧な手仕事で作られた心地よさを、ぜひ手に取って感じてみてください。
※価格は全て税込です
DATA
【九十九スプーン】
<販売店>
blank+(秋田市楢山本町2−2)
秋田市文化創造館(秋田市千秋明徳町3−16)
Cafeみきょう(秋田市中通2丁目1−22 2F)
和装はきもの小物 加藤(大仙市大曲中通町9−20)
