「書道」というと、畳に墨汁をこぼしてしまったり、お手本通りに書けず投げ出したりと残念な思い出がよみがえるワタクシ。けれども、きれいな文字を書けたらいいなという憧れは今でもあります。教室やSNSを通じて「書道の楽しさ」を発信している指導者がいると聞いて、お話をうかがってきました。
小学生から大人まで通う教室
訪ねたのは、男鹿市船越の「三浦きせん書道教室」。小学1年生から60代まで、約40人の生徒さんがいます。男鹿市内と周辺から通う人が多いですが、秋田市や仙北市、県外の方もいます。それぞれ目標をもって大筆、かな、ペン字を学びます。教室には生徒さんの書いた作品がたくさん飾られていて、なかには絵や自分の目標を書いた半紙もありました。自由な雰囲気が伝わってきます。
書道に集中する環境を
「ここは書道する場所、ということを何よりも大切にしています」と、教室を主宰する三浦きせんさん。書道の名、雅号が葵泉(きせん)といい、本名は美鈴さんです。教室にいる間は、集中して書道に向かうようにといつも生徒に話しています。とはいえ、気分に合わせて時におしゃべりをしたり、筆で絵を描いたりするのも大丈夫。「書道教室の楽しみでもあるので、いいことだと思っています」と話します。
お互いに教え合うことも
今年からは、子どもと大人の時間を分けず、一緒にお稽古をするスタイルにしています。子どもたちは上達が早く、机を並べる大人に「こうしたらいいよ」と教える場面が見られるようになったといいます。「書を通して年齢を超えた交流が生まれているのが、とてもいいなと思っています」ときせんさん。子どものいる空間で一緒に書きたい大人は夕方や週末に来たり、一人で見てもらいたい時はすいている時間帯にしたりと、生徒自らが時間を選んで通ってきます。
大切にしているのは「人と比べることは一つもない」ということ。30年以上を筆を持ち続けるきせんさんは今でも「書くことは楽しい!」と感じています。書きたいから書く、それで十分といいます。
成長を見られるのがやりがい
きせんさんが書道を通じて伝えたいのは「人にはそれぞれ魅力や力があり、上達の方法や早さも違う」ということです。「上達への道は決して一つではなく、チャレンジする方法は人それぞれでいいのです」といいます。生徒さんには、まず頑張ったことを認めてから「こうするともっと良くなりますよ」と声を掛けるようにしています。的確なアドバイスで生徒さんの書がぐっと良くなる瞬間があり、やりがいを感じます。一人ひとりの成長がきせんさんのパワーの源です。
きせんさんは小学校低学年から書道に親しみ、大学卒業後に岩手県の私立中高一貫校の書道専門教諭を7年間勤めました。これまで県や全国の書道展での入賞歴も多数。書道が楽しくなったきっかけを聞くと「小学生のころ、字が絵に見えた時」だそう。書かれた字が「きりっとした姿」に見えて、どう書けばいいのか考えずにはいられなかったといいます。今でも「独特な字だけど、おしゃれだな」と感じる時など、思わず観察してしまうそうです。
「男鹿に恩返しがしたい」
生まれ育った男鹿に強い思い入れがあるきせんさん。幼い子どもを育てるシングルマザーとして帰ってきた時、やさしく支えてくれたのが地元の人たちでした。「書道を教えてくれない?と声を掛けてくれたり、教室の場所を提供してもらったりしたことを感謝しています」と言います。一緒に男鹿を盛り上げていこうという仲間もできました。これからも教室や書道の活動を通して、地元の力になりたいと願っています。
書道に興味を持った方は…
きせんさんは教室のほか、SNSを活用して積極的に発信しています。YouTubeの動画配信に挑戦したり、インスタグラムでは「書道ワンポイント30分Live」でおしゃべりを交え字が美しくなるポイントを実演。LINEグループを使ったリモート講座も随時実施していて、国内外どこからでもレッスンを受けられます。気になった方はSNSをのぞいてみてはいかがでしょうか。
丸文字と言われる自分の字にコンプレックスがあります。「読みやすいからOK」と開き直ってきましたが、せめてペン字だけでも美しくなりたい。今からでもきっと遅くない、私も始めてみたいと思わせてくれるきせんさんのお話でした。