2011年に祖父母の農業を継ぎ、夫婦で「OHANA farm(オハナ ファーム)」を営む工藤寿美礼(くどうすみれ)さん。2018年から農薬・化学肥料不使用栽培に取り組み、現在は30品目以上の全ての野菜を、無農薬で栽培しています。手間と時間をかけて丁寧に野菜を育てている工藤さんに、その想いを伺いました。

祖父母の農業を継いで農家の道へ
-農業を継ごうと思った経緯を教えてください。
工藤 「農業の道に進みたい」と思うようになったのは、地元の農業高校に通っていたときです。もともと「将来は農業をやりたい」と思って入学したわけではないのですが、畑での実習などがすごく楽しかったんです。小さい頃からおじいちゃんっ子で、よく畑について行っていたので、自然と畑仕事に馴染めたというのも大きかったと思います。高校を卒業し、岩手県の農業短大に進学した頃には、「祖父母の畑を継ぎたい」と思うようになっていました。ちょうどその頃、父が病気で亡くなり、「私が継がないと、畑は祖父母の代で終わりなんだ」と実感したことも理由の一つです。祖父には「継がなくていい」と言われましたが、私はとにかく農業がやりたかったので、他の道は全く考えていなくて。短大卒業と同時に、短大で出会った夫と一緒に帰郷して農業を継ぎました。

-現在、何種類くらいの野菜を栽培しているのでしょうか?
工藤 1.2haの畑で、年間30品目以上の野菜を、全て農薬や化学肥料を使わずに育てています。種類が多く、しかも無農薬なので、機械ではできない工程が多くて、すごく手間がかかるんです。たまに母が手伝ってくれますが、基本的には夫と2人で手作業で行っているので、いつも人手が足りないですね。そのほか、時期に合わせて花きを栽培し、田んぼで米作りもしています。

-「OHANA farm」の由来を教えてください。
「OHANA」は、ハワイの言葉で「家族」という意味です。私たち夫婦と私の母の3人での家族経営であることに加え、「野菜で家族を笑顔にしたい」「お客さんにとって、いつでも気軽に立ち寄れるような、アットホームで楽しい農園でありたい」という想いを込めています。加えて、野菜を育てるうえで、花は実や種をつけるために欠かせない存在ですし、私自身の「すみれ」という名前も花にちなんでいるので、それらの意味も込めています。
やりがいと楽しさを求めて辿り着いた無農薬栽培
-無農薬栽培に取り組みはじめたきっかけを教えてください。
工藤 畑を継いだばかりの頃は慣行栽培をしていたのですが、あるとき夫が、産直のお客さんに、「この野菜のこだわりは?」と聞かれたんです。でも、何も思いつかなくて。改めて、自分たちがこだわりたいことや、やりたい農業の形を考え直すきっかけになりました。それで、以前から関心があった農薬・化学不使用栽培に切り替えていこうということになりました。
-無農薬栽培に関心を持ったのはどうしてでしょうか?
工藤 「自分たちの手で、一から作ってみたい」という気持ちが大きいです。「せっかく農業をやるなら、そっちの方が面白いんじゃないか」と。土も肥料も、自然にある材料を使って、自分たちで作っているんです。私たちは慣行栽培もやっていたから、農薬=危険というわけではないことはわかっていますし、どちらの方法もそれぞれの大変さがあることを知っています。その上で、自分たちなりのやりがいや楽しさを求めた結果として、行きついたのが無農薬なんです。
加えて、無農薬・有機野菜の需要に、可能性も感じていました。実際、有機野菜を求めている人は多くいるけれど、作る人は少ないんです。今後、もっと無農薬に取り組む農家が増えたらいいなと思っています。
-慣行栽培から無農薬栽培に切り替えるのは、大変だったのでは?
工藤 大変でした。農薬を使わないとなると、他の方法で虫がつかないようにしなくてはいけないのですが、無農薬と一口に言っても、野菜の種類によってそれぞれやり方が違うんです。私も夫も農業の学校を出ていますが、習ったのは慣行栽培だけだったので、本やネットで調べながら、いろんな方法を試しました。試行錯誤を繰り返しながら徐々に切り替えていき、2019年には全ての野菜を農薬・化学不使用栽培に切り替えました。

有機野菜を求めている人に届けたい
-OHANA farmの野菜は、どこで販売していますか?
工藤 店頭では、大館市の産直施設「旬菜館」と、能代市の「道の駅ふたつい」、JR大館駅構内のコーナー「THE ODATE より見世」で販売しています。(※「THE ODATE より見世」での販売は不定期)また、無農薬野菜宅配サービスの「ベジ楽便」でも取り扱っていただいています。加えて、ネット通販の「ポケマル」にも出店しているほか、市内の飲食店にも提供しています。その日の朝採れた野菜を納品することも多く、収穫の数時間後にはお客さんの手に渡っていることもあります。特に「ベジ楽便」はロスがなく、有機野菜を求めている人に新鮮な野菜が直接届くので、すごく嬉しいですね。

-工藤さんが、農家として大事にしていることを教えてください。
工藤 当たり前ですが、ちゃんとおいしいものを作らないといけないと思っています。何より、私自身が野菜が大好きなので、おいしい野菜が食べたいし、作りたい。だから、本当においしいものが収穫できるように、日々の畑の管理にはかなり気を付けています。
-栽培方法以外で、工夫していることはありますか?
工藤 ラッピングにも気を使っています。デザイナーをしている姉にOHANA farmオリジナルのロゴを作ってもらったのですが、それをシールやタグにして、産直などで販売する際の目印にしています。他にも、テープの色を変えたり、POPを出して無農薬であることをアピールしたりと、購入するお客さんの目に付くように工夫しています。

-毎日かなり多忙だと思いますが、ストレスを感じることはないのでしょうか?
工藤 あんまりないですね。休みらしい休みは基本的にありませんが、自営業なので比較的自由がきくし、野菜が相手だと、人間関係のストレスもないんです。子どもたちが休みのときは、一緒に畑仕事をしたり、畑で遊んでもらったりしているので、家族の時間も作れています。…ただ、収穫期の朝は本当に大変です!朝収穫した野菜を、産直や道の駅の開店時間に間に合うように届けるのですが、同時に子どもたちの支度を済ませて、学校や保育園に送り届けなくてはいけないんです。とにかくバタバタですが、夫と協力してどうにかやっています。

-今後、やってみたいことはありますか?
工藤 やはり何よりも、私たちが作った野菜をもっと手に取って、食べてもらいたいです。有機・無農薬野菜を求めている人は本当にたくさんいるんです。そういう人たちにもっと届くように、私たちが無農薬野菜を作っているということを知ってもらう努力を続けていきたいです。
青空が広がる畑がよく似合う、明るい笑顔が印象的な工藤さん。自然が相手の仕事は一筋縄ではいかないことも多いといいますが、天候や気候と相談しながら農家の仕事を楽しんでいるようでした。産直や道の駅で「OHANA farm」のマークを見つけたら、ぜひ手に取ってみてください。自然の恵みがギュッと詰まったおいしい野菜たちは、きっとあなたのお気に入りになりますよ。
DATA
【工藤寿美礼さん】
大館市出身。秋田県立鷹巣農林高等学校(現・秋田北鷹高等学校)を卒業後、岩手県立農業大学校に進学。卒業と同時に帰郷し、祖父から農地を受け継ぐ形で就農。2018年に屋号を「OHANA farm」に変更し、農薬・化学肥料不使用栽培に着手。2019年からは全ての野菜と花きを、農薬を使わずに育てている。8歳男の子と4歳女の子の母でもある。趣味は観葉植物。