石田万梨奈さんはonozucolor代表として、「みんなが持てる力を活かして働ける秋田」を目指して活動しています。これまでのような経済成長が期待できず人口減少が進む秋田で、新たな幸せや価値観を見出すことが大切になるといいます。「未知の課題に取り組むことが好き」という石田さんに、仕事にかける思いを伺いました。

個人と組織の両方が伸びる組織づくり
─現在取り組んでいることについて教えてください。
石田 企業がより個人の強みや価値観を生かす場になってほしいと思っています。個人の力が最大限に発揮できれば業績を上げることができて会社にもメリットになりますから。個人の強みや価値観を知るには対話することが大切です。社内対話によって組織づくりを進めるなど、それぞれの課題に応じた研修などを行っています。

地域おこし協力隊として移住
─2014年に地域おこし協力隊として五城目町に移住したことから、秋田との関わりが始まっていますね。
石田 それまで社会人として、東京でメディアやソーシャル・マーケティングなどさまざまな仕事をしてきました。振り返ると30代半ばになったところでキャリアの転換期があり「とにかくわくわくすることがしたい」と思うようになったのです。ちょうど地域おこし協力隊制度が始まったタイミングで、もともと地方に興味があったので全国でポストを探しました。

─五城目町にした決め手は何ですか?
石田 ハバタク株式会社代表の丑田俊輔さんたちに出会ったことが大きかったと思います。丑田さんも移住者。彼が五城目町を「世界一子どもが育つ町にしたい」と言ったことに共感しました。このメンバーでそういった目標があったら面白いことができそう、インパクトのあることができそうだと思いました。

五城目朝市の盛り上げに貢献
─「ごじょうめ朝市plus+」の事業をプロデュースされましたね。
石田 協力隊の任務は移住定住支援、創業支援といった内容でした。朝市というのは偶然の出会いが生まれる場所なんですね。もともと歴史ある五城目朝市があり、そこを「何かをやりたい」と思っている人のスタートアップの場にしたいと思いました。仲間と「五城目朝市わくわく盛り上げ隊」を結成して、週末と重なる朝市の開催日を「ごじょうめ朝市plus+」、通称朝ぷらとしてPRしました。朝ぷらは新しい出店者と町内外の客でにぎわうように。さらに、さまざまな事業を通して町への移住者が増え、商店街にお店を開くなど起業する人たちが出てきたこともうれしかったです。
経験を生かして組織開発、人材開発へ
─協力隊の活動を終え、次のステップにどう進みましたか?
石田 五城目町での経験をベースに、もっと人の持てる力が活かされる秋田にするために仕事がしたいと思いつつ、「何屋さんになればいいのか?」ということが課題でした。キャリア系の事業を秋田県から受託したり国家資格のキャリアコンサルタントを取ったりするなかで、組織開発や人材開発という自分の興味や得意分野がはっきりと見えてきたと感じています。
屋号のonozucolor(オノズカラー)は「おのずから」という言葉と、各々の色という両方の意味があります。「おのずから」は自然に、ひとりでにという意味。それぞれの人の力が自然とにじみ出てくる、そんな支援を目指しています。

自分を知ることで分かることがある
─石田さんが掲げる「持てる力を生かして生きる、働く」というのは、どのように実現できるでしょうか?
石田 自分自身への理解を深めることがカギになると思います。自分の価値観や興味、得意なことを掘り下げる、例えば「何をすると楽しいか」といったことについて深く考えてみてもらいたいと思います。自分をよく理解することで「だったらこういうことがやりたいかも」「こういうことが向いているのではないか」というイメージをつかんでもらいたい。専門的にはその人の価値観、興味、得意なことを「自分軸」と言いますが、自分軸に沿った生き方、働き方ができることが充実感や幸せにつながると考えています。

これまでにない課題に取り組む
─人口減少が進む地方での、幸せのあり方とは?
石田 私は自分の中で「幸せとは何なのか」という問いをずっと持ってきました。これまでの高度経済成長的な幸せではなく、今はこれまでとは違った幸せを考える段階に入っていると思います。人口減少が進む中で、どう幸せを見つけていくかに関心があります。地方には、新しい幸せの形を見つけていく楽しみがあると思います。人口減少には不安もありますが、まだ見ぬ課題に向き合って前向きに取り組んでいきたいです。

─現在も地域おこし協力隊事業の活動を続けていますね。
石田 2022年から「秋田地域おこし協力隊ネットワーク」の代表を務めています。地域おこし協力隊のOB、OGによる組織で、県の受託事業として地域おこし協力隊員の研修などを行います。市町村向けには隊員募集の支援などを実施しています。9月にHPを公開予定で準備を進めています。

─これから石田さんがやりたいことは何でしょうか。
石田 「みんなが幸せに過ごせるような組織や地域を創る」ことを目指して支援や活動をしていきたいです。組織内のよりよい対話ができるワークショップなども進めています。個人を活かす組織が増えていくことで、将来的には働きやすい環境や風土が育まれていくと信じています。それから、小中学校段階でのキャリア教育を充実させたい。小さなうちからそれぞれの自分軸を知っておくことで企業とのミスマッチや早期離職を減らすことにもつながると思います。
「都会の生活よりも、地方の未来に可能性を感じた」という石田さん。「課題解決やイノベーションを起こすこと」「人口減少時代の幸福追求という未知の課題」にワクワクするといい、その姿勢が地域に変化を起こしてきたのだと感じました。個人の中にある思いを対話によって引き出し、その人が自分から動き出すことに喜びを感じてきたといいます。私も自分についてあらためて探ってみたくなりました。
DATA
【石田万梨奈さん】
東京都出身。大学卒業後、メディアの仕事や公共施設でのソーシャル・マーケティングを経験。2014年に五城目町に移住。3年間、五城目町の地域おこし協力隊として移住定住支援、企業支援に取り組む。「ごじょうめ朝市plus+」のプロデュース、五城目高校のキャリアプロジェクトなどを手掛ける。任期後、国家資格キャリアコンサルタントなどを取得。2017年、onozucolor設立。企業の組織開発、人材開発などを行っている。あきた地域おこし協力隊ネットワーク(Local Collaborators Akita)の代表でもあり、自治体の協力隊制度活用支援を通じて地域づくりに取り組む。秋田県総合政策審議委員(2023年度~)。夫と秋田市在住(2020年~)。
Facebook
秋田県地域おこし協力隊ネットワーク HP(9月に公開予定)