2018年、大仙市大曲に誕生した「焼きたてパン ポッポ」。関東で修業を積んだ小泉佳織さんが、夫婦で夢を形にしたまちのパン屋さんです。地域の温かな応援に支えられ、現在は一人でお店を切り盛りしながらも、毎日心を込めたパンを焼き続けています。今回は、小泉さんのこれまでの道のりを伺いました。

料理好きがパン職人に
ーパン職人を目指したきっかけを教えてください。
小泉 小さい頃から料理やお菓子作り、パン作りが好きだったんです。大仙市で生まれ地元の高校卒業後は、盛岡の調理師専門学校に進学して、和食から洋食、スイーツまで幅広く学びました。その中でもパン作りが一番楽しくて、「これだ!」と決心してパン屋の道に進みました。

ー卒業後はどちらで修業されたのですか?
小泉 専門学校在学中に実習でお世話になった、八王子の個人経営のパン屋さんに就職しました。朝2時に起きて会社に向かい夜19時まで働き、週1の休みだけが唯一の息抜き。想像以上に厳しい環境でしたが、そんな中で主人と出会います。彼も同期で、10歳年上でしたが、仕事に真剣に取り組む姿が印象的でした。
ーその後のキャリアはどのように?
小泉 八王子のパン屋さんに1年半ほど勤めた後、私は神奈川県のパン屋さんに転職したんです。転職先は女性だけのユニークなパン屋さんで、それぞれが責任を持って仕事ができる環境でした。仕込みやレジ、店長など色々な経験をさせてもらい、とても成長できたと思います。この頃に結婚して出産もしました。
ー独立への想いはいつ頃から?
小泉 いずれは夫婦でお店を開きたいという夢はありましたが、なかなか行動には移せませんでした。ただ、主人が40歳になるまでには独立したいという思いが強く、横浜市など東京周辺で物件を探していたんです。でも良い出会いがなく、実現できないまま日々が過ぎていきました。
故郷で叶えた夫婦の夢
ー秋田にUターンしようと思ったきっかけは?
小泉 「秋田でお店をやってみてもいいのでは?」と私から主人に話してみたんです。東京で生まれ育った人なので驚かれるかと思ったら、意外にも前向きで、そのまま物件探しを始めることになりました。私自身はずっと秋田に戻りたいという思いがあったので、決断してくれた主人には感謝の気持ちでいっぱいです。

ー物件はすぐに見つかったのですか?
小泉 大曲で紹介された物件は、なんとすぐにでも解体予定という状況でした。時間がない中で主人が内見に行き、その場で即決。私の実家が建設業だったこともあり、リフォームをして理想のお店を完成させることができました。秋田でやると決めてからは、引越しやオープンまでの流れは本当にスピーディーで、まさに運命だったと思います。

ー店名「焼きたてパン ポッポ」の由来は?
小泉 息子が電車「ポッポ」が大好きだったんです。おじいちゃんやおばあちゃん、小さい子でも覚えやすい名前がいいと思って「ポッポ」にしました。店内の至る所に息子の好きな乗り物がディスプレイされています。

順調なスタートから試練を乗り越えて
ー2018年のオープンから現在まで、どんな出来事がありましたか?
小泉 オープンから3か月ほどは、準備したパンが昼には売り切れるほどの大盛況で、忙しさのあまり記憶がないほどです。順調に常連さんも増えていく中、2023年に大きな試練が訪れました。
最愛の主人が病気で亡くなり、お店は一時休業を余儀なくされる状況に。それでも「私にはパン屋しかない」という思いで再開を決め、お客様の温かい声に励まされながら、今年で6周年を迎えることができ、感慨深い日々を過ごしています。

ー地域の方々からは、どのような応援があったのでしょうか?
小泉 メールをもらったり、お店に来て「頑張っているね」と声をかけてくれたり、差し入れを持ってきてくれる人も。何気ない気遣いがすごく励みになりましたし、感謝の気持ちでいっぱいです。現在は母やパートさんにも手伝ってもらって少しずつ前に進んでいます。

ー一人でお店を切り盛りするようになって、変化はありますか?
小泉 前よりできることが増えているんです。パンを作れる量や種類が圧倒的に増えました。気がつかないうちにどんどんスキルが磨かれている感じがします。それがすごく嬉しいんです。改めてパン作りが好きだと再確認しましたし、もっと上手になりたいという気持ちも大きくなっています。

受け継がれる想いと看板商品
ー人気商品について教えてください。
小泉 売れ筋は「極ふわメロンパン」です。沖縄産黒糖を使ってふっくら柔らかく仕上げています。ヒマラヤ岩塩の「塩パン」もオープンからずっと変わらない人気商品です。遠方からわざわざ訪れるお客さんもいて、焼きたてのパンを手に取る笑顔を見るのが何よりの喜びです。

ーメロンパンは特別な商品なのですね。
小泉 はい、主人と一緒に考案したものなんです。主人が修業先で教わったものを、自分たちなりにアレンジしました。小さいお子さんでもお年寄りでも食べやすいように、今でも大切に作り続けています。

ー今後の目標を教えてください。
小泉 息子は今9歳ですが、大きくなったらパン屋さんになりたいと言っています。それまでは絶対やめられないと思っています。毎日でも食べてもらえるようなおいしいパンを作り続け、皆さんの期待に応えられるよう、これからもお店を守っていきたいです。

夫婦で描いた夢を胸に、今日もパンを焼き続ける小泉さん。店内には、家族や常連さんへの愛情が詰まっています。お客さんが来るたびに嬉しそうに接客する姿が印象的です。小泉さんの手作りパン、ぜひお店で手に取ってみてください。