農家さんから野菜を仕入れ、消費者に野菜を届けるサービス「つなぐ便」を主宰する伊藤貴子さん。伊藤さんは2023年9月に野菜の宅配サービス「つなぐ便」を始め、配達先を口コミなどで約80戸にまで増やしました。農薬などを使わずに育てた農家直送の野菜は「生のままでおいしい」「新鮮で安心」と好評です。伊藤さんは「秋田の農家さんに農業を続けてもらいたい」「生産者と消費者をつなげたい」といった思いで日々野菜と向き合っています。
農家から直接仕入れて、消費者へ
伊藤さんの一日は、野菜の仕入れから始まります。朝7時過ぎ、秋田市郊外の生産者から野菜を受け取ります。「今日はほうれん草と春菊、そして長ネギね」と生産者の中島府貴子さん。受け取った野菜は、それぞれ希望者のもとへ届けます。この日の配達先は、個人のお宅のほか保育施設もありました。「ほうれん草の葉の部分は、生のままサラダで食べられますよ」といったひとことを添えて渡すことも。「直接お届けすることで、おいしかったというお客さんの反応を農家さんにお返しできます」と伊藤さん。
仕事中心の生活を見直す
「つなぐ便」の事業は、伊藤さんがひとりで立ち上げました。その大きな理由が、食の力を実感したことにあります。野菜中心の食事で自分自身が変わったことから、地域の野菜に興味を持ち、さらに野菜のつくり手を応援したいと思うようになったのです。
伊藤さんは20年ほど前、結婚を機に新潟県から秋田市へ。以来、会社員として仕事に没頭していたといいます。仕事一筋の伊藤さんに訪れた転機が、7年前の兄の死でした。「仲の良かったきょうだいの不在に落ち込みました。当時娘が7歳で、私は娘のためになんとしても長生きしなければ!と思ったのです」。初めに見直したのが食生活でした。
「野菜で事業をしたい」と独立
食事や食育について学び、野菜と玄米中心の食事に切り替えたところ、無理なく6キロほど減量でき、効果を実感しました。できるだけ地物のものをと野菜を探したり、味噌づくりを体験したりするなかで、中島さんら野菜の生産者とつながるようになりました。
もともと起業志向があり「野菜で起業したい」と狙いを決め、2022年9月に会社員を辞めて活動に専念することに。「とはいえ、はっきりした事業のイメージは持っていませんでした」
「自分で野菜を届けてみよう」
農作業を手伝うなどしていて伊藤さんの頭に浮かんだのが「近くに野菜はあるけれど、届ける人がいないのではないか」ということでした。例えば育ち過ぎた葉物は「規格外」として市場に出すことができません。でも、味や品質は変わらない。そこで伊藤さんは、無農薬で育てられた野菜を仕入れ、1500円のセットにして売ってみることにしました。中身の野菜はお任せで、その時採れたもの。生産者にとっては、その時ある分の野菜や規格外品を出荷するのでロスが出ない利点があります。
宅配サービスを始める
こうして2023年9月に週に一度野菜を届ける「つなぐ便」をスタート。飛び込みで生産者に交渉するなどして、取り扱う野菜の種類も増やしてきました。当初10軒ほどだった届け先は、2024年3月までに口コミなどで約80軒にまで増えています。このほか、県内各地のイベントに出店したり、県庁売店や店舗で委託販売を行うなど、秋田県内で生産される野菜を知ってもらう活動を続けています。
「野菜をつくり続けてもらいたい」
野菜の端境期のため、休業期間を経て6月から宅配サービスを再開する予定です。「これからは無理のない範囲で、100軒ほどを上限にするつもり」といいます。
今後は「野菜を通して県内の農家さんを応援するコミュニティを作りたい」と、構想をあたためているところ。「私に野菜を卸してくれる農家さんは、30~40代の若い世代が中心。農家さんにぜひとも野菜をつくり続けてもらいたい」と、伊藤さんは熱く語ってくれました。
以前は仕事最優先で、食事にまったく気を遣っていなかったという伊藤さん。おいしい野菜を食べ続けるためには、つくり手を応援しなければ!という熱い思いに共感しました。伊藤さんは「こうしたらよくなるのでは」と課題を見つけ、これからもアイディア満載で活動していくことと思います。私も「食べて応援」します!
【つなぐ便・今後の出店予定】
5月18日 10:00~16:00 松倉おいしいものDAY(秋田市・旧松倉家住宅)
山菜など旬の野菜を販売します。併せて、グルメストアフクシマ(男鹿市)のコロッケも登場予定。※売り切れ次第終了となります