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【先輩womanに聞く】子育てと仕事を両立し、女性が輝くには? 〜麓 幸子さん〜

さまざまな分野で活躍している人生の先輩にインタビューをする【先輩womanに聞く】シリーズ。第3回目のゲストは、元『日経WOMAN』編集長麓(ふもと)幸子さんです。現在、作家・ジャーナリストとして活躍するかたわら、ジェンダー平等と共生社会の実現に向けて幅広く活動をしている麓さんに、a.woman編集長の北林がインタビューしました。

(大館市比内町にオープンした「カフェふもと」にて。麓さん(左)と北林編集長(右))

東京でのキャリアを生かし、ふるさとで心地よく暮らす

北林:麓さんの経歴を教えてください。

麓:筑波大学を卒業後、日経BP社に入社しました。2006年から2012年まで『日経WOMAN』編集長、その後、日経BP執行役員などを務め、2019年に退社して故郷・大館に戻りました。
現在は、作家・ジャーナリストとしてジェンダー平等や女性活躍に関する講演・執筆活動のほか、東京に本社がある東証上場企業の社外取締役障害者就労支援施設、高齢者対象のデイサービスや訪問看護ステーションの運営、実家の家業である火薬・実砲販売業の経営などに携わっています。さらにボランタリーな活動として知的障害者とその家族を支援する「大館市手をつなぐ育成会」の会長などもしています。カフェも運営していますね。

北林:とてもお忙しそうですね! 東京で暮らしていた時と比べて、今の生活はいかがですか?

麓:仕事とボランタリーな活動を合わせて13の肩書きを持っているので、それなりに忙しいですが、勤めていた時と違って自己裁量で動けるため、忙しさの種類が違うと感じています。また、大館に戻ってきてから生活の質がグッと上がりました。里山の自然に囲まれ、季節を感じながら生活できて、帰ってきて良かったと心から思います。

(大館市比内町の大根畑での麓さん。ここで育てた大根を使い、農福連携でいぶりがっこを作って、ネット等で販売しています。写真提供/麓幸子さん)

保育園のあとに子どもを預かってくれたのは、近所のシッターさん

北林:『日経WOMAN』編集長時代は、どのような働き方でしたか?

麓:繁忙期は一週間の睡眠時間の合計が、10時間以下ということもありました。夫婦どちらの実家も遠くて頼れないので、「どうやって子育てしよう」と悩みました。保育園が終わったあと、私が帰宅する22時まで子どもを預かってもらえる「二重保育」の場所を探したんです。世話をする人が毎日変わると子どもにとって負担になってしまうので、同じシッターさんにお願いしたいと伝えたところ、どこのシッター会社でも断られてしまって…。最後の手段として手作りのビラを配りました。

北林:ええっ?! ビラですか!

麓:近所に手当たり次第ポスティングし、いろいろなご縁があって保育園にパート勤務していたH先生にお願いすることにしました。H先生が保育園に子どもたちを迎えに行って、お風呂に入れて晩ご飯を食べさせ、寝る間際に私がH先生の家に迎えに行って子どもたちを引き取る、という生活スタイルです。子どもたちは当時を振り返って「寂しかった」とも言いますが、同時にH先生のお子さんに遊んでもらって楽しかったこともよく覚えているようです。

(1989年。生後3カ月の息子さんと。写真提供/麓幸子さん)

精神的に大変だったのは、子どもたちが思春期の頃

麓:手のかかる幼児期を抜けた頃に、思わぬ落とし穴がありました。ある日、ニュースを見ていた当時小6の長男に「保健室登校って何?」と聞かれ、「学校へ行っても教室に入れなくて、保健室で過ごす子のことだよ」と言ったら、少し沈黙したあと「お母さん、それ、僕のことだ」と一筋の涙を流したのです。よく聞いたら、クラスでいじめにあっていて、休み時間は保健室で過ごしていたんです。すぐに担任の先生にお話ししてPTAの集まりを開いてもらい、いじめは止んだのですが、「親には心配かけまいとして話さないんだな…」と痛感しました。

(2012年。娘さんの20歳のお祝いに2人で旅行。写真提供/麓幸子さん)

麓:長女が小学校高学年の時には、ネガティブなことをたくさん書いた紙が娘の机の上にあって、びっくりしたこともありました。カウンセラーの先生に相談したところ「お母さんに見えるところに置いてあるのは、お子さんからのサインですよ」と言われ、娘と一緒に過ごす時間を作るようにしました。仕事が忙しくて時間は短かったのですが、その分娘とじっくり向き合い、濃い時間にしようと心がけました。

社内初のワーキングマザー編集長、働き方改革に取り組む!

(2008年。『日経WOMAN』編集長時代、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の記者会見で。写真提供/麓幸子さん)

北林:編集長という立場で、子育てと両立するのは難しかったのではないですか?

麓:編集長になって最初に取り組んだのが、仕事を効率化することでした。子育てで時間の制約がある人も働ける職場にしたいと、無駄な会議を減らし、原稿はどこで書いてもOKとしました。今でいう「リモートワーク」を推進したのです。

北林:大きな変革をして、周囲から何か言われることはありませんでしたか?

麓:編集部の運営は全て編集長に任されていたので、いい雑誌を作り、たくさん部数を売って利益を上げていればOKでした。私の場合、昇進したほうがワークライフバランスが取れたんです。だから、女性はどんどんリーダーになったほうがいい。そうしたら責任も増えますが、楽になることも多いと思います。

「革命の夜」から夫の育児参画へ

北林:でも、それは麓さんがスーパーウーマンだったから…?

麓:私はスーパーウーマンじゃないですよ。編集長になりたての頃、部下からも評価される「360度評価」というのがあったんです。当時、雑誌の売り上げが良くて少し調子に乗っていて、「いい評価をもらえるかな」と期待していたんですけど、蓋を開けてみたら部下からの評価がかなり低くて…大号泣しました。それを機に、部下がどう思っているかは1対1で話を聞かないと分からないのだなと思い、傾聴と対話を大事にするようになりました。また、自分が育児と両立する上で葛藤したことを改善するように心がけました。私が仕事と育児を両立できたのは、職場の方の理解と、子どもたちが健康でいてくれたこと、そして夫の協力があったからだと思っています。

北林:旦那様も協力してくださったんですね!

麓:最初から協力的だったわけではないんですよ。私は、毎晩22時にシッターさんの家に子どもたちを迎えに行くのですが、夫は時間など気にせず子どもがいない時と同じように残業していました。ある時、深夜に帰宅した夫に「もっと育児しろー!」って叫んだんですよ。「私は仕事を続けたい! もっと思いきり仕事をしたい! あなたが家事・育児をしてくれないと苦しくてしょうがない! あなたにもやってほしい!」と泣きながら伝えたんです。そうしたら、夫が変わりましたね。その夜を「革命の夜」って呼んでいるんです(笑)

良い妻、良い母であろうとして、自分をしばらないで

麓:子育てしながら働く女性って、罪悪感に悩んでいますよね。「お母さんが忙しくてごめんね」「遅くまで預けてごめんね」と。でも、夫はそんなふうに悩むことなく、思いっきり仕事ができている。自分で自分を苦しめていただけなんだ、と気づいた時、「良い母親像を追いかけるのはやめて、もっと自分を褒めよう」と思ったんです。

北林:どうやって自分を褒めましたか?

麓:私はずっと「3年日記」をつけているんですけど、日記を見返すことが「大きな壁があってもちゃんと乗り越えてきてる。または、乗り越えなくても上手に回避できている」と、うまくやれている自分を発見することにつながりました。それから、1日に15分でも30分でもいいから自分だけの時間を持つようにしました。何も考えずに、頭の中を空っぽにして近くの井の頭公園を、朝散歩していましたよ。

自信を持って、自分の思いをもっと伝えて

(「カフェふもと」の店内には、デイサービスに通う高齢者がつくった色とりどりのちぎり絵が飾られています)

北林:最後に、働くお母さんたちにメッセージをお願いします!

麓:子育てと仕事を頑張るお母さん、罪悪感を持つ必要はないですよ。子どもは絶対、お母さんが大好きです。私が編集長になった時、一番喜んでくれたのは中学生の娘でした。夜に帰宅したら手紙が置いてあって「おめでとう! せっかく編集長になったんだから、身を粉にして働きなさい」って書いてあって…思いっきり上から目線ですよね(笑)。でもその時、忙しくて寂しい思いもさせたけれど娘は私を肯定し、応援してくれたと感じました。今、彼女は私と同じくマスコミ業界で働いて、もうすぐ母となります。

それから、「自分の可能性に蓋をしないで」と伝えたいです。日本の女性は、とても真面目で優秀ですが、自尊感情が低い傾向があります。目標を達成しなければ、成果を上げなければと考えて悩んでしまいがちですが、成果を上げなくても堂々とのさばっている男性はたくさんいます(笑)。あなたはいろんなことができる素晴らしい人! だから、チャンスがきたときは迷わずゲットしてほしいです。

北林:まさか、ずっと愛読している『日経WOMAN』の元編集長に会えるなんて! 麓さんの強くてやさしい言葉に何度もうるっとしました。麓さんのような先駆者の方達がいたから、今女性が働きやすい環境が整備されてきたんですね。a.womanも秋田の働く女性の力になっていきたい! と思いました。

★10/15(土)秋田市主催「誰もが活躍推進フェスタ2022」でゲストとして登場します!詳しくはこちらから

DATA

【麓 幸子さん プロフィール】
秋田県大館市出身。筑波大学を卒業後、日経BP社に入社。日経ウーマン編集長、日経ウーマンオンライン編集長、日経BP社ビズライフ局長、日経BP社執行役員、日経BP総研マーケティング戦略研究所長、日経BP総研フェローを務める。2019年に退社し、大館市に帰郷。
現在は、仕事として作家・ジャーナリスト、ジェンダー平等・女性活躍に関する講演、一般社団法人敬友代表理事、(株)なが岡取締役、(株)でんろく取締役、東証上場企業のユーピーアール(株)社外取締役などを行うかたわら、大館市手をつなぐ育成会会長などボランタリーな活動も幅広く行っている。
また、農福連携に取り組み、畑で育てた大根で作ったいぶりがっこは「比内ヒルズストア」で販売している。

著書
イマドキ女性管理職の働き方』『地方を変える女性たち』『女性活躍の教科書』『企業力を高める–女性の活躍と働き方改革』『就活生の親が今、知っておきたいこと』ほか多数。

ふもと幸子オフィシャルブログ

Writer

Makiko

Makiko

有限会社無明舎出版勤務を経て、フリーライターとして、雑誌、フリーペーパー、WEBなどの記事を執筆。秋田県大館市在住。秋田県北を中心に、秋田の観光・食・子育て・話題のスポット・スポーツなどについて発信しています。 mama plan(ママプラン)所属
https://mamaplanodate.net/information/

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