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曾祖父の代から続く大切な場所で、お客さんが喜ぶものを提供し続けたい

大正堂 since 1933 菊池 斐香さん

昭和8年の創業から90年以上にわたり、地元住民に愛されてきた老舗洋菓子店「大正堂(たいしょうどう)」の四代目である菊池斐香(きくちあやか)さん。4歳と2歳の男の子を育てながら、4つの事業を営む会社の取締役として多忙を極める菊池さんに、お話を伺いました。

「絶対に無くしたくない場所」を守りたい

ーこれまでの経歴を教えてください。

菊池 地元の高校を卒業した後、東京の製菓学校に進学しました。卒業後は、世界的パティシエの辻口博啓シェフの店で1年間修行して、その後は代々木や神奈川のカフェで働きました。いずれ大正堂を継ぐつもりだったので、家族から「そろそろ帰って来てほしい」と言われて2011年に帰郷し、家業に加わりました。

ー地元に帰って後を継ぐことに対して、抵抗や反発はありませんでしたか?

菊池 全くなかったです。というか、子どもの頃から継ぐのが当たり前だったので、それ以外の将来を考えたことがないんです。高校は簿記を学ぶために商業高校、製菓学校は父の母校と、敷かれたレールの上を走ってきました(笑)。

ーでは、いざ帰郷が決まった時も迷わなかったのでしょうか?

菊池 ちょっと迷いました。当時働いていたカフェでは、店をほぼ任せてもらっていたので、常連さんと一緒にいろんなことをやっていたんです。ジャズミュージシャンやDJなど、いろんな人が店に来ていたので、マッチングして音楽イベントをやったり。外国人のお客さんに英会話教室をやってもらったこともあります。すごく楽しかったし、独立して自分の店を持つことも考えたけど、やっぱり「大正堂を絶対に無くしたくない」という気持ちが勝って。

ー「絶対に無くしたくない」と思う理由は何ですか?

菊池 「みんなが守り続けてきたものを守らなきゃ」という想いが強いです。曾祖父が創業して、祖父、父と受け継がれるなかで、頑張ってる姿をずっと見てきたし、大事なお客さんもいるので。もともと私は、お菓子が好きでパティシエになったわけではないんです。とにかく家業を守りたくて、それがたまたまお菓子屋だった。だから、業種が何であっても変わらなかったと思います。「もっと楽に稼げる仕事はいっぱいあるのに、なんでお菓子屋なんだろう」と思うこともいっぱいあります。

多忙な日々も乗り切るバイタリティー

ー普段はどんな仕事をしていますか?

菊池 営業日は店でお菓子を作り、定休日は経理や事務仕事に追われています。菓子店の大正堂だけでなく、掃除用品サービスのダスキン、高齢者向けのお弁当宅配サービス、八戸市にある飲食店と、4つの事業を運営しているので、休みはほぼないです。

(店が休みの日はダスキン北秋本社で事務仕事に明け暮れる。社員とも家族のように仲が良く、和やかな雰囲気)

ー2人のお子さんの育児中とのことですが、両立が大変じゃないですか?

菊池 家のことや子どものことは夫がなんでもやってくれるので、あんまり大変だと思ったことはないんです。個人事業主でIT関係の仕事をしている夫とは、2019年に結婚しました。夫の両親も私の仕事のことを理解してくれるので、仕事に集中できています。普通の家庭とはちょっと違うかもしれないけど、すごくありがたいです。ただ、休みがないので全然子どもと一緒にいられないんですよね。

(2人の男の子を育てる母でもある。※写真提供:大正堂 since 1933

ー産休・育休はあったのでしょうか?

菊池 1人目も2人目も、産まれる当日まで仕事をしていました。産後は一か月休みましたが、その後は抱っこでお店に立ったり、会社にベビーベッドを置いたりして働いてましたね。私にとっては仕事をしている状態の方が普通なので、大変だとは思わなかったです。

ーお話から、すごいバイタリティーを感じます!

菊池 そうですね、どこでも生きていけると思います(笑)。

新店舗への移転で自由になれた

ー2023年7月に大館駅前から店舗を移転しましたが、きっかけは何だったのでしょうか?

菊池 移転は何年も前からずっと考えていました。一度、私のやりたいことを全部盛り込んで建築士さんにデザインしてもらったのですが、数億円の見積りになってしまって(笑)。さすがに厳しかったので、その時は諦めました。でも、その後旧店舗の老朽化が進んで、いよいよどうにかしなくてはいけなくなってしまったので、ダスキンの社屋を一部改築して、大正堂の新店舗にすることにしました。

(2023年7月に移転した新店舗。外壁は菊池さんの好きなグリーンを採用)

ー当初のやりたいことを全部盛り込んだお店は、どんな構想だったんですか?

菊池 ドライブスルーをつけたかったんです。バースデーケーキとかも、ネットでオーダーして、お店に入らなくても気軽に受け取れるようにしたくて。あとは、屋上に畑を作って野菜や果物を育てたいなとか、いろいろ考えてましたね。

ー盛りだくさんですね!イートインを付けてカフェのようにすることは考えなかったのでしょうか?

菊池 それもやりたかったです。でも、色々考えた末に「今じゃないな」と思って。いつかもう一店舗展開できたら、その時にはぜひやってみたいです。

ー移転して、変わったことはありますか?

菊池 心境の変化はかなり大きかったです。自由にやれるようになりましたね。以前は「大正堂を守らなければ」という気持ちから、昔からのお客さんの声を気にしすぎていました。材料費が上がっても値段を上げられないし、ケーキの種類も減らせない。売れるものは決まっているので、斬新なものもあまり作れなかった。でも、新興住宅地の近くに引っ越したことで、客層も売れる商品も変わったんです。それで、ケーキの種類を半分に減らして、自分たちが出したいものを出せるようになりました。土日限定でパンを販売するなど、新しい挑戦もたくさんしています。

(中央奥のプリンは移転後に人気が急上昇。秋田犬の形がかわいい塩クッキーや、シュードーム、枝豆味のフィナンシェも人気)

(土日限定で販売しているパンも好評。※写真提供:大正堂 since 1933

菊池 あと、前の店は工房と店舗が離れていたので、お客さんの顔が見えなかったんです。今はショーケースのすぐ後ろに工房があるので、スタッフたちもすごく楽しいと思います。

(移転後の店舗。お客さんの声がダイレクトに伝わるようになった)

ー伝統を守りながらも、かなり柔軟に展開しているように感じます。

菊池 守りたいのは大正堂というお店そのものであり、そこで何をやるかは自由だと思っているんです。代々大切にしてきた看板商品などは、どんなに手間がかかっても続けると決めているけれど、それ以外は、お客さんが喜んでくれて、店を続けられるならそれでいい。私は自分で「お菓子屋としてこれをやりたい」というものが特にないので、スタッフのみんながその時売りたいものや、お客さんが求めているものを探して提供することが多いです。そこは他のお菓子屋さんとちょっと違うところかもしれないですね。

(ショーケースには美味しそうなケーキがズラリ。※写真提供:大正堂 since 1933)

後悔したくないから、思ったことはなんでも伝える

ー約40人の社員の上で働くのは大変だと思いますが、大事にしていることはありますか?

菊池 気持ちを伝えずに後悔しないように、ちゃんと言葉にすること。嬉しかったことも、良くないことも、思ったら言います。社員にもすぐ「大好き」と伝えてます。言ってから恥ずかしくなって、みんなにいじられたりもするけど(笑)。

ー社員に「大好き」と言えるのはすごいですね!

菊池 みんなめちゃくちゃいい子なんです!本当に人に恵まれてるなと思います。

ー最後に、これからやりたいことがあれば教えてください。

菊池 カフェをやっていた頃みたいに、いろんな人と一緒に何かやれたらいいなと思っているのですが、まだまだ大館での人脈が足りないんです。イベントなども、老舗というだけで声がかからないことがあって…。今年は出られる限りのイベントに出店するのが目標です。

人を惹きつける明るい笑顔で、「ポジティブすぎて、嫌なことが何もない」と話す姿が印象的だった菊池さん。老舗の後継ぎとして、一人の女性として、これからどんなことを成し遂げていくのか楽しみです。

DATA

菊池斐香さん】
大館市出身。大館商業高等学校(現・大館国際情報学院)を卒業後、東京の製菓専門学校に進学。世界的パティシエ・辻口博啓シェフが経営する菓子店や都心のカフェで経験を積み、2011年に帰郷。老舗菓子店「大正堂 since 1933」の四代目として、店舗運営全般に携わる。株式会社ダスキン北秋 専務取締役。4歳と2歳の男の子の母でもある。

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大館市在住。フリーランスでライター、WEB制作、EC運営等をしています。人と話すこと、人を知ること、楽しいことが好き。誰かの心がラクになるきっかけになるような情報発信を目指しています。

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