今年はお祭りやイベントが中止となり少しさみしい夏ですが、夏といえばやっぱり浴衣が着たくなりますよね。今回は浴衣を通して女性を輝かせたいとの想いで大仙市で浴衣を作っている弥生屋の沼倉弥生さんに、浴衣作りを始めたきっかけやこだわりを伺ってきました。
趣味で始めた洋裁から憧れの浴衣作りへ
ー沼倉さんが浴衣作りを始めたきっかけは何でしたか?
沼倉 私は岩手県出身で、結婚をして主人の実家のある秋田へ引っ越してきました。元々は図書館の司書として働いていたのですが、出産を機に仕事を辞めて子育てメインの生活をしていました。
その時に、洋裁の仕事をしていた義理の母に教えてもらいながら、子どもや自分の洋服を作るようになったんです。そこで、自分が思い描いたものを形にできる楽しさを知りました。
ーそこから浴衣作りへシフトしていったのですか?
沼倉 子どもの頃からオシャレが大好きで、盛岡さんさ踊りで浴衣を着たり、七五三で着物を着せてもらった時にとても嬉しかった記憶があり、自分で縫った浴衣を着てみたいと思いました。そこから、子どもが幼稚園に行っている時間などを利用して、和裁師さんの元に通い和裁を6年間学びました。
(七五三で着物を着せてもらって嬉しかった思い出の一枚)
流行りが次々と移り変わる洋服と比べ、時代を経ても昔のものが変わらず素敵で、四季を感じられる和服が私にはとても魅力に感じました。
全ての女性を浴衣で輝かせたい!
ーそこから弥生屋を立ち上げたきっかけは何でしたか?
沼倉 和裁師はお客様からのオーダーがあって、その通りに形にすることが仕事です。でも私は、「自分が素敵だなと思う浴衣を作りたい、そしてその浴衣を通してたくさんの女性を笑顔にしたい」と思い、2019年3月に弥生屋をスタートしました。
ー弥生屋が大切にしている想いはありますか?
沼倉 「女の子は絶対無敵‼︎」がコンセプトです。「女の子」というのは、幅広い世代の女性全体、また、女性の心を持つ全ての人たちのことを指しています。
「女の子」の人生は、恋愛や結婚、出産の影響を大きく受けますし、苦労も多いと思うんです。日々悩んだり傷付いたりしながらも、キレイでいる努力を忘れずたくましく闘っている「女の子」たちへの賛辞と「がんばれ!」というエールを込めています。弥生屋の浴衣を着て、強く美しくキラキラと輝いてほしいと願っています。
女性らしさが際立つデザインと仕立てがこだわり
ー弥生屋の中での沼倉さんのお仕事内容を教えてください。
沼倉 主に浴衣や帯のデザインと仕立てをしています。手拭い1枚分をデザインして、それを12枚分つなぎ合わせたものが1枚の浴衣になります。
(雪輪柄を手書きでデザイン。6ヶ所ある欠け部分の1ヶ所をハートの形にして、弥生屋らしさを表現しています。写真提供/弥生屋)
(型紙デザインができたら紙に印刷して、仕立てあがった浴衣をイメージ。写真提供/弥生屋)
浴衣は全身で着るもの。注染では生地を染める時にデザインが反転してつながるので、仕立てて着た時にどうすれば柄が映えるかを考えながらデザインしています。また、女性が美しく見えるよう顔映りの良い色にもこだわって作っています。そのデザインで型紙を彫ってもらい、東京の染屋さんに染めてもらっています。
(写真提供/弥生屋)
仕立ては表に縫い目が出ないくけ縫いという縫い方を主に、大部分を手縫いで仕立てています。着るだけで襟がきれいに抜けるようにこだわって立体的に仕上げ、袖丈も通常より長くして女性らしい優雅さが出るようにしています。全て一人での作業になるので、1枚の浴衣を仕立てるのに4〜7日間かかります。
(襟がきれいに抜けていると、見る人に涼を与え女性らしさが際立ちます。撮影:鄭伽倻(小宇宙感光))
ー今年の新作・雪輪柄(ゆきわがら)は、どんな作品ですか?
沼倉 雪輪柄は昔からある古典的な柄で、雪の結晶や土の上に残った残雪をイメージしていると言われています。冬~春にかけての柄として、また、夏に涼を取り入れる柄として好まれています。
(弥生屋のゆかた・雪輪柄(茶) 撮影:鄭伽倻(小宇宙感光))
注染(ちゅうせん)ならではのぼかし技法も取り入れ、夏の夕方から夜に着ると白い雪輪が浮き出て見え、天の川のようにも見える幻想的なデザインになっています。
思い描いたものを形にする苦労は苦労じゃない
ー仕事をしていて大変だなと感じることはありますか?
沼倉 弥生屋として初めて浴衣を作った時は、とても苦労しました。弥生屋のゆかたは、注染という技法で東京の老舗の染屋さんに染めてもらっています。
(型紙を木枠に張って生地の上に載せ、型の上から調合した防染糊を木へらでムラのないように伸ばしてこすりつけます。このような製造過程のほとんどが、熟練の職人による手作業です。写真提供/弥生屋)
その時に、弥生屋のこだわりの生地である綿ちりめんと染料の相性が悪かったようでなかなか上手く染まらず、何度も染め直しをお願いして、ようやく仕上げていただきました。ひとつひとつに対するこだわりが強いので、実現するまでに大変な時もありますが、思い描いたものを形にする過程でもあるので、楽しくも感じます。
(夏に涼しく着られるシャリ感のある綿ちりめん。高級浴衣に使われる希少な生地で、洗うほど肌になじむ。写真提供/弥生屋)
女性のキラキラした笑顔が何よりも仕事のモチベーションに
ー楽しかったり、やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
沼倉 着姿をイメージしながらコーディネートを考えたり、浴衣に関することを考えている時はいつも楽しいです。また、展示会でお客様に弥生屋の浴衣を着ていただくと、皆さん本当にキラキラした笑顔になるんです。その時、私はこの景色が見たくて弥生屋をやっているんだなと実感すると同時に、大きな喜びを感じます。
(弥生屋のゆかた・ラブレター柄(紺地白抜き) 写真提供/弥生屋)
先日の展示会では、初日に来てくださった女性が、後日娘さんと一緒にいらして浴衣をプレゼントされていました。母親から娘へプレゼントしたくなるような、母親から娘へ受け継いでいけるような、そんな特別な1枚となる浴衣を作り続けていきたいと思っています。
感性を磨き、もっと気軽に浴衣を楽しめるきっかけ作りを
ーお忙しい毎日だと思いますが、プライベートでの楽しみはありますか?
沼倉 仕事以外の時間は家事や子どものこともあるのでなかなか自分の時間は持てませんが、美術館を巡ったり、映画鑑賞などから美しいものにたくさん触れて感性を磨き続けていきたいと思っています。
ーこれからの目標はどんなことですか?
沼倉 まずは、もっとたくさんの方に弥生屋を知っていただきたいと思っています。女性は装うことで心が潤います。敷居を感じずに、もっと気軽に浴衣を生活に取り入れて、たくさんの女性に美しく輝いてほしいと思っています。
また、浴衣や着物のコーディネートをお手伝いできればと思っています。和装は洋装とはまた違う着こなしの愉しみがあるので、浴衣や着物を選ぶところから小物のアレンジまでサポートし、もっと多くの女性が和服を着るきっかけになれたら嬉しいです。
柔らかな物腰で、浴衣への熱い想いを語ってくれた沼倉さん。「浴衣で女性を輝かせたい、応援したい」その決意が伝わる凛とした姿は、思わず見惚れてしまう美しさでした。そんな沼倉さんのこだわりがつまった弥生屋の浴衣を着ると、いつもより背筋が伸びて自分に自信が持てるような気がします。これからの沼倉さんの活動に注目して、応援していきたいと思います。
【沼倉弥生さんプロフィール】
岩手県出身、大仙市在住。2006年結婚を機に、ご主人の実家がある秋田に移りすむ。図書館の司書として勤めていたが、出産を機に仕事を辞め、趣味で洋裁を始める。その後、子育てをしながら和裁を6年学び、2019年3月に「弥生屋」を立ち上げ、生地や染め、デザイン、仕立ての全てにこだわった一生モノの浴衣作りをしている。一児の母としても、忙しい毎日を送っている。
【弥生屋】
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【取材協力:茶房Batik】
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