2022年から画家として活動している、大館市在住の畠澤陽子さん。大館市内で個展やグループ展を開催し、2024年10月には、世界中からアートファンが集まるパリの展示会にも出展しました。畠澤さんが画家になったきっかけや、「指描きアート」という珍しい手法、絵にこめる想いについて伺いました。
指を使って描くことで、自分の心を表現する
ー「指描きアート」は、どのような絵ですか?
畠澤 私は、キャンバスに「モデリングペースト」という下地材でデコボコした渦巻きを作ってから、アクリル絵の具を使って指で絵を描いています。本格的に絵を描き始めたのは2年前で、最初は絵筆を使って描いていました。なかなか思い通りに描けないなと感じていた時、思いきって手を使って好きに描いてみたら、嘘偽りない自分の心を表現できたような気がして。それから、指で描くようになりました。
ー小さい頃から、画家になりたいと思っていたんですか?
畠澤 子どもの頃から絵を描くのは好きでした。高校卒業後の進路を考えていた時、「進学して絵を学びたい」という気持ちもありましたが、進学する金額的余裕はなかったし、奨学金を借りてアルバイトをしながら学業と両立させていくのは難しいな…と思って。親からは公務員を勧められたのですが、自分にはものづくりの方が向いていると思い、「曲げわっぱ」の会社に就職を決めました。
体調を崩して休職。元気になったきっかけは友人に贈った「絵」
畠澤 「曲げわっぱ」を作る仕事はとても楽しかったのですが、会社に所属していると、ものづくりだけに集中できるわけではありません。「もっといいものを作りたい」という思いと、それができない現実の板挟みになって悩むうちに、身体を壊して会社に行けなくなってしまったんです。何もできないまま、不安ばかりが募る毎日でした。
ーそれは辛かったですね。
畠澤 はい。そんな時、久しぶりに幼なじみに会ったのですが、その友人も仕事で疲れて元気をなくしていて「昔から、よく絵を描いてたよね? 元気が出るような絵を描いてくれない?」と言われたんです。そこで、“友人が元気になりますように”という気持ちを込めて、絵を描いてプレゼントしました。
後日、友人から「玄関に飾ったよ。毎朝、出かけるときに見ると『今日もがんばろう!』って思える。私のために絵を描いてくれて、本当にありがとう」って言われたんです。その言葉がすごく嬉しくて、私の心も満たされた気がしました。「絵を描いて生きていきたい!」という自分の気持ちに、正直になろうと思いました。
画家としての活動をスタート。パリの展示会へ
ーそれから、本格的に画家としての活動を始めたんですね。
畠澤 休職していた会社からは「復帰を待ってるよ」と温かい言葉をいただいていたのですが、退職を決めて、本格的に絵を描き始めました。「観た人に元気になってもらいたい」という思いが根底にあるので、温かみのある「陽」の感じを表現しています。絵のモチーフは女の子や動物、架空の生き物が多く、最近は「うちのペットを描いてもらえますか?」というオファーをいただくこともあります。
ー画家として、どのような活動をしていますか?
畠澤 絵を描き続けつつ、たくさんの方に観ていただく機会を作るために展示場所を探してきました。県内での出展は、2023年11月に大館市中央公民館で開催したグループ展「蒼杉会(そうさんかい)展」、2024年7月に「桜櫓館(おうろかん)」、「わわわde子育てカフェ」での個展、8月に「Camp & Climbing Freaky(フリーキー)」での合同展などです。「わわわde子育てカフェ」と「フリーキー」では、お客様の目の前で絵を描くライブペインティングのイベントも開催しました。
ライブペインティングの様子→動画
ー10月にはパリにも出展されたんですよね。
畠澤 ルーブル美術館の地下通路に直結する大型商業施設「カルーゼル・ドゥ・ルーブル」で開催されたアートフェア「Art Shopping Paris2024(アート・ショッピング・パリ2024)」にお声がけいただいて、2024年10月18日〜20日の3日間、出展しました。美術関係者やアートファンが世界各国から集まる大規模な展示会で、30カ国のアーティストが出展しました。日本とは全然違う環境で、ものすごく勉強になりました。
ーパリでは、どんなことを感じましたか?
畠澤 私の絵を観てくださった方から「インパクトがあるね!」「とても目をひく作品だね!」などの感想をいただいて、嬉しかったです。また、海外のアーティストさんたちとの交流を通じて、「我を通した方がいいんだな」と感じました。自分の世界を持ち、「自分は自分」と芯を通すことが大切なんだな、と。
パリで「いいな」と思ったのは、美術館だけでなく街中の一角に絵があって、小さい子どもからお年寄りまで日常的にアートに触れていることです。日本では、「絵に詳しい人が、世間から認められた絵を鑑賞する」という雰囲気があるような気がしますが、もっと幅広く誰でも絵を楽しめたらいいな、と思いました。
観た人に笑顔になってもらいたい!
ーこれから、どんな活動をしていきたいですか?
畠澤 機会があったら、海外に行って視野を広げていきたいと考えています。でも、拠点はこれからも大館に置くつもりです。1月〜2月には大館市内で個展やライブペインティングを予定しています。
<1月〜2月の予定>
・合同展 1月4日(土)〜1月12日(日) 場所:Camp & Climbing Freaky(大館市御成町2丁目5−5)
・ライブペインティング 1月12日(日) 場所:Camp & Climbing Freaky
・個展 1月19日(日)〜2月16日(日) 場所:わわわde子育てカフェ(大館市御成町1丁目11-2)
・ライブペインティング 2月16日(日) 場所:わわわde子育てカフェ
(詳細は畠澤さんのInstagramを参照)
ーa.woman読者へメッセージをお願いします。
畠澤 私の絵のデコボコは、人生の辛いことや嫌なこと、コンプレックスなどを表しているんです。嫌なことは忘れてコンプレックスは隠して、全部平らにしたくなるかもしれないけれど、「そのデコボコを経験したあなたは、それがあるから素晴らしい」ということを伝えたいと思って、描き続けています。
畠澤 人生は、デコボコしていてグルグル渦巻くいろいろな縁の上に成り立っていると思うんです。「デコボコがあるからこそ、鮮やかな人生になる。デコボコを切り捨てる必要はないから、自分を丸ごと肯定して」という想いが、絵を通して伝わったら嬉しいです。
「嫌なこともたくさん経験してきたから、平らには描けないんです」と話してくれた畠澤さん。その想いをキャンバスにのせて、人を元気にする絵を描き上げる姿からは、芯が強く、そして温かい雰囲気が伝わってきました。「計画を立てるのが苦手で、あ、やってみよう!って動いている感じです」と笑う畠澤さんの今後の活躍が楽しみです。
DATA
【畠澤陽子さんプロフィール】
大館市出身。市内の高校を卒業後、曲げわっぱの会社に就職。2022年に退職し、本格的に画家としての活動をスタート。
Instagram