秋田市雄和に工房を構える和紙職人の高橋朋子さん。会社員をしていた20代後半に「これは」と思う和紙に出合い、一念発起して修行生活に入りました。雄和地区は工房が点在していて、ものづくりを身近に感じられる場所。仲間とのつながりから工房巡りを始めたのも高橋さんたちでした。制作や普段の暮らし、さらに今後についてお話をうかがいました。
今の暮らしに合った和紙も提案
高橋さんは秋田市雄和の工房を拠点に、手漉き和紙と和紙を使った作品を制作しています。工房にはさまざまな厚さと色の和紙が並び、植物を漉きこんだタペストリーや葉書などの小物などが飾られています。紙漉きの技術は伝統を基本とし、美しいハーフトーンの色合いやグラデーション、風合いが出羽和紙の特徴です。
秋田県内には十文字和紙がありますが、全体として担い手は減少傾向にあるといいます。伝統が失われつつあることに危機感を感じ「地元に和紙の文化を残したい」と奮闘する高橋さん。先人の技術を引き継ぐとともに、現代の暮らしに合わせた和紙のあり方を提案していきたいといいます。
ー和紙職人になろうとしたきっかけは?
高橋 秋田市のギャラリーで、親方(茨城県無形文化財西ノ内和紙の漉き手・菊池正氣氏)の作品展を見たことです。西の内和紙は、伝統工芸でありながら時代に合った新しい作品もあります。きれいな色付きのものだったり、立体作品もあったりして私が持っていた和紙のイメージとまったく違っていることに驚きました。当時は20代後半の会社員で、ものづくりの経験などはなかったのですが「やってみたい」と決意しました。
紙漉きの基本を身に付けたい
ー修行時代の目標は?
高橋 親方からは「大変な仕事だからやめておいた方がいい」と言われながらも、弟子入りを認めてもらいました。修行期間は2年ほどで「紙漉(す)きの基本を学びたい」という思いでした。また、修行を終えたら秋田に戻って活動したいという希望もありました。西ノ内和紙には、紙布(しふ)といって薄い和紙を糸にして織った布があります。私は親方から「紙布用の紙が漉けたら卒業」と言われていて、最後には成功して修行を終えることができました。
ー秋田で工房を開くまではどうでしたか?
高橋 秋田ではしばらく作業場を借りて作品づくりをしながら、工房立ち上げの準備も並行していました。当時はスマートフォンやSNSなどがない時代。展示会などを通じて、とにかく対面で作品を見てもらうことが私を知ってもらう方法でした。作家同士のつながりから秋田市雄和地区とのご縁ができ、2007年に工房を開きました。紙漉きは水を使う仕事なので、水はとても大切。そして活動を応援してくれる知人がいてくれることもとても大事です。
仲間で集まり年2回の工房展
ー「made in Yuwa」について教えてください
高橋 雄和を拠点に活動する陶芸家らが集まって2009年に4人展「made in Yuwa」を開催しました。それが少しずつかたちを変えて続き、現在は春と秋の年2回開かれる工房展巡りに発展しています。春の工房展は、新緑の美しい時期です。春の訪れを待ちわびていたかのようにお客様が訪れて楽しそうにしている姿を見ると、私もうれしい気持ちでいっぱいになります。
ー普段はどんな暮らしをしていますか?
高橋 工房に通って制作していたのが、2011年の結婚を機に工房近くに住まいを構えました(ご主人は、made in Yuwa の仲間でもある「アトリエソウマ」主宰の画家・相馬大作さん)。小学3年と2歳の子どもたちがいて、子育てに重心を置いた生活です。子育て真っ最中のため、制作など自分のための時間をつくり出すのに苦労しています。
暮らしの中に和紙がある風景を
ー和紙を暮らしに生かす方法は?
高橋 障子紙や習字紙のイメージになりがちですが、実はさまざまな和紙があります。日常の小さなところにも和紙を使ってもらいたいですね。注文を受け、テーブルの上に敷くセンターピースなども作ったことがあります。タペストリーや照明のほか、身近に置ける立体作品もご提案しています。
―これからの計画は?
高橋 私自身がつくりたいものに時間をかけられたらいいなと思っています。照明など、心にあたためている作品があるので実現したいです。また、紙漉きに「ねり」といって粘りのある材料を使うのですが、今年はその原料となるトロロアオイを育ててみようと思っています。自家製のねりを使って紙漉きができるのが楽しみです。
ー秋田の女性にメッセージをお願いします
高橋 私もそうですが、女性はやることがたくさんあって時間に追われがちです。なので、ほっこりする時間を1日5分でも持ってほしいと思います。私は午前の作業を終えて、昼食後にひとり工房でコーヒーを飲む時間を楽しみにしています。ちょっといいドリップコーヒーがあればなおよし、です。
和紙というと、私が幼いころ祖母がちぎり絵を楽しんでいたのを思い出します。和紙を水で湿らせてちぎると、繊維がほぐれてふわっとした形になるのを教えてもらいました。高橋さんの和紙は優しい色合いやグラデーションが美しく、身近に飾ってみたい、何か作ってみたいという気持ちが膨らみます。あたたかみのある作品を通じて、和紙の魅力がさらに広まっていくといいなと思います。
DATA
【出羽和紙 高橋朋子さん】
秋田県秋田市出身、秋田市在住。2000年~2002年、茨城県西の内和紙の菊池正気氏に師事。その後、秋田に戻り創作活動を始める。2007年4月、秋田市雄和に工房を開く。
ホームページ
Instagram
made in Yuwa Instagram
【出羽和紙(いではわし)工房】
住所/秋田市雄和椿川字館の下125
電話/018-886-8910
営業時間/12:00~17:00
※和紙、小物などを販売しています。
※事前に来訪時間をご連絡いただけると確実です。
※取り扱い店:那波紙店、秋田県産品プラザ
定休日/土・日・祝日
E-mail/gjnds671@yahoo.co.jp