2024年3月、能代市二ツ井町にオープンした「Magic Hour Coffee(マジックアワーコーヒー)」は、ちょっと珍しい縫製工場併設のコーヒースタンド。高級シルクインナーブランド「Basara(バサラ)」を運営する東京出身のスタイリスト、村上由祐さんが立ち上げました。
「コーヒースタンドを窓口に、気軽に縫製技術に触れられて、二ツ井の若い世代の夢が広がるような場にしたい」と、訪れる人と積極的に交流する村上さん。その軽快なトークと美味しいコーヒーに惹かれ、さまざまな人が集いはじめています。
ハイセンスで居心地の良いコーヒースタンド
築50年以上のガレージをリノベーションしたお店は、村上さんが「自分にとっての“居心地の良さ”を大事にしている」と話すだけあって、お客にとっても居心地バツグンの空間。7席ほどのこぢんまりとしたスペースに、長年スタイリストとして活躍してきた村上さんのセンスがギュッと詰まっています。
2階には定員10人ほどの座敷席が。本棚には村上さんがコレクションした雑誌や書籍が並んでおり、ついつい読みふけってしまいそう。ちょっとしたキッズスペースもあるので、小さな子ども連れでもOKです。
美味しさの中に少しの驚きがあるスペシャリティコーヒー
コーヒーは、以前村上さんが住んでいた神奈川・葉山のカフェ「megmog sweets&cafe」に焙煎を依頼したスペシャリティ。定番1種と、季節に合わせた旬の豆3種の、計4種を常に用意しています。県内外から多くのコーヒー好きたちが足を運んでくれるので、飽きられないようにバランスよくセレクトしているのだそうです。
なかでも通年で置いているのが、「袋を開けた時の香りがバツグンに良い」と村上さんが絶賛するエチオピア。エスプレッソは通常深めに焙煎した豆を使用することが多いですが、Magic Hour Coffeeではこの浅煎りのエチオピアで淹れたエスプレッソがイチオシなんだとか。
女性に人気のカフェオレやラテ、子どもも喜ぶシェイクやラズベリーミルクなど、ドリンクの種類も豊富です。
コーヒーに合うスイーツも村上さんの手作りです。サクッと軽い食感で優しい甘さのスコーンには、二ツ井産のラズベリーで作ったソースを添えて。
そのほか、濃厚バスクチーズケーキやブラウニーなども提供。全品テイクアウト可能です。
二ツ井の縫製技術をまちの文化に
二ツ井の職人の縫製技術に惚れ込んで移住を決めたという村上さん。「Basara」に使われているフランス製の最高級シルク生地は、扱いがとても難しく、縫製できる職人が日本にほとんどいないのだそうです。
5年ほど前までは二ツ井の工場に縫製を依頼していましたが、その工場が閉鎖。クオリティを保つことが難しくなってしまったため、閉鎖した工場で働いていた職人たちに直接頼み込み、この土地に工場を立ち上げることを決意しました。
「職人さんに2年半断られ続けたんで、気持ちを見せるために、自分自身が二ツ井に移住することにしたんです」と話す村上さんですが、職人さんの技術だけでなく、二ツ井の自然豊かな環境や、そこで暮らす人びとの魅力にも惹かれたといいます。
「二ツ井の人は一度懐に入るとすごく優しくて、排他的な感じがしない。それに、人工物と違って何千年も前からずっと変わらない自然の中で楽しんだり、工夫したりして暮らしている。そういう人たちの生活や文化をリスペクトしています」
村上さんは、「今の日本はアパレル業界の賃金が安く、若い技術者が育たない。賃金を上げて担い手を作っていくことで若者たちの夢が広がる。ここから世界を見据え、縫製の技術を二ツ井というまちの文化にしていきたい」と語ります。
また、この土地の若い世代が夢を持った時に、最初の一歩を踏み出す勇気を後押しする存在でありたいという村上さん。
「田舎だからというのは夢を諦める理由にはならない。思いが強ければ、一歩踏み出す勇気があれば、先に踏み出した先輩が必ず居て、その人たちが絶対に救ってくれます」
その人柄に惹かれて、高校生が夢を語りに店を訪れることもあるそうです。
村上さんに淹れてもらったコーヒーを一口飲んだ瞬間、思わず「えっ!美味しい!」と声を上げてしまいました。ワクワクする一杯を片手に、心地よい空間で過ごす極上の時間を、ぜひ体験してみてくださいね。
※価格はすべて税込です。