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一粒の木の実、一葉の姿をアクセサリーに。日々の暮らしのなかで見つけた色と形を編み込んで。

かぎ針アクセサリー作家 藤田 美帆さん



季節とともに、色とともに。そして、糸とともに、海の見える里山で暮らす藤田美帆さん。端正でミニマムな日々の暮らしとミクロな視点から編み出す世界は、美しくて、儚くて、おまけにちょっぴり怖さもはらんで、見つめる人の心の奥にそっと忍び込んできます。その作品の数々は、各地で開く展示会でも注目の的。自宅に設えた作業場にて、FUJITAMIHO(フジタミホ)の作品は、細やかに、ひそやかに作られていきます。

一本の糸を編んで、また一本の糸へ

ーーこれは葉っぱ、これは石ころ。エノキダケにシメジ、ワラビ、シダ植物。極細の糸で繊細に編み込まれた藤田さんの作品に向き合うと、細胞のような、胞子のような細かな編み目の奥にまで入り込んでしまうかのようです。藤田さんにしかできないモチーフ選びと、色使いですね。

藤田 自分だけの色、私だからこその世界を作り出せるようにと願っています。25号のレース針を使って、一本の糸で一筆書きのように編んでいきます。モチーフについてはいつの間にか、自然とこうなりました。人工物よりは、自然のものが好き。色は化学染料では奇抜に感じて、天然の染料で草木染めをするようになりました。

生まれ育ったここ天王町は、海が近くて、山もすぐそば。自転車を走らせたり、歩いたりしては、見つけたものを作品のモチーフにしています。

ーー一本の糸から自然の造形を形作って、枝分かれして他の形を作りながらも途切れず、足さず、また一本の糸に戻していく。哲学的にも感じます。

藤田 枝分かれしている部分も一筆書きのようにして、糸を切らずに繋げていきます。パーツを組み合わせると糸処理が見えてしまうので、できるだけ繋げて、美しく、始末良くと思っています。そのほうが、気持ちも途切れなくて。

ーーかぎ針編みの作品を作り始めたのは、いつ頃からなのでしょうか。

藤田 こういった作品を作るようになってから、実は時間はそんなに経っていないんです。美術短大を卒業後、働きながらちょこちょこと編んではいましたが、当初は今より太めのレース糸でコースターなどを作っていました。つぶつぶとした細胞が密集したような作品は、私自身が好きな作家さんからの影響もあって編み始めました。

アクセサリーとして作るようになったのは、2009年ごろからです。もともと自分で身に付けたくて編んでいたので、耳元や胸元を飾るアクセサリーとして作るのがしっくりときました。4、5年前には草木染めをするようになって、山や海沿いを歩いてはモチーフになる植物を見つけたり、天然の染めの原料となる植物をプランターで育てたり。各地で季節の植物を集めたり、いただいたりもするようになりました。

天然の草木から生み出す色の魅力

ーー植物を求めて、色を求めて、季節とともに暮らしていらっしゃるんですね。藤田さんの日常の暮らしの感覚が、作品の色合いや雰囲気に現れているように感じます。

藤田 栗のイガ、胡桃の皮、種から育てる藍や小鮒草…。植物から出てくる天然の色は、新鮮で鮮やかな色、少し渋みの出た色と、時期によって色味がまるで違います。

クサギからは水色、桜の落ち葉からはピンク色、小鮒草からは驚くほど鮮やかな黄色が生まれたり、藍で染めた淡いブルーに小鮒草の黄色を重ねてみたり。天然の色を映した糸を編み込んでいけば、その造形だけでなく色合いも含めて植物を感じるものになります。きれいで美しいこと、繊細であることはもちろん大事にしているのですが、少しゾクッとするような、そんな自然の一面も表現できればと思います。

秘密の地下室のように

ーー藤田さんの展示会には、アクセサリーだけでなく、キノコをはじめとしたオブジェが標本のように置かれていて、存在感を放っています。そういえば藤田さんのこの作業場にも、標本のように植物が置かれていたり、珊瑚があったり、ビーカーやシャーレに作品が入っていたり…。

藤田 博物館の雰囲気が好きなので、作品やパッケージにもそれが反映されているのだと思います。映画「風の谷のナウシカ」に出てくる腐海の森や、ナウシカが作った秘密の地下室に憧れていて。

ーーそうですね。ここはまるで、ナウシカが腐海の森の草木を採取して、胞子を育てている秘密の部屋のようにも思えます。

藤田 そんな雰囲気を感じていただけるなら、とてもうれしいです。細胞のようなミクロな世界があって、小さな胞子のような粒々のものたちが集まり、重なり合っているような。身に付けるアクセサリーとしてだけではなく、標本であり、ものとしての存在です。それは繊細だけれども生命力にあふれていて、とてもタフ。そこから、植物や鉱物が持つ自然の力をも、感じていただけたらうれしいです。

藤田さんのアクセサリーは、美しくも力強いアシンメトリー(左右非対称)。森や海などの自然界にあって、自然の造形と色合いは季節とともに変化を遂げ、やがて雪のなかに埋もれていきます。そしてまた生まれ出る、力強さを秘めながら。藤田さんの作品に惹かれるのは、繊細な手仕事とそのセンスから、自然と向き合いながらシンプルに過ごす日々の暮らしぶりを感じ取れるからかもしれません。

藤田美帆
秋田県潟上市生まれ、潟上市在住。秋田公立美術工芸短期大学卒業。2010年日本ジュエリーアート展入選。2015年「あきたの美術2015」参加。FUJITAMIHO

Writer

awoman 編集室

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