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ただひたすらにものづくりと向き合う。“日々精進”を体現し続ける大館曲げわっぱの伝統工芸士

伝統工芸士 仲澤 恵梨さん

a.woman読者の皆さん、あけましておめでとうございます!
戌年の2018年。年女の皆さんも、そうでない皆さんも、今年の抱負は決まりましたか?そして平成30年を迎え、その時代もいよいよ終わりを迎えようとしています。平成に思い残すことがないように、皆さんやることやっちゃいましょうね!

今年最初の「今月のCLOSE UP ! WOMAN」は、大館曲げわっぱの伝統工芸士、仲澤恵梨さんの登場です。昨今のお弁当ブームやSNS映えが時代の潮流とされる中、改めてその良さが認められている大館曲げわっぱ。伝統工芸の世界に飛び込んで16年目を迎えた仲澤さんは、着実に、ときに大胆に歩みを進めてきました。

他社にはない手触りとぬくもりを感じて選んだ道

—仲澤さんは生まれも育ちも大館ですが、やはり子どもの頃から曲げわっぱに親しまれてきたのですか?

仲澤 そうですね、曲げわっぱのお盆などは普通に家にありましたから、意識するまでもなく触れていたと思います。もともと父が陶器や絵が好きで、そういう趣味嗜好の影響もあってか、私も小さい頃からものづくりが好きでした。
中学1年の頃、とある在庫処分市でひと目で気に入って買った曲げわっぱの小箱があるんですけど、今でも大切にとっておいてあります。深みのある色合いでいい雰囲気になってきているんですよ。

—大館には曲げわっぱを作る会社がいくつかある中で、こちらの「柴田慶信商店」を選ばれた理由は?

仲澤 他社にはない手触りとぬくもりを感じたからです。とくにふたの表側は見た目の丸みはもちろん、触った感じのしっとり感がいいんですよね〜。板の厚みの角にもヤスリをかけているので、どこを触っても柔らかい手触りなんです。

—職人の道に入って、苦労した点はどういうことですか?

仲澤 入社した当時は“見て覚えろ”という職人ならではの技の習得方法だったのですが、同じ作業でもその職人さんによってやり方が違うことに戸惑いました。その気持ちを社長に伝えたところ、その時は「自分が正しいと思うことをやれ」と背中を押してもらいました。いまだに納得できる域には達していないですが、流れ作業でも一つ一つの物をしっかり見てやるように心がけてます。

この道16年目の職人として日々考えること

—仲澤さんには男性4名、女性2名の後輩がいらっしゃいます。後輩に対する指導方法や付き合い方はどんな感じですか?

仲澤 「昨日やっていたことと同じことを今日やっても成長はしない。その上をいかないと」という話はよくします。今は、“見て覚えろ”よりも言葉で伝えるようにはしていますね。それから“とにかく数をこなすこと”も大事だと教えています。たまに飲み会の席なんかでは、「みんなで新しいことをやりたいね」など仕事に前向きになれるような話題もしています。

—日々精進、ですね。

仲澤 やっぱり、何を考えながら作るのか、ということに尽きるんです。その都度、姿勢を正さないと次につながらないので。例えば、商品の到着を待っているお客さんがいることを考えたら、“いかにムダな時間を省くか”が重要になってくる。そういうところの大切さを伝えていけたらいいなと思います。
私も入社した頃は根拠のない自信のもと仕事をしていたところもありましたが(笑)、今となっては常にお客さんのことを考えながら作業している点が自分自身の一番の変化ですね。

—「柴田慶信商店」という会社は、仲澤さんにとってどんな存在ですか?

仲澤 社長からは「会社にあるものは自由に使っていい」と言っていただいたり、厳しい状況では助けていただいたりと温かく見守ってもらっています。最近では社長が発起人となり、大館曲げわっぱ協同組合の組合員さんを対象に、技能講師によるカンナの勉強会を開いたりと、新しいことに取り組む環境にも恵まれているなぁと感じます。会社全体がそうなんですが、楽しい時は楽しく、厳しい時は厳しく、とメリハリがあっていい関係性だと思います。

—創業者で会長の柴田慶信さんとの思い出に残るエピソードは?

仲澤 それまで怒られてばかりだった入社5年目のある日、流れ作業の一部しか担当してこなかった私は、「最初から最後まで自分で作ってみたい」と直談判して全部一人で作ったことがあったんです。そこで私のやる気を再確認してもらえて、会長に認めてもらえたと感じた時はうれしかったですね〜。それ以来あまり怒られなくなりました。それと、会長がある取材で私を頼りにしていると話されたことがあって、それもうれしかったです。

 お客さんと直接触れ合ってその人気を実感

—いつ頃から曲げわっぱの人気を肌で感じるようになりましたか?

仲澤 入社した頃からコンスタントに売れているとは思っていましたが、入社5〜6年の頃に自分でもいろいろ経験したいと思って、初めて東京のワークショップに連れて行ってもらったんです。そこで実際にお客さんと話してみて、30〜40代の比較的若い世代に人気があることを実感しました。

「人気があるからなくなると思って」と翌日にまた買いに来られたお客さんや、「お金貯めてまた来るわ」とおっしゃったお客さんの顔って覚えているんですよね。催事場でお客さん同士の口コミが生で繰り広げられていたり(笑)、そういう場に立ち会えるのは貴重な体験ですね。

オススメの曲げわっぱや便利な使い方

—最近ではSNS映えするお弁当箱は特に人気です。ほかに仲澤さんのオススメの商品や使い方はありますか?

仲澤 パン皿はオススメです。普通、トーストしたパンをお皿に乗せるとパンの裏側が湿ってしまうのですが、白木のパン皿は吸湿性があるので、焼きたてのさっくりした食感を最後まで楽しめるんです。パン以外にも、カップとお菓子を乗せたり、パンと朝食のおかずを乗せたりと、トレイとしても使い勝手があります。

それからお弁当箱は、ちらし寿司を詰めて食卓に出したり、手巻き寿司の時には一人一人のおひつ代わりにしても便利です。私も入社当初からうちのお弁当箱を使っていますよ。10年もすると“木目が立つ”といっていい風合いが出てくるので、ぜひ永く使ってもらいたいです。手入れはそれほど難しくはありませんが、乾かす時間をしっかり取りたい方は2個使いもいいですよ。

お客さんの満足感とともに職人にもスポットライトを

—現在、大館曲げわっぱの伝統工芸士は15名(うち女性は2名)。仲澤さんは平成27年に伝統工芸士の試験に合格し、平成28年に認定されました。

仲澤 入社した頃から伝統工芸士になりたいと思っていましたけれども、受験資格が実務経験12年以上ということでしたので、一昨年にやっと試験を受けることができました。やはり伝統工芸士にならないと認めてもらえない部分もありますし、ものづくりを支えている職人のためにも、職人一人一人に光が当たるように活動していきたいです。

—将来の夢や目標を教えてください。

仲澤 ずーっとこの仕事を続けていきたいです。入社した時からいいものを作りたいと思ってやってきましたので、お客さんの満足できる商品を作り続けていきたいですね。
実は今年(※取材時2017年)の6月に入籍したのですが、結婚しても今までと変わらず何か一つでも楽しいことを見つけながら、ものづくりに携わっていきたいです。今、会社にお願いして披露宴の引き出物用に曲げわっぱの小箱「タイニーボックス」を作らせてもらっていまして、それが私の代表作第一号になればいいなぁと願っています。

インタビュー中の屈託のない表情とは一変して、作業中の真剣な眼差しはさすがに「伝統工芸士ここにあり!」といった趣の仲澤さん。日々を楽しみながら探究心をもって歩んできたその目は、キャリアを重ね、お客さんのことはもちろん、大館曲げわっぱの活性化をも見据えていました。代表作の誕生が楽しみです!

仲澤 恵梨さん
昭和57年、大館生まれ。
地元の高校・短大を卒業後、「柴田慶信商店」に入社。
2016年、伝統工芸士に認定。
【伝統工芸士とは】
その産地固有の伝統工芸の保存や技術・技法の研鑽、さらに産地における伝統工芸の振興に努め、それらを後世に伝えることを目的とした国家資格。

【柴田慶信商店】
現会長で伝統工芸士の柴田慶信氏が1989年に設立。おひつや飯切、パン皿、バターケース、長手弁当箱、おさなご弁当箱がグッドデザイン賞を受賞するなど、数々の受賞歴を誇る。国内外で個展開催や実演、トークショーへの出演など精力的な活動を続ける。

大館市御成町2丁目15-28
0186-42-6123
営業時間/9:00〜17:00
定休日/土曜・日曜・祝日
ホームページ/http://magewappa.com
フェイスブック/https://www.facebook.com/shibatamagewa/

Writer

熊谷 清香

熊谷 清香

地元タウン誌や広告代理店勤務を経て、フリーランスで企画・編集・取材・インタビュー・ライティング等をしています。中高生の母。秋田市出身。

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