秋田県内で店舗のリノベーションを中心に手がける「あくび建築事務所」の筒井友香さん。人気のあのお店も素敵なそのお店も、気づけば設計を手がけているのは筒井さんだったりします。やわらかな視点で空間を再構築し続けている筒井さんに、これまでの歩みを伺いました。
建築の世界をめぐり辿りついたリノベーションという仕事
−筒井さんは工業高校の建築科出身だそうですが、学生の頃からリノベーションを仕事にしたいと考えていたのですか?
筒井 正直なところ、建築科に入ったのは学校の制服が可愛かったから(笑)。建築は面白いと思ってはいたのですが、勉強が難しくてついていけなくて。なので卒業後は建築とは離れて、古着屋さんで働いたりフリーターをしていたのですが、22〜23歳の頃にこのままだといかん!と、横浜にあるハウスメーカーで働き始めたんです。
その会社で建築に携わる様々な専門職の人と出会えたことが、転機の1つだったかもしれません。インテリアコーディネーターに興味が出てきて、周りに相談しているうち、まずは家具の知識を身につけようと家具屋さんに転職することに。でも1年半くらい働いたら次の道を考えるようになって。どうしようかと思っていたら、当時掛け持ちバイトしていたバイト先の常連さんに紹介されたのが、東京で住宅のリノベーションを専門で行う「空間社」という会社だったんです。
−建築の様々な業界を経験した中で、辿り着いたのがリノベーションだったんですね。
筒井 そうですね。そこが5人しかいない会社で、入社した時からどんどん現場を体験させてもらえて。お客様との打ち合わせ、設計、工事監理を一貫して担当する環境だったので、かなり鍛えられました。
それと仕事をしていくうちに、どんどんリノベーションが面白いと思うようになって。リノベーションは建物の大きさなどの制限がある分、その中でやりくりしていくんですよね。それがパズルみたいにパチッとハマる瞬間があって、その喜びがすごいんです。学生の頃は“難しい”というイメージがあったのに、こんなにワクワクすることだったのか!という感じでした。
縁とタイミングが重なり秋田へ
−その後秋田にAターンされたそうですが、順調に進んでいた仕事を辞めて秋田に戻って来ることに不安はなかったですか?
筒井 いずれ帰ろうとは思っていたので、いいタイミングかなーと。不安はなかったですね。2016年に秋田に戻って「See Visions」という会社に入りました。入社する2年前、まだ秋田ではリノベーションを専門でやっている会社がなくて。どうしようかなと東京でお世話になっている方に相談していたら、リノベーション部門を立ち上げようとしていたSee Visionsを紹介していただいて。それで「うちでやらない?」とお誘いをいただきました。
−ご縁がつながりますね!実際にどのようなリノベーションを手がけられたのでしょう?
筒井 ほとんどが店舗改装ですね。店舗は秋田に帰ってきてからやるようになったのですが、それまでやっていた住宅とは違い、お店は無作為に人が訪れる場所なので見せ方が全く異なるんです。最初は不安でしたが、優秀な工務店さんに支えてもらって、社長からもアドバイスをもらって、様々なお店のリノベーションに携わらせていただきました。
そして独立。話題のお店から次々に仕事の依頼が
−2018年に「あくび建築事務所」を立ち上げ独立された筒井さん。最初のお仕事は、どんな内容でしたか?
筒井 秋田市の住宅リノベーションが最初の依頼でした。知り合いづてにいただいた仕事をコツコツとやって、その工事の様子をインスタであげたりしてました。そしたら割と早い段階で、インスタから仕事の問い合わせが入ってきて。最初に問い合わせをしてくれたのがnice time coffeee(ナイスタイムコーヒー)さんで、それからもいろんなお店から相談をいただくようになっていきました。
−どのお店も素敵ですよねー!
筒井 どのオーナーさんも好きなもの、やりたいことがハッキリしている方ばかり。それぞれの方が持つセンスが、その空間に反映されていくんですよね。
割とお任せで仕事をいただくことも多いのですが、私がやりたいことをやるのは違うと思っていて。なので、打ち合わせでは、メニューや従業員数などの細かなことから、素材や内装の好みのイメージまで色々お聞きします。いいものをつくるにはコミュニケーションが絶対必要。だから他愛もない会話も大事にしています。
−筒井さんだから話しやすい、というのもある気がします。
筒井 設計者が上の立場になっちゃう構造が嫌なんです。お客さんの想いがあって、カタチにしてくれる職人さんがいなければ、何も実現できない。だから、3者が対等にいられる関係性でいたいんですよね。そういう意味では、あえてラフにいかせてもらっているところもあります(笑)。互いにやりたいことを言い合えるように距離を詰めたいし、なるべく垣根をはぶきたいんです。
夫婦それぞれが生業をもつという選択
−旦那さんはクラフトビールの醸造所を経営されていますよね。夫婦がそれぞれ事業をすることのメリットはありますか?
筒井 私たちはもともと高校の同級生で、ずっと仲の良い友達だったんですよね。今でもその延長というか、夫婦なんだけどすごく気の合う友達という感覚が強いのかな。友達と言っても趣味を合わせたりする必要もなくて、自分だけが興味を持ったことでも1番最初に共有できるのが旦那さんなんです。いつも一緒にいるねってよく言われるんですが、そこに違和感が全くないんですよね。
旦那さんの繋がりでお仕事の依頼をいただくこともあるし、私が彼のお店でビールを注ぐお手伝いをしたりもする。そんな風にお互いがいい感じでハマり合えているのかなと思っています。
運命の仕事。だから一生現場を見ていたい
−この先、あくび建築事務所で叶えたいことはありますか?
筒井 この先リノベーション以外の仕事をするというのは考えられないし、運命めいたものを感じるので、のんびり自分のペースでやっていけたらいいですね。会社を大きくすることは考えてないし、ずっと現場の人間でいたいので、できる範囲の中でやっていきたいです。
今年の3月末に、私の事務所と旦那さんのビールを楽しめるお店とが併設した店舗をスタートさせる予定です。そこができたらまた新しい人が舞い込んできたりすると思うんです。そうして出会ういろんな人と関わりながら、これからも仕事をしていきたいです。
人とのつながりの中で出会った、リノベーションという仕事。その楽しさを、再び人とのつながりの中で膨らませていく筒井さん。その手から、この先どんな空間が築かれていくのでしょう。おばあさんになったらお年寄りが集まるビール屋で皿洗いでもやろうかなと冗談っぽく話してくれましたが、そんな場所ができた時には私も通います!