秋田で唯一のホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)の資格保有者として、“遊び”をツールに、医療と向き合う子どもの「不安」や「痛み」を軽減する取り組みを行っている小山悦子さん。その取り組みを詳しく聞いてきました!
HPSってどんな職業?
HPSは、1960年代にイギリスで生まれた専門職。遊びをツールに、子どもと家族が病気や治療を理解し、医療体験を肯定的に捉えられるよう支援します。
「医療を目の前にした子どもは、大きな横綱の前に裸で立つ幼児のようなもので、すべてを奪われ何もできない、という気持ちになります。けれど、なぜ治療が必要なのか、何が行われるのかを正しく理解し、向き合い方を一緒に考えていくことで、立ち向かう力を発揮できます」と小山さん。
教員を辞め、HPS資格取得のため静岡へ
秋田市内の特別支援学校に教員として在職中、長期入院の子どもを担当した小山さん。そこで、日常や遊びが奪われ、ベッドしか居場所のない様子に衝撃を受け、何か支援できることはないかと考えました。
その後、教員を退職し、静岡でHPS養成講座を半年間受講して資格を取得。 病気の兄弟がいた幼少時の経験、自身の子どもが難治性の病気になり葛藤した経験、特別支援学校で働いた経験など、すべての経験から学んだことをHPSとしてお返したいと、奮闘しています。
ただ、秋田の病院ではHPSの認知度が低く、雇用も難しいようです。小山さんは現在、入院や手術、家庭での医療的ケアのある子どもからの相談を個人的に受け、ボランティアで支援を行っています。HPSの意義を多くの方に知ってもらえるよう、ワークショップを開催したり、看護を学ぶ学生さんへ講義をしたりもしています。
HPSの技術と愛あふれる♡手作りおもちゃ
HPSの技術には、治療を受ける子どもたちに遊びを提供し、日常生活と成長を支援したり、遊びを使って痛みや恐怖を軽減させたりなど、6つの種類があります。人形を使って治療や手術への理解促進や、家族へのサポートもします。
(Norma Jun Tai氏 講演資料より)
そういった時に活躍するのが、おもちゃやすごろく!小山さん手作りのおもちゃには、子どもたちへの愛があふれています。
子どもの「乗り越える力」を引き出す
小山さんは、以前病棟保育士として働いていた時に出会った2歳の男の子の話をしてくれました。
「拘束されて採血を受けたトラウマが強く、処置を激しく抵抗していました。そこで、繰り返される採血の後に、必ず注射器を使った水鉄砲で遊びました。実際の医療器具を自ら操作することで、経験を消化し、ストレスを発散させるためです。次第に激しい抵抗が減っていき、一カ月後には、看護師さんと手をつないで自分の足で処置室に向かうことができました。その小さな背中を見ながら、遊びのもつ力と、そこから引き出される子どもの乗り越える力に感動しました」
採血でなくても、予防接種への抵抗が強く困っているお母さんは多いのではないでしょうか。痛みを伴う注射は、「自分が悪いことをしたからされるんだ」と勘違いする子どもも多いそう。予防接種に「今日は注射しないよ」と連れてこられる子どももいるようで・・・。
「嘘は医療に対する信頼をなくしてしまいます。『あなたの健康を守りたいからだよ』と本当のことを伝えましょう。『悪い子は注射するよ』という言葉もよく聞きます。医療を悪者にしないで、子どもたちの乗り越える力を信じて、ご家族の愛とHPSの遊びの力で支えていきましょう!でもどうやって?と思われたら、ご連絡ください!」
病院の医療チームの一員としてHPSが働き、一人でも多くの子どもに必要な支援を提供できる形を探っている小山さん。さまざまな経験からくるのでしょうか。子どもの微細な気持ちに気づく力と、朗らかで穏やかなお人柄が印象的でした。この雰囲気が子どもたちを安心させるのだと思います。
少子化の秋田において、子育て支援の新しい道を切り拓いている小山さんの活動が、そしてHPSへの理解がもっと広がりますように!
【小山悦子さんプロフィール】
秋田市出身、秋田市在住。秋田大学(特別支援教育専攻)卒業後、特別支援学校で教員として約20年間働く。
HPSの資格取得のため教員を退職、静岡県立短期大学の養成講座に通学して平成25年に資格を取得。
平成26年1月から秋田市内の総合病院で病棟保育士として1年間勤務。
現在は教員免許を活かした仕事をしながら、HPSとして医療の必要な子どもたちを個人的に支援している。
小山さんに相談したい方はメールから etsukooyama@icloud.com
小山さんのBlog http://blog.livedoor.jp/hospitalplayrink/
HPS養成講座に興味がある方はこちらを参照