秋田市を拠点に、書道アーティストとして活躍する佐藤佳奈さん。佐藤さんの手がける作品の魅力は、私がイメージする「書道」の枠に収まらない自由さにあります。屋外の書道パフォーマンスでは、大きな筆を自在に動かし、墨や絵の具を使って一気に作品を書き上げる姿に圧倒されました。「あくまで書道が基本」と佐藤さんが言う通り、創作の根本は子どもの時から鍛錬した書道にあります。これまでの経験を生かした多彩な活動について、佐藤さんにうかがいました。
友達と始めた書道
─書道を始めたきっかけを教えてください。
佐藤 8歳で書道教室に通い始めました。放課後など、子ども同士で集まって外でよく遊んでいて、その中の友達が「書道教室に行く」というので私も一緒に付いていったという感じです。もともと、字を書くのも絵を描くのもどちらも好きな子どもでしたね。そのまま続けて、高校入学後も書道部に入部しました。
─高校で素晴らしい先生との出会いがあったそうですね。
佐藤 高校2年の時に転任していらした書道専科の先生です。書道はきれいに書くだけではない、ということを教えてくれました。線のかすれや文字と余白のバランスも大切だということを知り、書道をより立体的に感じられるようになったのです。「こういうふうに書けばいいんだ」という感覚がつかめたように思います。ひたすら書いて、先生のお手本を見て学んで、また書いての繰り返しです。自分が上達しているのが分かったし、楽しくて仕方がなかったです。
─大学でも書道を専攻しています。
佐藤 高校時代に書道の全国大会で新潟に行く機会があり、秋田と似た土地柄に親しみを感じていました。さらに、書道を専攻できる学部があると知り新潟への進学を決めたのです。書道を学びたい、もっと知りたいという思いでした。新潟では、ひとり暮らしを満喫しました。インテリアが好きで、新幹線で東京に出かけてはインテリア用品を買って自分の部屋を飾っていました。
まずはやりたいことをやってみよう、と上京
─ここまで書道を究めてきましたが、すぐ職業にしなかったそうですね。
佐藤 「このまま書道の指導者になるのは何か違う」という疑問が湧いたんですね。ただ得意だからというだけで、決めてしまっていいのか分からなかった。書道以外のことにもいろいろ興味があったので、まず自分の好きなことをやってみようと。手紙を書いて熱意を伝え、東京にあるインテリアの会社に就職しました。
─東京での経験について教えてください。
佐藤 インテリア会社に勤めた後、カフェの仕事をして4年ほど東京暮らしを経験しました。見たいもの、触れたいものが何でもある都会は、楽しくて仕方がないですよね。書道からも完全に離れていました。
ただ、少しずつ何か満たされない、物足りない思いを感じるようになりました。そんな折、勤め先の友人が「名前をきれいに書きたい」と言ったことがあって、書道ができることを思い出したのです。そこで友人と一緒に書いてみたら、とても喜んでくれました。書道に打ち込んでいたときの楽しい思い出がよみがえり「書道が好き」ということを再認識できました。
「秋田に戻れる」と思ってうれしかった
─秋田に戻ることにした経緯は?
佐藤 書くことを再開し、筆耕の仕事などをして「書道は一生を共にできるもの」と確信が持てたことが大きいです。これでやっていこう、と決めて28歳で地元に帰ってきました。やりたいことを全部やったからこそ、決断できたと思います。子どものときから両親が楽しそうに働く姿を見てきて、秋田が好きで、元々無理に離れようと思ったことはなかったです。だから「やっと自分の原点に戻れる」と思うとうれしかったです。
─書道をベースにしたデザインと創作活動を続けていますね。
佐藤 書道を教えることから始めて、作品づくりにも取り組み帰郷2年目に会社を立ち上げました。そこからは無我夢中でしたね。制作の柱は大きく二つあって、私にはどちらも大切なものです。一つは注文を受けての制作。ロゴや商品ラベルのデザイン、看板などです。ご要望に合った表現を柔軟に探るようにしています。
もう一つは個展のための作品づくりです。作品が売れないと収益が出ないなど、つくり手としての覚悟が求められます。書道が分かる人もよく知らない人も、両方が楽しめる作品を生み出していきたいと思っています。
書道を基本にさまざまな表現を
─書道の枠にとらわれない作品を生み出していますね。
佐藤 私にとっては、美しい字も絵も「かく」という意味では同じものととらえています。料理にもいろいろな種類があるように、書道を基本としてさまざまな表現をする、ということ。
─どのようにして作品をつくっていますか。
佐藤 制作する時は、できるだけ気持ちをニュートラルにして、感情を凪の状態にするよう心掛けています。書こうと思った時にすっと紙に向かえるように、墨をすり、画材などの準備を整えておきます。そして「今だ」というタイミングで一気に書き上げます。まさに一発勝負。白黒がはっきりしていて、奥深い世界です。筆を持つ腕・身体と心がぴったり重なる瞬間があり、それは書いている時にしか味わえないものです。
人が集いにぎわう様子をイメージ
─3月にオープンした秋田県指定有形文化財「旧松倉家住宅」のロゴデザインを手掛けられました。ロゴに込めた思いを教えてください。
佐藤 人が集まりにぎわいの場となるところ。末広がりに人がつながっていくイメージを文字に込めています。「倉」を見てもらうと、「人」が「〇(輪)」になっているところを表現ししています。歴史ある建物なので、存在感や風格が感じられるよう配慮しました。
─これからの佐藤さんの夢は何でしょうか。
佐藤 いつか、海外で個展をしてみたいです。ご縁がつながっていった先に海外での展示が実現する、そんな自然な流れで叶えられたらいいなと思います。
佐藤さんの書道パフォーマンスでは、「バン!」と太筆がパネルに当たる音が響きわたり、そこから力強い線が生まれていました。文字を書くということは、名前を書くごく身近なことから芸術作品まで幅広く、奥深いものだとあらためて感じました。「秋田で創作活動ができることが楽しい、幸せ」という佐藤さん。秋田の風土や佐藤さんの暮らしがこれからどのように作品に昇華されていくのか、楽しみでなりません。
DATA
【書道アーティスト 佐藤佳奈さん】
1978年、八郎潟町生まれ。fu-de-sign(フデサイン)主宰
新潟大学教育学部書道学科卒。都内のインテリア会社勤務などを経て2008年、秋田市に毛筆専門デザインオフィス「fu-de-sign」を立ち上げる。自身が好きなファッションやアンティーク、自然などと、古典書道を融合させた作品を得意とする。商品やタイトルロゴ、店舗やイベントなどの書をこれまで多数手がけている。
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個展《U!》
4/12(水)〜16(日)さきがけホール(秋田魁新報社1階)にて開催
美しく見せる宛名書き講座
4/29 ( 土・祝 )旧松倉家住宅にて開催(要予約)申込はこちらから