TOP

女性が生き生きと働く場所を。鹿角の果物&野菜で、おいしいスイーツやおかずを作る

レディースファーム 米田敦子さん

鹿角市の米田敦子(まいた あつこ)さんは、「農家の女性に働く場所を作りたい」との思いから、地元の農産物を使った加工品を製造・販売する「レディースファーム」を立ち上げました。化学調味料を使わず丁寧に手作りしたアップルパイやジャム、郷土のおかずなど、人気商品を生み出し続ける米田さんに、立ち上げの経緯や女性の働き方について伺いました。

鹿角らしいお菓子を作りたい

ーレディースファーム立ち上げの経緯を教えてください。

米田 1998年に直売所を立ち上げました。そのうち、「地元の野菜や果物を使って、鹿角らしいお菓子を作りたい」と思うようになり、直売所で働いていた人たちと一緒に、2000年11月に加工所を作りました。それがレディースファームの始まりです。

ー直売所を立ち上げたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

米田 私は農家出身ではないし、仕事も農業とは全く違う仕事に就いていました。さまざまなご縁があって夫の実家がある鹿角に移住し、鹿角に来て6年くらい経った頃、JA女性部から「農家でないところから農家に来た体験発表をしてほしい」という依頼があったんです。そこからJAとの繋がりが生まれ、支部の副部長を経て部長を務めることになりました。支部長をしていた時、「地元の野菜や果物を売りたい」ということで直売所を立ち上げました。

鹿角のおいしいリンゴが、ぎゅっと詰まったアップルパイ

(レディースファームのアップルパイには、旬のリンゴがたっぷり入っています)

ー最初の商品は何でしたか?

米田 最初に開発したのはアップルパイです。鹿角には果樹園がたくさんあって、いろいろな種類のリンゴが採れるんです。試作を重ねた末に、シャキシャキ食感と爽やかな甘さが特徴鹿角産「ふじりんご」を使ったアップルパイが完成しました。生地も手作りで、バターをたっぷり使った素朴な味です。このアップルパイが口コミで広がって人気を呼び、鹿角市から「黄金の歴史街道キャンペーン」にちなんだ黄金のスイーツを開発してほしいという依頼を受けました。そして誕生したのが、アップルパイ「極(きわみ)」です。

ー「極」は、どんなアップルパイですか?

米田 シナモンと洋酒の風味をきかせ、八つ切りリンゴがごろっと入ったホールタイプのアップルパイで、大人向けの味になっています。発売から2〜3年後に全国紙に掲載されたのを機に、爆発的な人気となりました。それが、レディースファーム立ち上げから10年目のことです。

(上段左が、レディースファーム開設当初からの人気商品「アップルパイ」。中央が「極」。右は、さつまいものほくほくした甘みがおいしい「スイートポテトパイ」)

自然の恵みを余すことなく使い切り、ひとつひとつ丁寧に手作りする

ーレディースファームの商品の魅力はどんなところですか?

米田 化学調味料を使わず、丁寧に手作りしているため、安心安全でとてもおいしいと言っていただいています。私が鹿角に来てびっくりしたのは、果樹園がとても多いこと、そして果物の種類が豊富でおいしいことです。野菜もたくさん採れます。このような鹿角の旬の果物や野菜の魅力を、加工品にして多くの人に食べていただきたいと考えています。また、鹿角のブランド「北限の桃」はとても繊細で、傷がついたり色が悪くなったり、糖度が足りなかったりすると規格外になってしまいます。規格外の桃をジャムやスイーツに加工することで、無駄なく使い切るよう工夫しています。

(桃を煮た時に出るおいしいシロップを、飲むゼリーとして商品開発中)

ーお菓子だけでなくおかずもあって、商品ラインナップがとても豊富ですが、どのように商品開発をしていますか?

米田 「せっかくのおいしい果物を余すところなく使い切りたい」というところから、いろいろな商品が生まれてきました。「桃のコンポート」は、規格外の桃を自家製のシロップで煮詰めたものですが、コンポートにもできない柔らかすぎる桃をムースにして、コンポートとムースとゼリーを味わえる「ムーストルテ」を作りました。

(米田さんが栽培しているとびたけ)

米田 また、昔から鹿角の食卓に並ぶ郷土の味を伝えたいという思いで生まれたのが、「なんばん味噌」や「とびたけのコンフィ」などのおかずシリーズです。とびたけは、味にとてもクセのあるキノコで、他の地域ではあまり食べないのですが、鹿角の食卓には欠かせない食材です。それを、鹿角の人でなくても食べられるよう少しマイルドな味付けに工夫して、パスタやバゲットに合うコンフィとして商品化しました。「こういう商品を作りたい」と思っても、なかなかうまくいかなくて、開発には大体2〜3年かかっています。一度思ったらなかなか諦めない、しつこい性格なんです。立ち上げ当初からお世話になっている秋田総合食品研究センターの先生には、いつも良き相談相手になっていただいています。

女性が生き生きと働ける場を

ーレディースファームという名前には、どのような思いが込められていますか?

米田 立ち上げの動機は、鹿角のおいしい果物を加工品にしたいというのに加え、「女性が働ける場所を作りたい」という思いもありました。女性は、育児があったり介護があったり、働ける時間が人によって違うんですよね。だから、それぞれの家庭の事情をカバーし合いながら働けるよう、勤務時間に配慮しています。子育てや介護をしている人も働くことが出来て、また、農家の女性の副業にもなるような場所にしたいと思ってやってきました。家庭の事情や病気などでたくさんの別れも経験してきましたが、こうやって続けて来られたのは良いスタッフに恵まれたからで、本当に感謝しています。

(手早く進められていく、桃の皮むき作業)

地域の中で、たくさんの企画を立ち上げ

ーレディースファームを運営する傍ら、さまざまな取り組みをされてきたと聞きました。

米田 JAかづのの支部長などを務めさせていただいた中で、学校給食に地元の野菜を納めるための組織づくりや、花輪SAや道の駅あんとらあの直売所立ち上げ農協の加工所で作った味噌を販売する仕組みづくりなど、さまざまな企画を立ち上げてきました。立ち上げて、軌道に乗るまで見守ってから、後の人たちに任せる、ということを繰り返してきました。

女性は、着実に前に進む力を持っている

(笑顔あふれる加工所の皆さん。©️R-room鈴木竜典)

ー新しい道を切り拓いてきた米田さんから、a.woman読者へメッセージをお願いします。

米田 私は農業の分野のことしか分からないけれど、他の分野でもいろんな活動を頑張っている人はたくさんいると思います。新しいことを始めることは、周りの意識との闘いでもあります。私は、女性って着実に着実に、前に進んでいく力があるなと感じています。華々しい手柄や業績を追い求めるのではなく、目立たなくても、地に足をつけて進んでいく力を持っている。そんな、秋田県の女性たちに、いろんなことを成功させていってほしいなと思います。

「50歳で直売所を立ち上げてからの25年は、まるで、深い雪の中をラッセルしながら進んでいるような年月でした」と振り返る米田さん。「必死にラッセルして、ふと後ろを見ると、みんなが後からついてくるの。何かを立ち上げるのって、本当に大変」と話す米田さんの笑顔は、地に足をつけて前に進んできたからこその輝きに満ちていました。今、何かを頑張っている人も、これから始めようと思っている人も、米田さんの言葉から感じるものは多いのではないでしょうか。

DATA

【米田 敦子さん】
秋田県能代市二ツ井出身。保育士として働いていた頃、市役所職員の夫と結婚。1979年、鹿角市に移住。1998年、直売所を開設。2000年、「レディースファーム」を立ち上げ、加工所でアップルパイなどの製造を開始。2017年、グループ経営から個人経営に変更。レディースファーム運営の傍ら、JAかづの柴平支部の支部長、JAかづの女性部部長、JAかづの女性理事、あんとらあ直売所代表などを務めてきた。二児の母。

【レディースファーム】
鹿角市花輪字新斗米55
TEL/0186-25-2209
HP
Instagram

キーワード

秋田県内エリア

Writer

Makiko

Makiko

有限会社無明舎出版勤務を経て、フリーライターとして、雑誌、フリーペーパー、WEBなどの記事を執筆。秋田県大館市在住。秋田県北を中心に、秋田の観光・食・子育て・話題のスポット・スポーツなどについて発信しています。 mama plan(ママプラン)所属
https://mamaplanodate.net/information/

関連記事

ワタシの台所へようこそ。お腹いっぱいの幸せを届けたい

ワタシの台所へようこそ。お腹いっぱいの幸せを届けたい

「いいな」と思うものはみんなで共有したい。人が集まるお菓子屋さんは、人を輝かせる天才

「いいな」と思うものはみんなで共有したい。人が集まるお菓子屋さんは、人を輝かせる天才

鹿角の自然が生み出す豊かなエネルギーを、地元に還元したい!

鹿角の自然が生み出す豊かなエネルギーを、地元に還元したい!

【新春特別対談】食と育児のプロに聞く「子どもの食にとって大切なことは?」

【新春特別対談】食と育児のプロに聞く「子どもの食にとって大切なことは?」

仕事第一だった私が育児の壁に激突!娘が教えてくれた「人を知る」ということ 

仕事第一だった私が育児の壁に激突!娘が教えてくれた「人を知る」ということ 

自分も周りも大切に。「楽しい」に囲まれて続けてきた、ライター業と子育て支援活動。

自分も周りも大切に。「楽しい」に囲まれて続けてきた、ライター業と子育て支援活動。