ふるさと秋田にAターンして、会社員からりんご農家に転身した島田幹子さん。夫の雄一郎さんと2人で、秋田市河辺にある3か所の園地で丹精込めてりんごを育てています。今では「一休農園のりんご目当てでお店に来た」というファンもいるほど人気のりんごですが、農業未経験の夫婦が歩んだ道のりは、平坦ではなかったようです。お話を聞かせて頂きました。
移住〜農業修行時代
ー農家になるのは、ご夫婦の夢だったんでしょうか。
島田 いえ、夫が「農業やりたい」と言い出した時、私は止めました。私は上小阿仁村出身で、小さい頃から農家さんの大変さを身近に見て来たので「未経験で農業なんて!」と思って。夫は東京でフードサービスのマネジメントをしていたのですが、「自然に関わる仕事がしたい!」という想いが募り、宮城で漁師に転身した経歴があります。私の故郷であり、夫の母の生家がある秋田に移住する話が出た時、夫の中で「秋田でやりたいこと=農業」という気持ちが固まっていました。夫はこうと決めたらどうしてもやりたい人なので、夫婦で農業研修を受けることにしたんです。当時は子供がいなかったので身軽でしたし、私が会社員として働けばなんとかなるかな、という気持ちでした。
ーりんご栽培の魅力ってどんなところですか?
島田 果樹園は、収穫できるまで何年もかかります。1本1本の木とずっと付き合っていくところに魅力を感じました。一休農園がある土地も、荒地を開拓してから長年りんごを育てて来た歴史があるんです。一方、農家をやめる時には、まだ実をつける木でも切り倒さなければいけません。獣害などの問題もあるので、管理できない果樹園は放置しておけないんです。農業を続けるうち、河辺りんごの伝統を守りたいという思いも強くなりました。
移住したのは2017年ですが、営農にこぎ着けたのは2019年のことです。2年間は、大切に育て続けて来た木を未経験の私たちに任せても良いと言ってくれる農家さんを探しながら、農作業をお手伝いして実践でノウハウを学びました。今の園地を借して頂けることが決まり一休農園をスタートさせる頃には、私も農家になることへの迷いは消えて、りんご作りに夢中になっていました。
一休農園スタートと同時期の妊娠
ー柴犬の一休くんは、農園をスタートした年にお迎えしたんですよね。
島田 そうです。一休という名前は、私がつけました。「おいしいりんごを食べて、ほっとひと息ついてもらいたい」という願いを込めて、そのまま農園の名前になっています。実はもう1つ、脇目も振らず走り続ける夫へ「時々、ひと休みしてね」というメッセージも込めています。
私たちにはずっと子どもができなくて、秋田に来る前から不妊治療をしていたんです。一休農園を始める頃には、子どもは諦めていて…クマ対策の番犬という名目で、一目惚れした一休を迎えました。でも、不思議なことに一休を迎えてすぐ、自然妊娠したんです。しばらく妊娠に気づかなかったくらい、予想もしていないことでした。妊娠が分かった時は嬉しくて…信じられなかったです。もしかしたら、一休と暮らして、張り詰めていた心がふうっと緩んだことで、私のところに来てくれたのかもしれないな、と思います。
ーそんな奇跡ってあるんですね!妊娠中の農作業は大変じゃなかったですか?
島田 重いものを持ったり、かがんで草むしりしたりなど、できない作業は夫に任せて、役割分担しました。でも、一休農園初めてのりんごは、大きなおなかで収穫しました!子どもが生まれてからは、おんぶ紐で背負って畑に出たり、お昼寝している横で袋詰め作業をしたり。でも、周りの農家さんは皆、子育てもりんご栽培も大先輩。農作業しながら子育てしていた話を聞いていたので、農家だから特別に出産・育児が大変だとは思いませんでした。むしろ、息子は周囲の人から声をかけてもらったり、お茶っこに呼んでもらったり、あたたかい環境で子育てできていることがありがたいです。
一休農園らしいりんごを育てる
ー 一休農園のりんごは、パリッとした食感でおいしいですよね。工夫していることはありますか?
島田 なるべく葉を取らずに実が養分を吸えるようにしたり、生物由来の有機肥料を使用したり、色づきよりも食感を重視して育てているんです。また、収穫したら48時間以内を目標にして出荷します。食感にこだわるのは、お客様の声に応えたいという想いからです。卸売ではなく小売店やイベントで直販することで、食べてくださる方の声を聞くようにしています。
農家になるきっかけは夫でしたが、やると決めたからには「良いものを作りたい」という気持ちは私も同じくらい持っています。そのため、栽培方法について意見が食い違い、ぶつかり合うことも。夫婦で真剣にりんごに向き合っています。
ー10月におすすめの品種はなんですか?
島田 「早生(わせ)ふじ」と呼ばれる、甘みと酸味のバランスが良いふじの早熟種がおすすめです。中旬になれば甘味が強い「シナノスイート」や、後半からは秋田の品種「秋しずく」も楽しめます。一休農園では梨も栽培していて、下旬から採れるなめらかな食感のラ・フランスが人気です。
ー大変なことはありますか?
島田 今年はクマの被害がかなり大きいです。毎晩園地に入って来て、枝ごと折られて食べられてしまい、出荷量に影響しています。クマの他にも、トリやハクビシンも食べに来ます。夏に長期間雨が降らなかったのも大変でした。酷暑で収穫時期の見極めも難しいです。
秋の収穫後は、雪中りんごや加工品作りも
ーりんごソルベやドライりんごを食べた時びっくりしたんですが、どれもおいしさを凝縮したような贅沢な味わいですよね!
島田 ありがとうございます!りんごソルベは美郷町のTIGさん、ドライりんごは男鹿のいすとわーるさんにお願いして作ってもらいました。りんごソルベは水を一切使わずに果肉と果汁のみで作られているので、濃厚なのに後味はあっさりしていて他にない味わいです。ドライりんごは完全無添加で、熟成雪中りんごを使っているので砂糖を使っていないのにしっかり甘いんです。どちらも試行錯誤して作ってもらいました。移住して知り合いも少ない中、「こんなことをやってみたい」と話すと、地域の仲間が協力してくれたり、紹介してくれて輪が広がったり。人に恵まれているなと感じます。
ーこれからの目標は?
島田 新しいことに挑戦するより、納得のいくりんご作りができるように精進したいです。90歳の先輩農家さんですら「まだまだ学ぶことがある」っておっしゃるくらい、りんご作りは奥深いです。先輩たちからは「樹と会話しろ」と言われますが、就農6年目、会話はまだ難しいです。毎年同じ味と大きさのりんごを安定して作れるように、経験不足を補うために手をかけて、真面目にりんごを育てていきたいです。
取材前に、農業関係の方から「全くの農業未経験の島田さんご夫妻が、こんなに早く地域に馴染んだのは、幹子さんのお人柄も大きい」と聞いていました。それを伝えると、幹子さんは「そんな風に見ていてくださる方がいるなんて…。」と少し目をうるませて、「でも、私が何かしたということはなくて、周りの皆さんが親切なんです。お世話になりっぱなしです。」と笑いました。周りに惜しみなく感謝と愛情を伝えられる幹子さん。青空の下、りんごたちもキラキラ光って見えました。
DATA
【島田 幹子さん】
秋田県北秋田郡上小阿仁村出身。宮城で会社員をしている頃、当時漁師をしていた雄一郎さんと出会い、結婚。2017年に幹子さんの故郷であり、雄一郎さんの母の生家がある秋田に移住。2年間の農業研修を経て、2019年に一休農園の経営開始。2020年、出産。
スノーボードが趣味で、インストラクター歴や大会出場経験もあるほどの実力。
現在は、柴犬の一休くんと息子さん、そして「ほっとひと息つけるりんご」を愛情たっぷりに育てています。
【一休農園】
園地/秋田県秋田市河辺岩見三内地区
電話/090 – 9833 – 4506(平日 10:00 – 19:00)
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・いとく新国道店
・いとく自衛隊通店
・あぐりんなかいち
・マックスバリュー広面店
・道の駅かみこあに(※)
・秋田空港(※)
※出荷量によって、納品のない日もあります
ジュース、ドライりんごなどの加工品は完売(2023年10月現在)。
2023年秋の収穫後、冬期間に製造加工し、順次販売予定。