ブライダルを中心にフリーランスの司会者として活動しながら、キッズコーチング講師として子育てに関する講座を開いている山口せいこさん。なかでも、子どもの性格を知る手掛かりとなる気質診断が人気を集めています。どうしてうちの子はこうなんだろう?こんなときどう対応すればいい?そんな悩みを抱えるお母さんたちを救うべく活動する山口さんですが、その背景にはご自身の子育てでの挫折や苦しみがあったそうです。
悩みだらけの育児とキッズコーチングとの出会い
ーキッズコーチングについて教えてください。
山口 キッズコーチングとは、その子がどんな子か理解して、その個性をより伸ばせるように親が「コーチ」になって導くための声かけや対応などの手法です。その理論には「心の発達・7(セブン)ステップ」と「気質」の2つの柱があります。人は0歳から6歳までの間に7つの成長の階段を上るとされていて、それをセブンステップと呼んでいます。一方、気質は簡単に言うと「生まれつきの個性」のことです。気質診断はチェックリストに基づいて5つのタイプに分けていて、どんな個性や能力を持っているのか、どう対応するのが適切か判断する材料になります。私が企画するイベントは、この気質診断や気質に関する講座をメインにしています。
ーキッズコーチングを学んだ経緯を教えてください。
山口 きっかけは今6歳の長女の存在です。大学卒業後に教育やエンターテインメント関連の仕事のなかでイベント司会などをして、次第に自由度の高い働き方に憧れて喋り手として独立し、フリーランスになりました。出産するまで十数年の社会人生活は常に仕事優先で、37歳で長女を出産したときは「これまでの仕事の日々に比べたら子育てなんて余裕でしょ」と思ってたんです。
ところが、独身時代が長い分わがままに生きてきたので、思い通りにいかないストレスで娘との生活になじむのが大変でした。さらに、長女が1歳を過ぎたころから悩むようになりました。長女はいつもどことなくムスッとしていたり、外でひっくり返ったり。何か注意すると暴れて手がつけられず、常に娘とのぶつかり合いでした。お休みしていた仕事も少しずつ入るようになったけど、手のかかる娘のおかげで自分の時間が取れないというジレンマ。そんな中次女を出産すると長女の比較対象ができました。手がかかる長女に対して次女は比較的落ち着いていて。同じ環境で育っても性格が違うと気づき、自分の躾だけが原因ではないのでは?と考え始めました。
そんな時にネットで目にしたのがキッズコーチングの「気質」についてです。気質診断で分類されるとあるタイプに長女がぴったり当てはまっていて、私はこれで救われるかもしれないと学び始めました。
ー実際に学んでみてどうでしたか?
山口 はじめはキッズコーチングを素直に受け入れられない自分もいたんですが、実践してみたら長女が変わった部分があって。公園で遊んで帰る時間になったらかける言葉を「もうごはんだよ!帰らないといけないよ」から「あと何回すべり台遊んだら帰る?」に変えたら、娘が自分の決めた回数だけすべってすんなり帰ったんです。それまでは否定の言葉をかけ続けてしまっていましたが、その時のその子に合った対応が大事だと実感しました。
子育ての悩みは長女のことが多かったですが、次女にも心配はありました。次女は4月1日生まれなのでクラスでも一番の末っ子で、周りに遅れをとらないかと多少不安でした。でも、キッズコーチングで「心の発達も決まった段階があり、順番に成長する」というセブンステップを学んだことでだいぶ解消できましたね。「この時期ならここまでできれば大丈夫」と自分にも余裕が持てるし、気質と合わせてどんな関わり方が適切か判断できます。
気質についての知識を得たことで娘たちの発表会も楽しめるようになりました。頑なに動かないわが子を見ても、参加の意思があるのは分かるので心配しなくなりました。
気質診断とは「その人を知る」ということ
ー気質診断を受けるお母さんたちはどんな様子ですか?
山口 悩みを聞くだけでどの気質タイプか分かるんです。生意気で困るとか、言うことを聞かないという場合は、外で頑張って家で発散するタイプ。園や学校ではしっかり者なことが多いですね。そう伝えるとお母さんたちも頷いています。どのタイプでも必ず良いところ・困るところがあって、今はそれほど悩んでいなくても後々多かれ少なかれ困りごとが出てきます。困るといっても結局は受け止め方次第なので、自分の子のタイプを知ることで困る度合いも対応も変わってきます。診断後はお母さんたちがすっきりした表情で帰っていくので、私も役に立てたんだなとほっとします。
ーいまは司会業とキッズコーチングの二つが活動の軸なんですね。
山口 司会業のスケジュールに余裕のある時期に、キッズコーチングイベントを企画しています。全く別のことをしているようで、キッズコーチングで学んだ気質がブライダル司会にも生きることがあります。進行する上でこんな言葉を選んだら良いかなとか、新郎新婦の子ども時代を想像しながら台本やプロフィール紹介文などを作成しています。
ー自分自身の気質も分かるんですか?
山口 学んでいく中で分かりました。私は人と関わるのが苦手だと思っていたけど、実は甘え下手なタイプで寂しがりや。思い返せば、何度も周りの人に助けてもらってたんです。キッズコーチングを学ぶ時も気質診断を始める時も周囲の助言があって決断できました。キッズコーチングを通してわが子を知り、自分を知ることができて、改めて、気質を学ぶことは「人を知ること」なんだなと思いますね。
悩んで、学んで、充実した今がある。令和は「育児を学ぶ時代」
ー外部から講座を依頼されることもあるそうですね。
山口 公的機関からも依頼を受けるようになりました。先日は自治体の祖父母世代向け講座に呼んでいただいて、気質と絡めて「現代の育児」についてお話ししました。お孫さんがいる方々が自分の世代との違いに驚きながらも頷いて聞いてくれましたね。ほかにも、幼稚園や児童クラブの講師としてお母さん向けにお話しする機会もあります。今は私も子育て真っただ中のお母さん目線ですが、今後娘たちが成長するにつれて体験談も増えて、キッズコーチング講師として深みが増すのではと我ながら楽しみです。
ーいま子育てに悩んでいるお母さんたちへメッセージをお願いします。
山口 頑張らなくていいよと言われてもそれが辛い人もいます。何を手抜きしていいのか分からない人もいますよね。子育てに悩むお母さんたちには、コーチングに限らず自分に合いそうなものをみつけて学んでみてほしいなと思います。自分の育児を客観的に見ると悩みを解決する糸口が見えてきます。私自身、悩んだからこそキッズコーチングを学んで、そして充実した今があるので、ぜひほかのお母さんたちにもその子の個性を知って向き合ってほしいなと思います。
「娘たちがいなければキッズコーチングにも出会わなかった」と前向きに捉える姿が印象的でした。自分の子であっても、個性をもった違う人間。特性を認めてどう向き合うのか、親として改めて考える機会になりました。今後も山口さんの活動によって悩めるお母さんたちがひとりでも多く救われることを願っています。
DATA
【山口せいこさん】
秋田市出身、在住。県外の大学を卒業後秋田にUターン。教育業界や音楽業界などでの勤務を経てフリーランスとして独立し、ラジオパーソナリティや司会者として活動。2017年に長女、2020年に次女を出産するも子育てに悩んだ経験からキッズコーチング講師の資格を取得。屋号をMARUと定め、「子育てで疲れた心のトゲトゲをまあるくおさめる」ために、これまでの司会業と並行して子育てに関する講座を開催している。