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山の息吹をかぎ針に込めて。リュネビル刺繍で描き出す豊かな自然

Atelier Sankayou(アトリエ サンカヨウ)池田佳代さん

ビーズやリボンなど様々な素材を使うリュネビル刺繍で、山や植物の美しさを表現する刺繍アーティスト、Atelier Sankayou(アトリエ サンカヨウ)の池田佳代さん。刺繍作家としての活動の傍ら、鳥海山の山小屋管理人、農業女子として自然に関わる生活を送っています。刺繍と登山、異なる世界のように思えますが、池田さんが自ら体験し、感じたことが作品に表れています。その想いとライフスタイルについて、お話を聞かせていただきました。

(鳥海山を背景に)

(池田さんの刺繍作品。鳥海山の七合目、鳥海湖を見下ろす御浜小屋からの景色)

自然と密に関わる生活

-1年を通して、どのようなライフスタイルを送っているのか教えてください。

池田 刺繍の作品制作や展示会、ワークショップなどを行いながら、春と秋は農作業の手伝い、夏は鳥海山の山小屋の管理人、冬は矢島スキー場のパトロールの仕事をしています。登山を通じて出会った友人に誘われて、2019年に故郷の山形から秋田に移住し、矢島スキー場で働き始めました。それから、現在のような生活を送っています。

(鳥海山の山小屋にて ※写真提供:池田佳代さん)

興味のあることに次々挑戦する人生

-秋田に移住される前は、どんなことをされていたんですか?

池田 その時々でやってみたいことに挑戦してきました!フランスのパリへ旅行をした際に街並みや文化に大きな衝撃を受け、25歳から本格的に語学の勉強を始めました。今思えば、このパリ旅行が私にとっての転機で、以降フットワークが軽くなった気がします。31歳の時にワーキングホリデーで1年半カナダに住み、さまざまな夢を持つ人々と出会う中で、自分も何かを成し遂げたいという気持ちが強まりました。30代前半は働きながら勉強に励みました。まず、学生時代から興味のあった保育士の資格を取得。その後リュネビル刺繍を学ぶために東京に通い、約3年間、本場パリの技法を伝える先生に教わりました。そして刺繍作家としての活動を始めました。現在は季節ごとに違った環境で働くことで、新たなインスピレーションを得ています。

(山で出会った生き物たちの刺繍)

リュネビル刺繍の魅力

-刺繍はいつから始めましたか?

池田 刺繍は20代から趣味として始めました。当初は本の図案を参考にして一般的な手刺繍を楽しんでいましたが、帰国後に偶然目にしたリュネビル刺繍に心を奪われました。学べば学ぶほどその奥深さに夢中になり、今もその魅力に引き込まれ続けています。

(色とりどりの刺繍糸)

-リュネビル刺繍の特徴を教えてください。

池田 リュネビル刺繍は、フランスのリュネビル地方で発祥した伝統的な刺繍技法です。専用のフレームに生地を固定し、専用のかぎ針を使って生地の裏側から糸を引っ掛けて、表面に出していきます。ビーズやスパンコールをなど、様々な素材を刺繍に取り入れられるので、表現方法は無限大なんです!いつも「どうやってこの葉脈や花弁を表現しよう」とワクワクしながら刺しています。

(生地の裏側から刺繍を行う

-なぜ山の動植物をモチーフにしようと思ったんですか?

池田 実家が鳥海山の登山口近くにあり、子供の頃から登山は私にとってライフワークのようなものでした。鳥海山は花の百名山でもあり、いつ登っても違う花を見ることができるんです。目の前の美しい景色を、ごく自然にモチーフとして選んでいました。

(図案の絵と実際の刺繍 ※写真提供:池田佳代さん)

-制作過程を教えてください。

池田 山で出会った植物を写真に撮り、それを元に絵を描きます。絵を図案化して、様々な素材を選んで刺繍します。ビーズの透明度や大きさ、糸やリボンの太さや色によって、仕上がりが全く変わってくるんです。また、モチーフの動植物について生態を調べ、作品のイメージに反映させています。イメージ通りに表現できるまで、刺してはほどいてを繰り返して…刺繍していると、あっという間に1日が終わってしまいます!

(たくさんの素材を組み合わせて表現された花弁や葉)

鳥海山の自然をダイレクトに感じて

ー鳥海山の山小屋管理人としての仕事について詳しく教えてください。

池田 私が管理している山小屋は鳥海山の山頂にあります。毎年6月末に山に入り、9月の頭までは基本的に下山せず、山小屋に宿泊される方への対応や、施設管理をして過ごします。電気も電波もあるし、雨水をボイラーで沸かしてシャワーを使える日もあります。バイオトイレも立派ですよ!

(入山時にはヘリで約2ヶ月分の食料を荷上げします ※写真提供:池田佳代さん)

(山小屋の内観 ※写真提供:池田佳代さん)

池田 夜に目を覚ました時に見える、空を埋め尽くすほどの星たちや、朝日のグラデーション、夕日の迫力…圧倒されるほどの美しさです。山の天気は変わりやすくて、その時しか見られない風景がたくさんあります。

(日本海に鳥海山の影が映る、影鳥海。山小屋からの景色 ※写真提供:池田佳代さん

(鮮やかな黄色の花をたった1日だけ精一杯咲かせるニッコウキスゲに、「元気をもらえます」と池田さん。 ※写真提供:池田佳代さん)

作品展やワークショップについて

ー山頂美術館での作品展も行ったそうですね。

池田 2021年に、鳥海山の山頂にある山頂美術館で個展を開催しました。この美術館は、鳥海山の頂上部に位置し、鳥海山大物忌神社本殿のある山頂参籠所の一画にあります。開館期間は山小屋の夏期営業期間の7月初旬〜9月初旬です。作品展を見てから、意識して植物を見るようになったり、名前を覚えたという感想もたくさんいただきました。鳥海山の自然と作品が結びついた展示になったのではないかと嬉しく思います。

(鳥海山頂美術館の作品展にて。イヌワシの刺繍 ※写真提供:池田佳代さん)

(標高2236mにある鳥海山頂美術館の外観 ※写真提供:池田佳代さん)

ー今後も池田さんの作品に触れられる機会はありますか?

6月22日〜7月21日に八幡平ビジターセンター、7月26日〜8月17日に関前賑わい屋敷(鹿角市)で展示会があります。ワークショップも積極的に行っていきたいです。また、秋頃からはリュネビル刺繍の教室を始めたいと考えています。リュネビル刺繍は針の扱いに慣れるまでは大変ですが、慣れてしまえば速く自由に刺繍ができるんです。展示会や教室を通じて、リュネビル刺繍の魅力をお伝えできればと考えています。

(サンカヨウの刺繍。ご自身の名前「カヨ」が含まれることから、アトリエの名前に選んだそうです)

勇気のいるような選択でも、軽やかに人生を楽しむ姿勢が印象的な池田さん。自然の豊かな息吹や力強さ、優美さが息づく作品からも、迷いなく挑戦する柔軟さを感じます。雄大な自然の中に身を置いてみれば、思い悩んでいることがちっぽけに感じるのかもしれません。自分の興味や情熱に、素直に従って人生を楽しむことの大切さを再認識させられました。

DATA

【池田佳代さん】
山形県酒田市出身。実家が鳥海山の登山口付近にあり、小さい頃から登山が身近だった。趣味で刺繍を続けながら、カナダへのワーキングホリデー、保育士資格の取得など、フットワーク軽く様々な挑戦をする。30代前半から約3年間、リュネビル刺繍の技術を学ぶため働きながら東京に通い、Atelier Sankayouとして刺繍アーティストの活動を始める。現在は秋田に移住し、冬は矢島スキー場のパトロール、夏は鳥海山の山小屋管理人、春と秋は農業手伝いという生活を送っている。

【Atelier Sankayou(アトリエ サンカヨウ)】
TEL/080-2567-0476
E-mail/kayo.ikeda@yahoo.com
Instagram

 

キーワード

秋田県内エリア

Writer

畠山彩

畠山彩

整理収納アドバイザーとして講座、講演、お片づけサポート等で活動中。 汚部屋暮らしから片付けのプロになった「めんどくさい」が口癖の2児の母。 時短、楽ちんな暮らしで、年間100冊本を読むおうち時間を実践。チャイルドコーチングの資格も保有。
https://mottoakita.com

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