年々、受ける夫婦が増加していると言われる不妊治療。国立社会保障・人口問題研究所の2015年の報告によると、日本の夫婦の約5.5組に1組は、実際に不妊検査や不妊治療をしています。受ける経緯や内容、結果は千差万別ですが、今回は一つのケースとして、不妊治療をしてお子さんを授かった女性のお話を聞くことができました。
パートナーと不妊検査を受診
秋田市に住む阿部さんは、のちに結婚するパートナーとの交際中、30代後半という自分の年齢を考え、結婚前に不妊検査を受けました。パートナーの協力のもと、月経の周期に沿っておよそ10以上もの検査を受けた結果は、お二人とも“すべて異常なし”。妊娠したら結婚も…と考えていましたが、その後なかなか妊娠はしませんでした。
「付き合っていた頃から、主人とは不妊治療について相談していました。それで実際に病院に行ってみたら“結婚をしていないと人工授精はできない”ということが分かったんです」。
そこで結婚前の二人は、まずタイミング療法を始めてみることに。毎日基礎体温を測り、超音波検査で卵胞の大きさを確認してタイミングを指導されるなど、月に2回通院しました。「主人はその頃からとても協力的でありがたかったです」。
予定外の8回目の人工授精で妊娠
平成27年秋にお二人は結婚。それまで6回のタイミング療法で授からず、結婚したことで人工授精ができるようになったのですが…。「平成28年の元旦に主人がアクシデントで骨折してしまったんです。その影響で、6月からやっと人工授精をスタートさせました」。
人工授精は、排卵直前に受診して排卵日を推定し、人工授精を行う日を決定。人工授精当日に採取した精液を、管を使って子宮の奥に注入するというもの。阿部さんが通っていた病院では、人工授精の7回目が体外受精へのステップアップの目安とされていましたが、約半年間続けても結果は出ませんでした。
体外受精へのステップアップを予定していた翌月、担当医の諸事情から体外受精のスタートを1カ月先送りすることに。しかしそこで阿部さんは、せっかくだからともう一度人工授精に挑戦することを選び、平成29年1月に8回目の治療を行います。「始めはお酒を控えたり、妊娠できるかワクワクしたりしていましたが、その頃には『どうせできないのに』と思ったり、お酒を控えるのも気にしなくなっていました。でもその8回目で奇跡的に妊娠することができたんです」。
働きながら不妊治療を受け続けるつらさ
働いている女性にとっての不妊治療は、仕事との両立も大きな壁の一つです。阿部さんが人工授精で月に2回通院していたケースでは、卵胞の大きさなどを調べる1回目は、昼休みの開始と同時に会社を出て、12時半の受付時間終了ギリギリに病院に到着。2回目の人工授精の日は、朝イチで病院へ行って10時半に出社していたそうです。
「どちらも生理周期に左右されますから、仕事が忙しくても抜けないといけなかったり、病院も混んでたりと通うのは大変でしたね。タイミング療法の時はまだ結婚前ということもあり、会社には本当の通院理由を言えずにいました」。
人工授精後はさまざまな理由から腹痛をおこすこともあるそうですが、阿部さんも立てないくらいの腹痛に見舞われたことがあるんだとか。そんな腹痛の後に生理がきて落胆したりと、心身ともに大変だったと言います。
回数を重ねるうちに感じた“先が見えないトンネル”
当時はどんなことが一番大変だったのでしょうか。「“年だから”という理由で始めた不妊治療なのに、妊娠できないとやっぱり落ち込むんですよね。治療の回数を重ねていくうちに、どこも悪くないし治療のしようがないのになんで妊娠できないの?と思ったり。先が見えない暗いトンネルに入り込んだみたいで、イヤでイヤで仕方がなかったです」。
周囲の人々との温度差にも悩まされたと言います。「先生は『大丈夫』と言ってくれることでも、私は『早く先に進まないと』と焦ることもありました。主人は話を聞いてくれましたし、『辛いなら1回休もう』とか『二人でがんばろう』と言ってくれたのですが、実際に体調が悪くなったり会社を休まないといけないのは私だけなので、言葉が軽く聞こえたりもしましたね。人工授精の翌日に友人たちが心配して言葉をかけてくれるのも、ありがたいことだと分かってはいても、だんだん苦痛になっていました」。
気になる不妊治療のお金のこと
気になるのは費用面。阿部さんは現金払いにしましたが、病院によってはカード払いOKのところも。当時の阿部さんの人工授精のケースでは、1回目2,140円、2回目13,250円で、毎月15,390円かかりました。「毎月その金額を捨てたと考えるようにしていました」。
阿部さんは、病院から秋田市の助成制度について教えてもらい、助成を受けました。申請方法は、領収書を保管しておき、治療がすべて終わってから申請します。「私は人工授精だけで12万かかっていますが、当時の助成金の上限は5万円でした。ありがたいことですが、労力や時間のことも考えるとちょっと足りないなと感じることも。しかも毎月病院に通っている時はもらえないので、やはり費用面は厳しかったです」。
暮らしが変わっても、体が痛くても子育てが楽しい!
そして平成29年10月、無事長女をご出産。待望のお子さんが生まれて生後2カ月くらいまでは、子どものいる生活に慣れるのが大変だったそうです。「でも、子どもがいる暮らしがこんなに楽しくて、子どもがこんなにかわいいとは思わなかったですね。私の支度が終わるまで待ってて、終わったらニコッと笑ってくれるんですよ(笑)」。
産後の体の変化はというと…「産んでしばらくは関節の至るところが痛かったです。もともと体を動かすのが好きで、産後2カ月で自転車に乗ったのですが体が痛くて痛くて…それが辛かったですね〜」。
高齢出産のメリットについては、「アタフタしないしイライラもしない。泣いてても仕方ないとか、いろんなことを受け止められるんだと思います。変に期待もしないですね。ポッチャリしてても『ウケるー!』と思って(笑)」と阿部さん。その笑顔には、母になった喜びがにじんでいました。
アウトドア派の阿部さんご夫妻は、なんと妊娠9カ月近くまでトレッキングをしていたり、生まれる直前までお一人で毎日2時間も歩いていたそうです。「早く子連れで登山や自転車を楽しみたい!」と、これからの楽しみを教えてくれました。不妊治療という手段を選び、さまざまな思いをしながら授かったお子さんと、これからの子育てライフを思いっきり楽しんで欲しいですね。貴重なお話をどうもありがとうございました!