昔読んだ絵本を大人になって読み返した時。子どもに絵本を読み聞かせしている時。 ふとしたシーンに深い意味を感じたことはありませんか?絵本には、大人を虜にする不思議な魅力がありますよね。今や、有名雑誌で絵本特集が組まれるほどに、大人にも絵本が人気です。
秋田県に2名しかいない絵本セラピスト協会認定基礎絵本セラピスト®のうちのお一人、木村加奈子さんは、自宅になんと728冊もの絵本(取材した4月時点)を持つ元中学校国語教諭。木村さんが提案する、子どもとはひと味違った大人ならではの絵本の楽しみ方や、その奥にある想いを聞いてきました。
大人が対象の絵本セラピー®って?
— 絵本セラピストは、どのようなことをする人なんですか?
木村 絵本セラピストは、絵本の読み聞かせやグループディスカッションを通して自分を知る機会を提供する、絵本を使った参加型ワークショップ「絵本セラピー」を行います。
基本的に対象は、絵本を『深読み』できる大人です。子どもたちが絵本の世界に飛び込んで楽しむのに対し、大人は絵本が作り物だと分かっていますから、自分の経験、知識、価値観などを反映させたメッセージを絵本から受け取ります。絵本の世界に入り込むのではなく、絵本を読んで湧き起こる自分の感情を楽しむイメージですね。
— 絵本セラピーには、どのような効果があるのでしょう?
木村 素直に自分の感じたことを話し、感想をシェアする中で、癒し効果のほか「自分自身をより知る」「参加者同士のフラットな関係性ができる」などの効果もあります。
例えば、管理職など普段自分の困りごとを自由に話せない立場の方々が、弱さや悩みを打ち明けられる機会になったり、中高生が道徳の授業で人に言われると押し付けに感じてしまうことを、絵本なら素直に受け入れられたり。親向けのセラピーでは、「子育てはみんな違っても良いんだ」「良いところもできないところも認めて、一緒に育っていけば良いのだ」という気づきを得た方もいました。
お母さんたちにセラピーを行うと、世の母親たちは自分のことを全然褒めてあげてないんだなあということに気付きます。「自分をほめてあげたい時、どうしていますか?」という問いかけに、「コンビニでちょっといいお菓子を買う」と言った方がいましたが、それくらいなんです。もっと自分にご褒美をあげていいのに!と思いますね。
「人の話を聞く」を目指したら絵本セラピーにつながった
— 木村さんはなぜ絵本セラピストになろうと思ったんですか?
木村 絵本セラピストになる前は、地元の北海道稚内市で小学生の頃からの夢だった教師として働いていました。同僚と結婚し、2人の子どもにも恵まれました。しかし、出産時のトラブルで次男が脳性麻痺になって。子どもの看護のため、大好きだった教師を辞めることを決めました。
当時、周りからたくさんの励ましの言葉をもらいました。とてもありがたい半面、「止まない雨はない」「あなたなら乗り越えられる」「がんばれ」という言葉を重く感じ、逆に辛くなっていきました。同じ障害児の親は「この子に比べたらこれができるじゃない」と、 狭い世界で比較し合うばかりで、同じ目線で話を聞いてくれる人がいませんでした。
そんなある日、外出先で2歳の男の子が車椅子の次男に近づいてきました。ほかの多くの親と同じで、男の子のお母さんが「近づいちゃいけません」と叱るだろうと思ったら、「まずは、こんにちはでしょう」「いろいろ聞いてもいいですか?」と話しかけてくれたんです。
話をしている中で、そのお母さんが子育てに悩んでいること、次男の話を聞いて何かを感じてくれたことが言葉の端々から伝わってきました。次男や私の存在が、誰かに何かを感じさせ、立ち止まるきっかけを作れるのでは?そんなふうに感じました。 それから「人の話を聞く」ための勉強を始めたんです。
— 「人の話を聞く」ことの大切さや可能性を感じたんですね。
木村 そうです。そこでまずは、通信で心理カウンセラーの資格を取得し、カウンセリングの勉強をしました。その後セラピーなどの勉強もしていたんですが、そんな中、たまたま主人のつてで、北海道内で活動する絵本セラピストと出会ったんです。
先に絵本セラピーを受けた夫から、「絵本ってすごいよ!子育てにも役立つし、『人の話を聞く』というあなたがやりたいことにもつながるんじゃない?」と背中を押され、絵本セラピスト養成講座を受けて資格を取りました。
その後、夫に道内転勤の話が出たので、どうせ遠くに転勤になるなら夫がいつか帰りたいと言っていた地元(北秋田市)に帰ろうという話になり、夫が秋田県の特別支援学校教諭として採用試験に受かったので、家族で移住しました。
がんばる女性へ!木村さんが選ぶとっておきの絵本
— 自宅にある728冊の絵本はアプリで管理されているそうですね。そのリストの中から、家事に仕事に子育てにがんばっているa.woman世代の女性に向けて、おすすめの絵本を選んでください!
木村 こんな絵本はいかがでしょう?
「えらいえらい!」(著・ますだゆうこ/絵・竹内 通雅/そうえん社)。あなたはどんな自分をえらい!と褒めてあげたいですか?
「わたしとなかよし」(著・ナンシー・カールソン/訳・中川千尋/瑞雲舎)。誰よりも自分自身と仲良くなって、自分で自分のご機嫌をとってあげてほしい!
「とうだい」(著・斉藤倫/絵・ /福音館書店)。誰かのために灯る灯台のような女性に。
「ちいさなあなたへ」(著・アリスン・マギー/訳・なかがわちひろ/絵・ピーター・レイノルズ/主婦の友社)。 子どもにかかりきりになって苦しくなっているお母さんへ。
「たくさんのドア」(著・アリスン・マギー/訳・なかがわちひろ/絵・ /主婦の友社)。 新しい環境へと向かっている人へ。
木村 他にも、笑える絵本、癒やされる絵本、考えさせられる絵本、涙する絵本…。 たくさんの絵本がみなさんに読んでもらうことを待っていますよ。10分程度で読める絵本を、せひ自分自身のために読んでみてください。
— 最後に、木村さんの今後の夢や目標を教えて下さい。
木村 これからも、さまざまな世代の方々に絵本の魅力お伝えしていきたいです。かく言う私自身は、昔から絵本が好きだったわけではありません。子育て中の絵本は、自分のためではなく、子どものためでした。
でも、誰かに読み聞かせしてもらって初めて、 絵本の魅力に出会ったんです。絵本を自分で読むだけでもセルフカウンセリングになりますが、人に読んでもらうことで気づけることがたくさんあります。
ゆくゆくは自宅に「みんなが絵本を読める場所」もつくりたいです。今は、私自身の活動や絵本の魅力を広げるのが先だと思いますが、いつか、そんな場所をつくる日のためにも、活動を続けていきたいです。
忙しい毎日の中で、自分の気持ちを見つめなおす機会ってなかなかないですよね。絵本セラピーなら、気軽にその入り口に立てそうです。6月からは、北秋田市民ふれあい プラザ「コムコム定期講座」で木村さんの絵本講座がスタートします。どなたでも参加できますので、木村さんの絵本セラピーを受けてみたい方はチェックしてみてください。詳しくはこちら(PDF)。
【木村加奈子さん プロフィール】
1978年、北海道稚内市生まれ。二児の母。北海道内の短大を卒業後、1999年から公立中学校国語教諭として13年間勤務。2010年に出産した次男が出産時のトラブルにより脳性麻痺となり、2年後に退職。上級心理カウンセラー、メンタル心理カウンセラーの資格取得を経て、2016年に絵本セラピスト協会認定基礎絵本セラピストの資格を取得。2017年に夫の出身地である北秋田市に移住し、主に大人向けに絵本セラピー・絵本講座・講演会などの講師を務める。