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天然秋田杉で作るひとつひとつが手作業の工芸品。 先代から受け継いだ技を守り続ける女性木工職人

創作木工芸「木肌のぬくもり社」代表 須藤 奈津子さん

八峰町八森地区に唯一残る製材所で、木材の加工・販売と木工芸品製作に携わる須藤さん。「日本三大美林」のひとつである天然秋田杉に施した繊細なすかし彫りの木工芸品は、細かな木目との調和が美しい逸品です。
まったく未知の世界から工芸職人の世界に飛び込み、現在6年目。この道を選んだ経緯と、ものづくりにかける思いを語ってくれました。

家族を助けたい一心の頑張りが導いた職人の道

―― まったくの未経験から職人の道に進まれたそうですね。

須藤 この仕事を始めるまでは、アパレルショップやガソリンスタンドの店員など、職人とはかけ離れた職業ばかりでした。木工芸品との接点は、この「木肌のぬくもり社」の先代・山内安久が義父だったこと。でも作品にはまったく興味がなくて、関心を持ってじっくり眺めることもしませんでした。
そんな状況が一変したのは、私が長女の出産を終えて家にいた頃です。当時、体調を崩していた先代に「仕事を手伝って欲しい」と声をかけられて、補佐する形で働き始めたのが2011年。最初は軽い気持ちで引き受けた仕事でした。でも、老いてもなお作品づくりに打ち込む先代の姿を目の当たりにし、とにかく「この人を助けたい」という気持ちでいっぱいになって。そのために私も積極的に技の習得に励み、木工芸品の世界にのめり込んでいったのです。

―― 突然飛び込んだ木工芸品製作の世界で、技術を覚えるのは大変だったのでは?

須藤 その頃一緒に働いていたみなさんが、本当に親切な人たちばかりで。教えるのも褒めるのも上手なので、おかげで次々と技を習得していくことができました。人は怒られるよりも褒められた方がやる気も出るし力も伸びますよね?(笑)最初から付きっきりでノウハウをたたき込まれたことで、ひと月も経たないうちにすかし彫り作業を担当するほどには成長していました。

(板に貼ったカッティングシートを切り抜いて、すかし彫り用の型紙づくり)

―― 職人として走り始めてから跡を継ぐまで、どれくらいの期間だったのでしょうか?

須藤 私が工房で働き始めてちょうど3年が経とうとする頃でした。先代が長く患っていた病気の悪化で入院し、わずか2か月後に亡くなってしまったのです。私は職人としてはまだまだ未熟でしたし、教えて欲しいこともたくさんあったのにと、あの時は大きな不安と寂しさに襲われたものです。
地域の製材業は衰退をたどる一方で、事業継承については反対する親類もいました。でも先代が愛した仕事を絶やしたくないという思い、病床で「なっちゃんならできる」と励ましてくれたその気持ちを大切にしたくて、「やめるのはいつでもできる、まずはやってみよう」と挑戦することを選び、跡を継ぐ決意をしました。

 

すべてが心を込めた手作業だから、木の温もりもより一層優しいものに

―― 機械で大量生産している工芸品も多いですが、木肌のぬくもり社ではすべて手作業なのですね。

須藤 私の作品は一つ一つが手作業です。先代から引き継いだ道具をそのまま使っているので、作り方も昔ながら。そのため、ひとつの作品を完成させるのに大変な手間と時間がかかります。社の代表作のひとつである飾り扇子は、すでに材料用に加工した木材を使っても完成までには約1週間。「彫って終わり」と思われがちですが、それ以外にも見えない工程がいろいろあるのです。材料も秋田杉なら何でも良いわけではなく、すかし彫りに適した木目板の選定といった目利きも必要です。
冠婚葬祭などの記念品としてオーダーメイドされるお客さまも多くいらっしゃるので、みなさんに喜んでもらえるよう、そしてより良い作品をお渡しするために心を込めて製作しています。

(作品づくりにはきれいな柾目部分を使用。木目が彫りやすさや仕上がりに影響します)

―― 代表になってからは具体的にどのような作品製作、活動をされていますか?

須藤 まず手がけたのはすかし彫りの常夜灯でした。先代が発案したものの商品化には至らず、私がそれを形にしました。木箱の中に電球が入っていて、すかし彫りを施したふた部分が取り換えられるようになっています。おかげさまでこの作品は、平成27年度に「全国推奨観光土産品審査会」で日本専門店会連盟理事長賞を、同じ年の「むらおこし特産品コンテスト」で中小企業庁長官賞をそれぞれいただきました。現在はそれに続く作品を世に出すべく、木とすかし彫りの良さを生かした表札などの実用品を考案中です。
その他の活動としては、当事業所の製材部門を担当している夫とともに町おこしの地域団体に所属し、木と触れ合うさまざまなイベントを行っています。

(みやげものや特産品のコンテストでふたつの大きな賞に輝いた常夜灯)

 

自分の暮らす町が好きだから、地域に貢献できる事業所を目指したい

―― 3人のお子さんを持つお母さんの須藤さん。子育てと仕事の両立はいかがですか?

須藤 大変です!(笑)夫婦で事業所を切り盛りしていますが、お互いに毎日の仕事をこなすのが精一杯。それに加えてイベントの企画・準備など多忙な日々です。仕事は従業員のみなさんに、家のことは私の母や夫の両親に助けてもらいながらなんとか頑張っています。
我が家は小学校に入学したばかりの長女を筆頭に、一女二男。まだまだ手のかかる年頃ですが、子どもたちには我慢をさせることも多くて申し訳なく思うこともありますね。仕事も家のことも完璧にこなすことができれば、働く女性としてはかっこいいんですけれど(笑)

(夫の和彦さんと二人三脚で事業所を経営。子育ても協力し合って頑張っています)

―― 職人として、また事業所の代表者として、今後の課題や夢を教えてください。

須藤 独り立ちして3年目になりますが、職人としては今でも先代の技にはまだまだ及ばないと思っています。先代は絵が得意で、頭に浮かんだものをすらすらと下絵に描き起こす才能がありましたが、私はそれが苦手で。デザインについてはいまだ勉強中で、その部分のスキルアップは今後の大きな課題のひとつです。
また、販路を拡大してもっとたくさんの人に作品を知ってもらいたいと考えています。そこまでなかなか手が回らずに歯がゆい思いをしていますが、少しずつでも目標を達成して行きたいです。
あとは地域への貢献。ここ数年、八峰町には多くの方が移住されていますが、正直なところ働く場所が少ないのが現状です。私たち家族は、地域の人たちに見守られながらここまで来ました。本当に温かくていい町です。その恩返しも込めて、もっと事業を拡大し、みなさんに働く場所を提供できるようになるのが夢ですね。

(パーツの一本一本を手作業で切り出して貼り合わせた後、すかり彫りを施した扇子)

 

コースターや鏡など、須藤さんの作品には普段の生活に取り入れられるものもたくさんあります。秋田の自然から生まれた工芸品は贈り物にも最適です。
お話の端々には、「大好きだった」という先代への温かい愛情が溢れていました。さらには、自然や地域で培ってきたものを大事にする心、そこに貢献しようとする気持ちも強く感じられ、これから秋田の工芸品を支えていく担い手として期待も高まります。

【創作木工芸 木肌のぬくもり社】
住所:山本郡八峰町八森字中浜136
TEL:0185-77-2236
営業時間:9時〜17時(水・土・日・祝日定休)
HP:http://kihadano.com/

 

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awoman 編集室

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