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7JULY
2019

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苦悩の末にたどり着いた境地。人の心に響く秋田民謡を次の世代へつなぐ担い手に

日本民謡梅若流梅若会大師範 浅野 江里子 さん


(撮影:和田史子)

民謡界の大御所で「民謡王国・秋田」を確立させた初代宗家・浅野梅若を祖父に、二代目・浅野梅若を母に持つ浅野江里子さん。現在は、全国に大勢の会員やお弟子さんがいるという梅若流梅若会の大師範として、その魂を受け継いでいます。今回はお兄さんで三味線奏者の修一郎さん(梅若鵬修)にもご出演いただきました。

さまざまな葛藤が多かった修行時代

— 江里子さんは何歳から修行を始めたのですか?

江里子 4歳から始めましたが、スパルタでしたし練習に行かないと怒られるし、楽しく歌えてなかったですね〜。親に反発していた兄の生き方がうらやましかったです(笑)。でも15歳の頃、母が歌った瞬間の目の色を見て、「こういう人になりたい!」と思って、熱心に取り組むようになりました。

本格的に民謡の修行が始まったのは、民謡部がある和洋高校に入ってからです。でも先輩たちが卒業すると部員が私一人になってしまって。顧問の先生に「私一人だと廃部ですよね?」と聞いたら先生が「今、部員入るから待ってて」と言って、後日本当に1年生7人を入部させたんです。

— 先生すごいですね!

江里子 顧問の先生も民謡に造詣が深くて熱血でしたけど、後輩が優秀な子たちばかりで、歌や踊りや三味線を教えると楽しそうにどんどん覚えていくんですよ。

でもその反面、後輩をまとめるのが大変だったり、ケンカの仲裁をしたりと気苦労が絶えなくて、溜め込むタイプの私はある日ストレスが爆発して、泣き出してしまったんです。それを目撃した後輩が「言いたいことがあったら吐き出してください!」と言ってくれて。後輩には本当に助けられました。

— その頃、内弟子さんはどれくらいいたのですか?

江里子 内弟子さんは常に2〜3人、多い時で7人いましたので、家の中はカオスでプライベートがなかったです(笑)。お弟子さんがご飯を作ったりと育ててもらった部分もあるのですが、当時は家に居場所がないと感じてストレスしかなくて、家にいたくなかったですね。


(江里子さんと兄の修一郎さん)

その頃は母もピリピリしていましたし、母親なんだけど師匠でもあって、自分でもそれがよく分からなくなってある日部屋で泣いていたんですよ。それを今度は兄に見つかって(笑)。それまでは怖くて話しかけられない存在だったんですけど、自分の気持ちを話したらずーっと聞いてくれたということもありました。

修一郎 私は十代の頃、民謡が嫌になってパンクバンドをしていたんです。クラシック、ロック、ジャズなどさまざまなジャンルの音楽を聴いたり演奏したりしているうちに民族音楽にもハマったのですが、ある時ふと「なんで外国の民族音楽をやっているんだ?一番近くに面白いリズムの“民謡”があるじゃないか」と気づいたんですね。それで23歳からまたあらためて民謡を学び始めました。

家族が増えて変化した自分の気持ち

— 江里子さんは3年前にご結婚されましたが、出会いのきっかけは?結婚後の暮らしや気持ちに変化はありましたか?

江里子 主人の職業は看護師なのですが、実は角館のおやま囃子で三味線や尺八、太鼓など民謡をやってきた人なんです。それで私の民謡を聴きに来てくれた時に出会って。当時の私は『もう私は結婚しないで一人で生きていくんだな』と思っていた頃だったので、素の状態で出会えたのが良かったのかもしれません。

主人には普段から精神的にとても助けられています。私にストレスが溜まっているのが分かると、吐かせるだけ吐かせてゆるゆるとアドバイスをくれたり、何も言わなくても外に連れ出してくれたり。そのおかげで今は舞台を楽しめていると思います。

— そして現在は1歳の男の子のお母さんとなりました。母親になってみて感じることは?

江里子 やっぱり「母もこういう気持ちで仕事に出ていたのかな」と思うところはあります。母が子どもの面倒を見てくれることもあって、とても助かっていますね。去年、最後の内弟子さんが家を出て、私が生まれてから初めて家の中が家族だけになったので、なんだか不思議な一年でした(笑)。


(撮影:森聖加)

私が小さい頃母はとても多忙で、1カ月ぶりに家に帰った時、兄は母に近寄らなかったそうです。でも今考えると、母もその時は必死だったんだなって分かるんです。私も3日間家を空けた時は子どもがすぐに寄ってこなかったですから、母はこの何倍もの複雑な思いを抱えていたんじゃないかと。

— 産後の舞台復帰はどんな感じでしたか?

江里子 産後3カ月で復帰しましたが、もうヘロヘロで立ってるだけで精一杯でした(笑)。母にその話をしたら、「段階踏んで数を重ねれば声も出るようになるよ」と。それまであまりそういう話をしたことがなかったので、子育てを通して母との会話も増えているように感じます。

若い世代に、心に響く民謡の魅力を伝えていきたい

— 秋田駅前の長屋酒場や第一会館などで出前民謡を行なっているそうですが、お客さんはどんな反応が多いですか?

江里子 高齢の方が歌いに来ると思っていたお客さんが、歌い手が意外と若くて驚くということは結構あります(笑)。以前は持っているタイトルを言ってから歌っていましたが、言わない方が自然に聞いてくれると感じたので、今では登場してすぐに歌うようにしていますね。それから衣装も、着物だとカチッとした雰囲気になってしまうので、半纏(はんてん)の方がラフに聴けるようです。

— ほかにはどういった活動をされていますか?

江里子 日新小学校や和洋高校の民謡クラブで子ども達に教えています。小さい子ども達は楽器を目の当たりにすると、かっこいいとか持ってみると重い、バチが硬い、弦が柔らかいといろんな視点で感動して、そこから民謡に興味が湧くことが多いですね。

それから最近は若い世代の間で三味線がかっこいいと人気が高まっていて、習いに来る方が増えていますよ。


(バチの素材によって異なる音色を響かせる三味線)
(象牙や甲羅、プラスティック製や木製などさまざまな素材からなるバチ。左から2つ目は初代梅若から受け継いだもの。叩く部分が削れて短くなっているのが歴史を物語っています)

— これからの目標や展望を教えてください。

江里子 正直なところ、今は子育てと民謡の両立にいっぱいいっぱいなんです(笑)。ですので自分に余裕ができたら、子ども達に「民謡は堅いものじゃなくてこんな風に楽しいんだよ」ということを伝えていきたいですね。

— 修一郎さんはいかがですか?

修一郎 民謡は、戦前は現代で言うインディーズ音楽やJ-POPの要素を持ったエンターテイメントの側面もありました。そういう民謡の魅力を再構築して、秋田民謡独自のリズムやこぶしを活かした現代音楽との融合を図っていきたいです。「民謡=郷土芸能」という固定観念を打ち破りたいですね!それから、若い人たちにも民謡の魅力が伝わりやすい教室を開きたいです。

伝統芸能一家に育つ大変さを垣間見ると同時に、修一郎さんと江里子さんの確固たる絆を感じられた取材でした。修一郎さんによる民謡の歴史についてのお話もとても興味深く、地元で連綿と受け継がれているものの良さを改めて知ることができた、とても貴重な1日となりました。若い世代にこの魅力を伝える機会が少しでも増えますように!


(撮影:篠木明子)
【浅野江里子さんプロフィール】

秋田市出身。35歳。一男の母。平成18年、22歳で日本民謡梅若流梅若会大師範となる。祖父が初代宗家・浅野梅若、母が二代目・浅野梅若、父が日本民謡梅若流大師範で三味線・尺八奏者の梅若梅貢、4歳上の兄が日本民謡梅若流名取大師範で三味線奏者の梅若鵬修の民謡一家に育つ。
第65回「公益財団法人日本民謡協会民謡民舞全国大会」内閣総理大臣賞受賞、第48回「郷土民謡民舞全国大会」 内閣総理大臣賞受賞、第20回「本荘追分全国大会」優勝、第20回「秋田追分全国大会」優勝、平成13年「秋田馬子唄全国大会」優勝、2012年「秋田船方節全国大会」優勝など多数受賞。

この記事を書いたライターこの記事を書いたライター

熊谷 清香

地元タウン誌や広告代理店勤務を経て、フリーランスで企画・編集・取材・インタビュー・ライティング等をしています。小中学生の母。秋田市出身。

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