秋田大学病院で麻酔科医として働く山本夏子さん。“麻酔科医”とは普段見かけることのない、いわば陰の存在ながらも“安全に手術をするために絶対に欠かせない重要な役割”。「私、失敗しないので」のセリフでおなじみのドラマでいうところの内田有紀さんの役、と言えばわかりやすいかもしれません。
医療の現場で闘いながら、小学生のお子さん2人のお母さんとして子育てもしている山本さん。忙しい日々の中、仕事と家庭の両立術などを伺いました。
(手術中の患者さんの容態をモニターでチェックする山本さん)
やりがいもあるし、ONとOFFがはっきりしているところがいい
山本さんは、北海道札幌市出身。お父さんが小児科医だったことから、自身も医師を志したそう。しかし、医学部の門はなかなか厳しく、浪人生活を経験後、秋田大学医学部へ入学。研修医時代に親切にしてもらった麻酔科の女医さんに影響を受けたことで麻酔科医の道を選びました。
(手術中は、ずっと麻酔を効かせている状態。患者さんの容態や手術の進み具合に合わせ、麻酔の量を調整する気の抜けない重要な役割です)
「麻酔科医は就業時間が終わると基本的にその日の当番(当直医、帰宅後も自宅待機のオンコール医など)以外は業務終了となり、ONとOFFがはっきりしているのも私には合っていました」と山本さん。
「麻酔によって痛みや意識がない間に無事に手術を受けることができるようにするのが私たちの仕事。無事に手術が終わり、患者さんの意識が戻った時は安心します。また、外来では、原因不明の痛みに悩まされている人のために、麻酔科医として痛みを取り除くための診療にも携わっています。ここでは患者さんの悩みを直接解決できることも多いので、また違うやりがいを感じています」。
デンマークで出産
同じく医師である旦那さんとは研修医時代に結婚。旦那さんの都合で後期研修終了後にデンマークへと渡った山本さん。
「私自身、医師として経験を積まなくてはいけない時期だったので悩みましたが、デンマークに住むことなんて二度と訪れないと思い、思い切って夫が渡航した1年後に行くことにしました」。
デンマークでは完全に専業主婦となり、第一子となる長女を妊娠、出産。産褥熱で敗血症になるなど異国の地で大変な思いもしたそうですが、今となってはデンマークでの生活のすべてがいい思い出となっているとか。
(デンマークの首都コペンハーゲンで、長女を連れて散歩中の様子。すべてが非日常のような暮らしだったデンマーク生活)
やれないことは諦めも肝心!
長女が1歳になる前に帰国した後、保育園に預けて医師として復活を遂げますが、そこからは、仕事と家庭との両立生活が始まります。その後、4つ離れた長男も誕生し、あっという間に慌ただしい日々に。
「秋田県では、麻酔科医は医師の中でも特に人手不足で、県内のあちこちの病院にヘルプで行ったりするなど、決して余裕があるわけではない中、早目に帰れるように業務を組んでもらったり、当番も月に3回程度(うち当直は月1回)にして頂いたりと、子育て世代に配慮してくれる職場環境でとても助かっています。夫の勤務と調整をしても無理な時は市内に住む叔母にも助けてもらったりしてなんとか子育てができています」とのこと。
また、家庭では全部を完璧にやろうと思わず、家の中の掃除は、ほぼお掃除ロボットにおまかせ。買い出しも週に一度きりで、一回の食事で使い切れる量の食材のパックを大量に購入し、そのまま冷凍庫へ。使う時はパックごと解凍が基本!
面倒な食事後の洗い物をするのは夜に一度だけ。海外から取り寄せた大型食洗機を使い、皿も鍋もすべて丸っと丸ごと、朝と夜の分をまとめた1日分を一気に洗います。やれることはやる、やれないことは無理してまでやらない。その力の加減が仕事と家庭を両立させる方法なのかもしれません。
「子どもたちも自分でやれることは自分でやる、というのをやってくれている気がしますね。週末は子どもたちの習い事の時間がたくさんあるのですが、その様子をボーっと眺めているのが今一番の癒しです。頼まれたら断れないタイプなので、親の会での役割もつい引き受けてしまいますが、ちゃんとやれているかどうか…」。と謙遜気味に語ってくださいました。
(自宅でコーヒーを淹れる山本さん。家での時間は、完全にOFFモード。ボーっとする時間も大切)
自分の子育てが一段落したら次の子育て世代の人のために、働く時間を増やして恩返しをしていこうと考えているそう。やれる人がやれる時にやる。持ちつ持たれつの思いやりの気持ちが何よりも大事ですね。
DATA
【山本夏子さん】
北海道札幌市出身。秋田大学医学部卒業後、麻酔科医として同大学に勤務。二人の子供を育てながら医師として働く。