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地元のため、町の未来のために一念発起。“いち”からスタートしたカフェ店主

いちカフェ 坂谷彩さん

都会から来た移住者たちの取組みが多くのメディアでも取り上げられ、移住の街としても知られるようになった“五城目町”。新しい風を吹き込んでいる、アイディア溢れる前向きな人たちの考えに刺激され、カフェをオープンさせたのは、この町出身の坂谷彩(あや)さん。生まれ育った故郷、五城目町を大切にする坂谷さんが作り上げたカフェの形を聞いてきました。

(坂谷さんの明るさに惹かれて、お店を訪れる人も多い)

-坂谷さんは、この町の出身者だとか。ここでカフェをオープンさせようと思ったきっかけを教えてください。

坂谷 大学時代を除いて、就職してからもずっと五城目町に住んでいるんです。やっぱり、町が廃れてきたな、元気がなくなったなと感じていました。そこに、ある時、都会から「この町に住みたい!」と移住してきてくれた人たちがいたんです。都会から人が来て、何か始め出しだぞというのが、ほとんどの町の人たちの感想だったと思います。私も最初はそう思っていました。でも、移住の人たちが旗振り役となって結成された「五城目朝市わくわく盛り上げ隊」というのに参加する機会があり、実際に関わってみると、皆さん面白いんです。前向きだし、発想が豊かだし。その集まりに、自分の手料理を持参していったのですが、「お店、出した方がいいよ!!」とそそのかされて…。その気になって出してしまったようなところもありますね。

-お料理の仕事をされていたのですか?

坂谷 いえ、全くです。元々は、地元の銀行に勤めていました。その後、転職してウェディングプランナーに。銀行もプランナーもカフェも業種は違いますが、接客業なので共通することも多くて、どれもいい経験でした。特にウェディングプランナーは結婚式をプロデュースする仕事で、式を挙げるお客様の要望に沿って、料理人、パティシエ、美容師、デザイナーなどたくさんの人と関わり作り上げていく作業で、カフェの経営と通じるところがあります。

プランナーをしていた頃に同じく五城目町出身の主人と結婚し、仕事を辞めて五城目町にそのまま住むことなりました。その後、子どもも生まれ、以前勤めていた銀行でパートをさせて頂いていました。パートをしながら子育てをして、このまま歳を取っていくんだな、となんとなく思っていた頃、移住の皆さんと関わる機会があって。「自分も何かやりたい!何かできるかも!」という思いが沸いてきて、思い切って始めたカフェ経営です。

(”いち”からすべて作り直した店内。入り口のショーケースには友人、知人の作家さんの作品も販売)

外からの“目”を大切にしたい!

-独学からの決断!お店をオープンするまでにはご苦労もあったのでは?

坂谷 かなり苦労しました。ご覧の通り、この朝市通りのお店は、経営者が高齢になってきたというのもあり、シャッターが降ろされたままのお店も多いんです。でも、貸すことはできないと断られることが多かったですね。それでも、しぶとく目ぼしい建物を見つけては交渉し、断られては交渉をし…。ようやく見つけた、お気に入りの物件でした。
経験も実績もない新規事業者が銀行からお金を借りるのも大変でした。また、子どもが小さかったこともあって、主人も主人と私の両親もみんな反対でした。でも、「もっとたくさんの人にこの町の暮らしを楽しんでほしい!」「そのためには、町の魅力を外から見てくれる人たちの存在が必要だし、交流できる場所が欲しい!」と訴え続けて。「五城目朝市わくわく盛り上げ隊」として、ごじょうめ朝市plus+の立ち上げにも関わらせてもらっていたので、どうしてもこの朝市通りでお店をやりたかったんです。

(朝市通りの最後に位置する、左が「いちカフェ」。隣は、移住してきた方が手がけた、子どもが自由に遊べる「ただのあそび場」)

-ご主人も反対派だったのですね。

坂谷 最初は反対派でしたね。でも、私の想いに負けて、「やる!」と決めてからは、あらゆる面で協力してくれました。椅子一つ決めるのにも、単独で見た場合と並べて見た場合、テーブルと合わせた時、など選ぶ作業も大変で。築50年以上経つ古い建物だったので、主人だけではなく、仲間たちにも協力してもらって、壁を壊したり、メニューの構想を練ったり。1年がかりで改装をしてようやくオープンさせました。

何でもない“いち”主婦が、朝“いち”通りで、何もないところから”いち”から始めたカフェ、という意味で「いちカフェ」という名前にしました。「いちから始める、いちから始まる」というキャッチフレーズは主人が考えてくれました。子育てのサポートや応援団として動いてくれる主人には感謝しかありません!!

(解体の様子。理想のお店を作るには、ほぼ作り直しが必要だった 写真提供/いちカフェ)

(お店奥から見た、解体の様子 写真提供/いちカフェ

(窓に印字されているのは謙虚な気持ちが伝わる、ご主人が考えてくれたキャッチフレーズ 写真提供/いちカフェ

反対を押し切っての挑戦

-いちカフェはどんなお店ですか?

坂谷 町の人と外から来てくれた移住の人たち。その人たちがもっと距離を縮められる場所を作りたかったんです。ここで、お茶していたらたまたま隣の人が移住で来た方で、話してみたら面白くて、という風にどんどん見方が変わっていったらいいですよね。そんな交流の場のためにこのカフェが活用されたらいいな、そこから町が変わっていったらいいなと思って、2階をイベントスペースとしても活用できるこの物件を選びました。

(イベントスペースとして活用することもできる広い2階スペース)

お米は五城目町産、地元の農家さんから野菜を仕入れたりして、なるべく地のものを使うようにしているだけでなく、周りのみんなも気に掛けてくれて、食材を持ってきてくれたりします。定番メニューはバターチキンカレー、サバカレーですが町の人たちや自分自身も楽しむためにも、「ベトナムフェア」や「ピザ企画」、朝市通りにある古本屋小川書店の本をおまけで付けるという「オガワブックフェス」など定期的に企画を考えて料理を提供したりしています。毎週水曜日は、自家製パンを作っている「GABUGABU」さんのパン販売の日もあります。

(一番人気のランチメニュー”バターチキンカレー”900円)

(通称「グリーンの日」に提供された「枝豆のベイクドチーズケーキ」 写真提供/いちカフェ

(夏限定の自家製シロップのかき氷 写真提供/いちカフェ

(ベトナムフェアでの一コマ。テーマに合わせたメニューの他に仮装をするなど楽しむ工夫が随所に 写真提供/いちカフェ

子育てとの両立、大切にしていること

-お店をしながらの子育てはどのようにしているのでしょうか?

坂谷 お店をオープンさせてから、不思議なもので待望の二人目を授かりました。今、10歳と2歳の子を育てています。まだまだ、体調も崩しがちで、しょっちゅう保育園から呼び出しもあるんです…。その度にお店を閉めなくてはいけないので、来てくださるお客様には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも、「子育てと両立してやる!」と決めたのもあって営業時間は15時まで。呼び出しがあったら、私が行く!という役割分担もしています。

あとは忙しい中でも、子どもたちと遊ぶ時間はめいっぱい遊ぶ本気でやる背中を見せることも大事なことかな、と思っています。カフェの設立まで、がむしゃらに頑張ったからこそ言えるのですが、子どもたちには何か問題が起きた時に、誰かのせいにしないで、仲間を作って突破することができる人になってほしいですね。仲間の存在は大きいです!

五城目小学校は移住の皆さんも含めて、ここに住む様々な世代の町の人たちが主体となってワークショップを重ね、新しい形の小学校に生まれ変わりました。そんな小学校をはじめ、贅沢な環境の中で育っていることを今は特別には思わなくても、大きくなった時に感謝できるようになってくれたらいいなと思いますね。

(古本屋「小川書店」の本がおまけでつく”オガワブックフェス”で配布される前の本。小川さんが考えているという日替わり語録も気になる…)

-いちカフェ、今後どのようにしていきたいですか?

坂谷 目の前の目標としては、お店をなるべく休まず開けること!!そして、10年20年とお店を続けていくことができて、子どもたちが自立したら自分のお友達や子どものお友達、みんなが好きなように集まってワイワイやってくれたらいいですね!

笑顔が素敵で謙虚な坂谷さん。「この町のために」、と自分の人生を掛けてお店を開いたその熱意に多くの人が応援に駆けつけてくれる、自然と人が集まる場所になっていました。「いちから始めよう!」と一歩踏み出すことの大切さを教えてもらった気がします。

DATA

【坂谷彩さんプロフィール】
五城目町出身。秋田市内の高校、山梨県の大学を卒業後、地元銀行に就職。ウェディングプランナーとして働いていた頃にご主人と出会い結婚。五城目町でパート勤務をしながら子育てに専念していたが、「五城目朝市わくわく盛り上げ隊」に参加したのをきっかけにカフェを始める決意をする。二児の母。

【いちカフェ】
住所/五城目町下タ町59-6(朝市通り)
駐車場/2台(お店の裏通りにある田口歯医者さん向かい)
定休日/不定休
Facebook

Writer

kamada minako

kamada minako

由利本荘市出身。二児の母。パート勤務をしながら時々ライターやフードコーディネーターなどの個人活動をしています。 日々のお料理ブログ。
http://kamadakikaku.php.xdomain.jp

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