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「診療看護師」として質の高い医療を提供し、地域に貢献したい

大館市立総合病院 診療看護師 古川茜さん

「診療看護師」という職業を知っていますか? 病気の診断・治療をするのは医師、療養する患者さんの世話や診療の補助をするのは看護師ですが、診療看護師は、医師の指示のもとに特定の医療行為を行うことができる「医師と看護師の中間職」です。秋田県初の診療看護師として大館市立総合病院で働く古川茜さんに、診療看護師を目指そうと思ったきっかけや実際の仕事について、お話をうかがいました。

看護師を志したのは中学生の頃

ー古川さんの経歴を教えてください。

古川 私は大館出身で、地元の高校を卒業したあと、東京にある国立看護大学校に進学して看護師免許を取得しました。そのあと大阪の国立循環器病研究センターに6年間勤め、2019年に大館に戻ってきて大館市立総合病院で3年間勤務しました。2020年に秋田大学大学院の診療看護師コースに入学し、2年間勉強して資格を取得。2022年4月から大館市立総合病院で診療看護師として働いています。

(整形外科の外来で、患者さんに症状を説明する古川さん。優しく分かりやすく説明します)

ー看護師になろうと思ったのは、いつ頃でしたか?

古川 中学3年の時に、祖父が脳腫瘍で入院したのがきっかけです。最初は大学病院で治療を受け、そこには祖父を患者ではなく人生の先輩として敬意を持って対応してくださる看護師さんがいました。そのあと地元の病院に転院したのですが、脳腫瘍の影響で暴言を吐いてしまったり、気管切開や難聴などでコミュニケーションが難しい祖父のことを、「ケアが大変だ」と看護師同士で話しているところを聞いてしまい、ショックを受けたんです。看護ケアを含む医療提供の質が地域によって違うと感じました。看護師に対して否定的な気持ちにもなりましたが、「人のためにできることをしたい」と思い、看護師を目指そうと決めました。東京の大学校に進学したのは、医療提供の地域差をなくすことができないかと考えたからです。

(外来診療の合間に、病棟で入院患者さんの検査をします)

地方の病院の現実を目の当たりにして

ー大館に戻ってきて、大阪の病院との違いを感じましたか?

古川 大阪の病院は医師の数が多く、どの部署にも24時間、医師がいました。でも大館は医師の数が少なくて、午前中、外来診療の間は入院病棟に医師がいません。外来が終わってから、医師が病棟に来て入院患者さんへの指示や処方をするため、夕方遅い時間から手術を始めることになったり、検査をしたくてもその日の検査が終わってしまったりします。病棟の看護師は医師の指示を待たなければならず、患者さんを待たせてしまうことになります。そして、少ない人数でたくさんの患者さんを診ている医師は常にオーバーワークで疲れていて、責任感で医療を提供しているのが現実です。

こういった課題を解決するために、チーム医療を担う一員である自分が知識や技術を高めることが必要なのではないかと考えました。そんな時、上司から「診療看護師にならないか」というお話をいただき、資格取得を決めました。

(勤務中の古川さんはとても忙しく、しょっちゅう院内の携帯電話が鳴ります)

「診療看護師」と「看護師」の違い

ーどのようにして診療看護師になるのでしょうか?

古川 診療看護師になるには、看護師として5年以上実務経験を積んでから、学会が認定する大学院の修士課程を卒業し、診療看護師資格認定試験に合格する必要があります。私は、2020年に秋田大学大学院に診療看護師コースが開設されたのと同時に入学し、2022年3月に一期生として卒業しました。

(医師が外来で診察をしている間、古川さんは病棟で看護師さんに指示を出します)

ー看護師との違いは、どんなところですか?

古川 診療看護師は、看護師がやらない点滴や処方、検査オーダーなどを医師の指示のもとに行うことができます。午前中、医師が外来診療をしている間、私が病棟を回って検査のデータを見て指示を出したり、薬の処方をしたりしています。また、カテーテルを入れる、抜くなどの38項目の特定行為もできます。(どこまでの行為ができるかは、卒業した大学院によって異なります)

(「特定行為区分とは(厚生労働省)」を基に作成)

医学と看護、両方の視点で患者さんに寄り添う

ー診療看護師になって良かったと思うことはありますか?

古川 診療看護師の特性は、特定の医療行為ができるのに加えて、医学と看護の両方の視点を持っているということです。例えば、患者さんは治療の選択肢が増えると、何が一番いいのか分からなくなってしまう時があります。医師は病気を治すための提案をするし、看護師は患者さんやご家族の生活、人生においてどの選択肢がいいのかという目線で考えます。医師の視点に看護の目線をプラスする診療看護師は、患者さんにとって一番いい選択肢を、患者さんと一緒に考えることができると思います。

(整形外科の外来で、患者さんの傷口を縫合)

古川 また、医師がとても忙しくしていて看護師が声をかけづらいような時、私に声をかけていただくことがよくあります。「家族が来るから紹介状を書いて欲しい」とか「退院が1日延びたので、1日分の処方をお願いしたい」などといった依頼をスムーズにできるのは、看護師にとって良いことであり、安全な医療にとっても大切なことです。そして、ストレスフリーな環境が質の良い医療提供につながっていると思います。

(整形外科の手術の助手にも入ります。写真提供:古川茜さん)

医師の負担を減らし、患者さんを支えられる存在に

ー今後の目標を教えてください。

古川 今、私は2年間の卒後研修中なので、様々な診療科で研修を行い、そのあと最終的に所属診療科を決定する予定です。しっかり学んで知識と技術を高め、医師のオーバーワークを減らし、患者さんを待たせずにスムーズに医療を提供できるようにしていきたいです。また、診療看護師の特性を生かして、患者さんがより良い生活をしていけるように支えられる存在になりたいです。患者さんは病気の治療をするためだけに生きているのではないので、患者さんがより生活しやすくなるために、病院というツールや診療看護師の資格があればいいなと思います。

質の良いケアで、地域への恩返しを

古川 私は、大阪の病院に勤務していた間に結婚・出産・離婚をしました。今は、両親を含め家族のサポートを受けて、子育てしながら仕事をしています。普段の診療・処置・ケアを行う上で、常に思うのは「患者さんが自分の子どもだったら」ということです。1秒でも早く痛みを取り除いてあげたい。一口でも多くご飯を食べてほしいし、夜はぐっすり眠ってほしい。退院したあとは一日でも早く普通の生活に戻ってほしい。そのために、質の良い医療を提供できる診療看護師になることーーそれが自分を支えてくれる家族、そして育ってきた地域への恩返しになるのではないかと思っています。

秋田県の診療看護師一期生として、日々、研修に励む古川さん。「資格としてもまだまだ多くの課題がありますが、秋田の医療・保健・福祉に貢献できるように取り組んでいきたい」と意気込みを語ってくれました。少子高齢化や医師不足といった地域課題を抱える秋田県の未来に、古川さんのような診療看護師の存在は、大きな希望となるに違いありません。そして、古川さんの背中を追いかけて、看護師や診療看護師を目指す人が増えたらいいな! と願います。

DATA

【古川 茜 さん】
秋田県大館市出身。
大館鳳鳴高校卒業。
国立看護大学校卒業後、看護師資格を取得。
大阪の国立循環器病研究センターで6年、大館市立総合病院で3年勤務。
2020年  秋田大学大学院の診療看護師コースに進学。
2022年  秋田大学大学院 卒業、診療看護師の資格を取得。
2022年4月〜 大館市立総合病院で、診療看護師として2年間の卒後研修を行っている。

キーワード

秋田県内エリア

Writer

Makiko

Makiko

有限会社無明舎出版勤務を経て、フリーライターとして、雑誌、フリーペーパー、WEBなどの記事を執筆。秋田県大館市在住。秋田県北を中心に、秋田の観光・食・子育て・話題のスポット・スポーツなどについて発信しています。 mama plan(ママプラン)所属
https://mamaplanodate.net/information/

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