大仙市を拠点に絵本作家として活躍する藤嶋えみこさん。ペンによる細かな描き込みと、透明水彩による淡い着彩で描かれる可愛い生き物たちの物語は、英語や韓国語にも翻訳され世界中で愛されています。初めて作絵を手がけた『チマのはじめてのぼうけん』(アリス館)は秋田を舞台に描かれた一冊です。これまでの道のりや創作のアイデアが生まれるライフスタイルについてお話を伺いました。
絵本が大好きだった少女時代
ー絵本作家になったきっかけを教えてください。
藤嶋 母が保育園の先生だったこともあり、絵本は小さい頃から身近にあって、大好きなもののひとつでした。絵を描くことも好きだったので、高校では美術部へ入部。京都の美大に進学したので、ずっと絵を描き続けていますね。
ー小さい頃から絵を描くのが得意だったんですね。
藤嶋 特別、上手に絵が描けるというわけではなかったんです。だから大学入学当初は本当に苦労しました。クラスメイトのほとんどが受験予備校で基礎をたたきあげられていたので、「みんな上手いなぁ」と圧倒されながら、とにかく描いて描いての繰り返し。短時間で素早く描くクロッキーを毎日毎日繰り返して技術を磨きましたね。
ー絵本作家を選んだのはどうしてですか?
藤嶋 絵を描くことを仕事にする、といってもたくさんの可能性があります。漫画家や画家、アニメーター、キャラクターデザイナーなどなど。絵本作家を選んだのは、ずっと大事にされる作品を作りたかったから。私も心に残っている作品がたくさんあるんです。使い捨てではなく、人の心に残って愛される絵を描きたいと思ったのが一番の想いです。
絵本作家までの道のり
ー大学卒業の頃には絵本作家になると決めていたんですか?
藤嶋 絵を描くことに明け暮れた学生生活でしたが、「自分の絵本はいつか出版できたらいいな」とぼんやり思ってたくらいなんです。どんなかたちでも、絵に携わる仕事をしたかったので、大学卒業後は京都の会社で社会人向けの絵画教室講師として働きました。
ーこれまでずっと絵のお仕事をしてきたんですね。
藤嶋 実はカフェの店主もしてました。学生時代にカフェでアルバイトをした経験もあったので、京都の古民家カフェのオープンを任せてもらったんです。メニューを考えたり、接客するのも楽しかったので今となってはいい思い出です。この時期も、絵を描くことは毎日続けてましたね。
ー絵本作家への道はいつごろ切り拓いたんですか?
藤嶋 20代後半に一度秋田に戻ったんです。ハードワークのなかで絵を描き続けていたこともあり、都会の暮らしに少し疲れてしまって。美術館で働きながら地元でエネルギーチャージしたら「自分の本を出版したい!」って気持ちが決まりました。この時が30歳くらいです。
絵本作家デビューに向けて上京
ー出版に向けてどのように動いたんですか?
藤嶋 絵本を出版するなら、やっぱり東京に行かないと難しいと思ったので上京を決意しました。当時はSNSをほとんど使ってなかったので、一軒ずつ出版社に電話をして売り込みです。会ってくれる出版社は全然なくて、慣れない営業活動に苦労しましたね。どのくらいの会社に問い合わせたか覚えてませんが、興味を持ってくれた出版社のご縁があって夢が動き出しました。
ー決まった時はどんな気持ちでしたか?
藤嶋 嬉しかったですね。あまり現実味がありませんでしたが、少しずつ本ができていく過程が幸せでした。ありがたいことに2作品を同じくらいの時期に出版できて、どちらも挿絵を担当。『バーバールーナのお客さま』(偕成社)はシリーズで4作品、『おおきいおうちとちいさいおうち』(岩崎書店)は重版になり、どちらも大切な作品です。
自分らしく秋田で描き続ける
ー初めて作絵を手がけたのが『チマのはじめてのぼうけん』ですね。
藤嶋 そうですね。秋田で絵本作りをするために2019年に帰郷して、2021年に出版した絵本です。上京した10年前、苦しい時に助けてもらった編集者さんと一緒に長い時間をかけて作りました。自然を愛でながら空想していた世界がそのまま絵本になったようなお話です。絵本づくりは、たくさんの工程があって、そこには何人もの人が関わっていています。私の感謝が詰まった一冊になりました。
ー大自然に囲まれて絵本づくりをしているんですね。
藤嶋 私の制作活動にこの自然は欠かせないものです。生まれ育ったこの場所からインスピレーションを受けて、毎日パワーをもらっています。散歩や山登り、最近はマランソンも始めたんです。毎日の暮らしを普通に送りながら、心も体も健康な状態でいることが大切。家族がいつも側にいて四季を感じられる、生まれ育ったこの場所で描くということが私にはあってるんだなって思います。
ーこれからの目標はありますか?
藤嶋 絵本づくりや展示会、連載などの依頼でお声がけいただく機会も増えてきました。与えていただいたお仕事にしっかり応えつつ、今後は子どもたちが絵を楽しむきっかけを作っていきたいなと思います。夏休みにワークショップでうちわ作りをしたんです。参加してくれた子どもたちの姿を見て、自分もすごく刺激を受けました。都会に比べると、ないものもたくさんあるけど、この場所にしかないものを感じて大人になって欲しいと思います。そのために、私の経験やスキルが活かせたら嬉しいです。
絵本から伝わる優しさや穏やかさが、そのまま人柄に表れている藤嶋さん。とても自然体で飾らずにまっすぐな想いを語ってくれたのが印象的です。秋田の豊かさや日常の中に潜む美しさを再発見しました。これからも、藤嶋さんの絵本がたくさんの人に届いて幸せな気持ちになることを祈っています。