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不安や緊張に寄り添って。自分らしく生きるための「乳がんヨガ」

乳がんヨガ指導者 伊藤路子さん

10月はピンクリボン月間。「ピンクリボン」といえば、乳がんの正しい知識を広め、早期発見・早期治療を訴える活動のシンボルマークです。a.woman世代にとって乳がんは決して他人事ではないはず。乳がんの患者さん向けの「乳がんヨガ」をご存じですか?その普及に努めている団体でも活動するヨガ講師、伊藤路子さんにお話を伺ってきました。

ーヨガ講師になった経緯を教えてください。

伊藤 20年ほど前、当時アメリカに住んでいた姉から教えてもらって始めたのがきっかけでした。まだまだ秋田ではヨガをする人が少なかった頃です。始めてみたらハマってしまって。その後仕事を辞めるタイミングで、これからはヨガを仕事にしようと決めて、東京へ勉強に通いながら活動を始めました。初めの頃は東京と秋田を往復して、アルバイトをしながらヨガの講座を開いたり、スポーツクラブのインストラクターとしてヨガを教えたりしていました。10年ほど前に秋田市保戸野にスタジオを構えて、一般の人向けのレッスンの他に、ヨガ講師を育成する講座を開いています。

(秋田市保戸野にあるスタジオマルガ)

ー私は伊藤さんに出会って初めて「乳がんヨガ」というものがあると知りました。まだまだ知らない人も多いのでは?

伊藤 そうですね。体に疾患がある人や体を動かすことに不安を抱えている人に向けた「ヨガセラピー」という分野があるんですが、そこから派生して乳がんを患った人向けにできたのが乳がんヨガです。「乳がん」と名前がついていますが、婦人科系疾患などを患った人も参加できるようなクラスです。体力や筋力の向上のほかにも、乳がん治療の副作用に伴う更年期障害の症状の緩和情緒の安定自分と向き合うことなど、乳がんヨガに期待されていることは様々あります。このスタジオでは2人の講師が乳がんヨガクラスを担当していて、出張で患者さん向け講座を行うこともあります。乳がんヨガの指導者養成講座が受けられるヨガスタジオは、いまのところ秋田ではここだけです。

ー講師もまだまだ少ないんですね。伊藤さんが乳がんヨガと出会ったのはどんなきっかけだったのでしょうか。

伊藤 父ががんを患ったことがきっかけで、ヨガセラピーの勉強をしていました。ヨガセラピーが日本にも伝わりだした頃です。そこに、私の生徒さんの一人が「乳がんヨガを学んでみたい」と話してくれたんです。彼女自身は、子育てもあって東京に勉強に行くのが難しかったので、「私が秋田で乳がんヨガを教えられるようになろう」と思って勉強を始めました。そんな中で乳がんヨガを普及する活動をしている団体(一般社団法人BCY Institute Japan)に誘われて、活動にも関わるようになりました。

(一般社団法人BCY Institute Japanでは対面やオンラインでがん患者向けのヨガレッスンを行っています)

ー乳がんと言っても、病状も年代もさまざまですよね。

伊藤 そうですね。「今は元気だけど、10年前に乳がんを患った」という生徒さんもいれば、今まさに乳がんと闘っていて「このあと治療に戻ります」という生徒さんもいますよね。講師はそれぞれの状態を見ながら進めていきます。乳がんヨガは、呼吸さえできれば横になったままでもどんな状態でも参加できる、やさしいヨガです。一人一人にあわせてすすめていくので、術後間もない方でもできます。

ー体への負担は大丈夫なのでしょうか。

伊藤 もちろん気を付けることはたくさんあります。乳がんの患者さんはリンパ浮腫が出る可能性があるので手に圧をかけないようにしています。また、術後手を上げるのが怖いという人もいるので、そういう人に「手を上げてください」とは言わないんです。「自分で不安じゃないところまででいいですよ」と声を掛けます。からだの状態も心の状態も一人一人違うので、「これをしましょう」と決めるより、ご自身が心地良い状態を選択していけるようにしていきます。そうやってマットの上で自分の心地良い状態を選択する練習をすることで、社会に出た時にも頑張りすぎず自分で選択していくという様に、ヨガが役立つことも目標としています。
乳がんの治療は時間がかかるので精神的にもパワーが必要です。普段から頑張って治療をしている人に「頑張らせない」のがモットーです。

ー頑張らせないように工夫されていることもあるのでしょうか?

伊藤 不安を感じる人には手元にタオルなどを用意して握ってもらったり、ボルスター(ヨガ用のクッション)に体を委ねてリラックスしてもらったり、目元を覆ったりすることもあります。

(ヨガセラピークラスの様子/写真提供 伊藤路子さん)

ーリラックスすることが大事なんですね。

伊藤 社会復帰などのために体力をつけることも大事だけど、ゆったりと呼吸をする、安眠できる、眠りの質を上げるといった、普段の生活の質を下げないようにヨガを取り入れてもらうのも大事だと思っています。

(乳がんヨガをほんの少し体験。不安がある場合は体を委ねられるようにあらゆる部分をサポートするので安心感に包み込まれます。※乳がんヨガを行うスタイルは個々によって違います)

ー印象に残っている生徒さんはいますか?

伊藤 本当にいろんな方がいるんですが、若くして20代で乳がんを経験した生徒さんもいました。レッスンを受けに来た時には30代だったけど、20代の一番華やかな時期を治療に費やして私には楽しみがなかったと話していたのが頭に残っていて。もっと早くに乳がんヨガを知っていたら、治療生活ももう少し楽しかったかもしれないと話してくれました。

(「教える側がリスクも理解したうえで必要な知識をつけて患者さんに寄り添いたい」と話す伊藤さん)

ー乳がんヨガのレッスンを受けるメリットはどんなところでしょうか?


伊藤 がん患者さんは孤独になりやすいので、仲間ができたりとかコミュニティができたりすることでやる気が出てくるということはありますね。
乳がんは若い世代がかかりやすい病気なので、ヨガにもなじみがある世代なのかなと思います。そういった人たちには運動のきっかけになるだろうなと思いますね。
また、治療を終えた後も患者さんにはその先の人生があります。子育てだったり、仕事復帰だったり。そういった場面を乗り越えていくために必要な体力やメンタルを補ってあげるのが乳がんヨガの役目かなと思いますね。

(スタジオの一画にも乳がんヨガやヨガセラピーの資料が)

ー今年の7月には仙台で行われた乳がん学会にも参加されていますよね。

伊藤 BCYのブースで出展しました。多くの医療関係者の方が興味をもってくれて、乳がんヨガ講師の派遣希望もありました。ただ、希望される地域に派遣できる講師がいなくて謝らなければならない場面も多くて…課題が見えましたね。

(7月に仙台で行われた乳がん学会にて/写真提供 伊藤路子さん)

ー乳がんヨガを教える立場として、今後の目標を教えてください。

伊藤 ヨガスタジオに来ることに抵抗がある人もいるので、抵抗を感じることがないようにスタジオに来やすい雰囲気をつくりたいなと思っています。まだまだ乳がんヨガの認知度が低いので病院と連携したり、乳がんヨガ講師の育成をしたり、必要としている人に届くようにしていきたいですね。

生徒さんからは「みぃ先生と呼ばれて親しまれている伊藤さん。サバサバとしていてヨガレッスンの際にも笑いが起きていましたが、乳がんヨガの話題になると優しく丁寧に言葉を紡いでいく姿が印象的でした。みぃ先生の活動によって秋田でも乳がんヨガが広がって、必要としているすべての人に届く日が早く来ることを願っています。

DATA

伊藤路子さん
秋田市出身のヨガインストラクター。yoga marga(ヨガマルガ)主宰。2019年から乳がんヨガクラスを開講。一般社団法人BCY Institute Japanの運営にも携わり、がん患者向けのヨガの普及や講師の育成にも力を入れている。

【yoga marga】
秋田市保戸野中町1ー4 2階
HP
Instagram
問い合わせやレッスン予約はメールで
Mail: mieka5555@gmail.com

【一般社団法人BCY Institute Japan】
乳がん患者さんに関する知識を備えた講師で構成される「乳がんヨガのプロフェッショナル」の集団。患者さんが安心してヨガを楽しめるようにひとりひとりに配慮した講座を行っているほか、乳がんヨガ指導者の育成も行う。
11月9日(土)に乳がんヨガフェスタ2024をオンライン開催。
詳細はHPまたはSNSで確認を。
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キーワード

秋田県内エリア

Writer

オカ ヒロコ

オカ ヒロコ

ライターであり、フリーアナウンサー。取材や執筆のほか、ナレーション、MCもします。気になる場所や人を見つけたら話を聞きたくなっちゃう知りたがり。食、子育て、おでかけ、頑張る人、幅広く発信します。 大仙市出身。2児の母。

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