実験が好きだった学生時代の夢を、子育てしながら叶えた髙嶋亜希子さんは、いわゆる“リケジョ”。主に医療関係の卸・販売を扱う会社で唯一の食品開発担当として、秋田県産の食材を利用した健康食品の開発に取り組んでいます。昨年末にはじゅんさいと酒かすを配合し、便通と肌状態の改善が期待できるインナービューティーサプリメント「潤彩(じゅんさい)小町」を開発。その開発裏話や、髙嶋さんのこれまでの歩みについてお話を伺いました。
出産後にたどり着いた、学生時代の夢の職業
—いつ頃から理数系に目覚めたのですか?
髙嶋 小さい頃から理数系は得意だったんですけれども、秋田高専の工業化学科(現・物質工学科)に入ってから実験が好きになりまして、将来はメーカーで研究開発に携わりたいと思うようになりました。
—私は思いっきり文系なのでぜひ質問したいのですが、理数系が得意になるためにいい環境ってありますか?
髙嶋 うちの両親は全然理数系ではないのですが、親戚には多い方かもしれませんね。私の弟もカメラメーカーで開発していますし。好きになった理由はこれといって見当たらないのですが、推理小説を好んで読んでいたり、問題を解決するのは好きだったかもしれません。
—では最初のお仕事も研究の分野に?
髙嶋 それが違うんです。私の就活時期はちょうど就職氷河期と言われていた時代で、最初に入った会社は建築会社だったんです。お客さんと「キッチンはどうしますか?」と相談したりしていましたよ。それから結婚・出産後に酒造メーカーなどに転職しまして、2015年にサノに入社しました。
—サノさんでは主にどういったお仕事をされているのですか?
髙嶋 私が配属されている食品開発部門は、“健康は食から”という社長の理念のもと、私の入社とともに立ち上がった新部門です。仕事内容としては、秋田県内の地域資源と呼ばれる農水産物を調査して、健康食品やサプリメントに利用できないか、日々研究や商品開発を行っています。
初めての経験が多かった商品開発
—「潤彩小町」はどういうきっかけで商品化に踏み切ったのですか?
髙嶋 社長が、「便秘になる妊婦が多いから、妊婦でも試せるサプリメントを開発しよう」と発案しまして、私が入社した頃にはすでに開発は始まっていました。それまで社長がつくっていたサプリメントは県外産の原料が多かったので、秋田県内のものでサプリメントをつくる、という目標を掲げていたんです。
—じゅんさいと酒かすが選ばれた理由はなんですか?
髙嶋 共同開発した秋田県総合食品研究センターにある県産食材のデータの中から、腸にいいもの、秋田のイメージが強いものという視点で、じゅんさいと酒かすを選びました。
—「潤彩小町」を開発する中で苦労したことや大変だったことは?
髙嶋 開発担当は私一人なので、ネーミングからマーケティング、販売ツールの制作に至るまで、すべてが大変でした!市販開始に合わせて通販サイトも開設したのですが、商品の説明文をつくる時に薬事法に引っかからないかチェックをしたりと、とにかくやることが山積みでした。
商品開発そのものも試行錯誤しましたね。弊社は医療機器や検査薬などを卸販売している会社なので、エビデンス(=効果があると言える臨床結果や科学的根拠)がないものは販売できないという社長の考えから、医師の監修のもとモニター試験も行いました。はじめはカプセルでモニター試験をしたら「飲みづらい」という意見が多く、それでゼリー状に変更したり。その頃は「結果が出なければどうしよう…」と、不安な日々を送っていましたね。
(共同開発した秋田県総合食品研究センターの上席研究員・畠さんとは10年来のお付き合い)
髙嶋 味もまずいと続けられないので、リンゴ・ブドウ・チョコ・抹茶などの飲み物やジャムを混ぜて、何種類もの味をつくって何度も試食してみました。そしていろんな人にも試食してもらった結果、秋田をイメージできて、なおかつ万人受けしそうなリンゴ味に決定しました。
でも、ネーミングやマーケティングはサノ東京支社の方々に手伝っていただいたり、会社の皆さんにモニターを集める協力をしてもらったりと、多くの方々に助けてもらったという感謝の気持ちでいっぱいです。
実家の協力があるから働けることを実感
—出産前後は働いていましたか?
髙嶋 今、長女が大学1年で長男が中学1年ですが、二人とも3歳になるまでは専業主婦でした。自分の母親が主婦だったことも影響していると思いますが、子どもが小さいうちは仕事との両立は無理だと思って仕事はしていませんでした。
—現在の勤務形態はどのような形ですか?
髙嶋 月曜〜金曜の8:30〜17:30ですが、両方の実家が近いので、帰りが遅くなる時や子どもが病気の時、私が出張の時は面倒をみてもらっています。そういった協力や家族の理解があるから仕事ができるんだと感謝していますね。
(お子さんたちと旅先での一枚)
—仕事を家に持ち帰ったりしますか?
髙嶋 家庭は家庭で忙しいですし、仕事はパソコンを見ながら考えることが多いので、家では考えないようにしています。そういう意味では、集中力はある方かもしれません。
—お子さんたちは、お母さんの仕事についてどんな印象をお持ちですか?
髙嶋 よく分かっていないと思います。「これ、お母さんが作ったサプリメントだよ」と教えたり食べたりしていても「ふーん」と言ってますから(笑)。でも子どもたちに数学や理科を教えられるのは、この道に進んでよかったことですね。息子は上から目線で聞いてきますけども(笑)。
次の研究食材はネギ!そして仕事の面白さとは…
—現在、研究開発している商品はありますか?
髙嶋 いま取り組んでいるのは、ネギの規格外品の商品化です。秋田県のネギ生産量は全国上位で、とくに能代の白神ネギは有名ですよね。ネギには気道粘性物質ムチンの過剰発現の抑制、わかりやすく言うと痰を抑制するはたらきがあり、喘息や誤嚥性肺炎の予防改善効果が期待できるんです。
実は、研究開発はだいたい5種類ほど平行して進めていまして、ボツになるものもたくさんあるんです。研究を始めてから手応えを感じたところで上層部に打診して、許可が下りたら本格的な研究開発に進みます。
—これから開発してみたい商品はありますか?
髙嶋 社員からは薄毛に効くサプリとか、ラーメンを食べてもなかったことにするサプリを開発してと言われています(笑)。私自身は“冷え”で悩んでいますし、冷えはいろんな病気につながるので、冷え解消サプリメントを開発したいですね。それから酒かすは、引き続き美容方面で研究する予定です。
—今の職業で一番面白さを感じるのはどんな時ですか?
髙嶋 実験をしていて、期待通りの良いデータが取れた時ですね!それから、潤彩小町のモニターやリピーターの方から、「美容師さんやエステのスタッフさんに肌を褒められた」「肌の調子がいい」などの報告があった時もうれしかったですね〜。
当初、肌のことは想定外だったんですよ。モニターさんから肌の報告があったので、私も開発に携わった人間として1カ月試してみたら、実際肌の変化を感じたんです。でも思い込みじゃないかと2カ月辞めてみて、また再開して今1カ月くらい経ちますが、毛穴が目立たなくなったり乾燥しなくなったのは実感していますね。たくさん鼻をかんでも鼻の下が荒れなくなったんですよ。
—商品開発というのは長い年月をかける分、やりがいもありそうです。
髙嶋 いろんな問題・課題につまずいてきましたが、それを乗り越えて商品化できた時はやっぱり達成感がありましたね。潤彩小町は開発に2年半かかりましたから、商品を手に取った瞬間は「ようやくできた!」と、産みの苦しみの後の達成感を味わいました。その後すぐに売り上げのプレッシャーがありましたけども(笑)。
—学生の頃に思い描いていた夢が形になったと。
髙嶋 今の会社に入って、“メーカーに入って研究開発する”という学生の頃の夢が実現した訳ですが、研究開発だけでなく商品化するまでにさまざまな体験や勉強ができることは、これからも自分の財産になっていくと思います。
研究開発とひと言に言っても、それには気の遠くなるような月日と繰り返される緻密な作業、そして何より、それをやり遂げる根気が必要な世界なのだと思います。その自分の夢の世界に、お母さんになってから飛び込んだ髙嶋さん。生き生きとお話される髙嶋さんからは、やりがいと充実感が伝わってきました。
【髙嶋 亜希子さんプロフィール】
秋田市出身
秋田高専卒業
建築会社、酒造メーカーなどに勤務後、2015年(株)サノに入社
【株式会社 サノ】
秋田市卸町3丁目4-2
電話番号/018-862-6644
ホームページ/http://www.sano-co.com
オンラインショップ/https://atmr.shop