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旬の食材を麹でシンプルにおいしく食べる。体をつくるごはんの大切さを伝える食の伝道師

旬菜みそ茶屋くらを」女将 鈴木 百合子 さん

突然ですが皆さん、毎日の食事にどれくらい向き合っていますか?今回は、蔵の町・増田で脈々と受け継がれてきた麹文化を、今の時代にフィットさせて提案している「旬菜みそ茶屋くらを」女将・鈴木さんの登場です。女将さんの言葉には、日々流されがちな食事を見直すヒントがたくさん詰まってましたよ〜!

心も体も変調をきたした県外での暮らし

— 鈴木さんのご実家は増田町の麹屋「羽場こうじ店」だそうですが、「旬菜みそ茶屋くらを」を始める前も家業に携わっていたのですか?

鈴木 私は麹屋の次女として生まれましたが、競技スキーで県北の高校に進学したので、中学卒業後に親元を離れているんです。「私はこれでご飯を食べていくんだ!」と思っていたのですが、靱帯の怪我から競技生活を終えたんですね。その後、福島に進学・就職して、目的もなく働いていました。

— では帰郷したきっかけは?

鈴木 結婚後に体調を壊してしまい、通院していたのですがなかなか治らなくて、布団に籠もるほど精神的にも追い込まれてしまったんです。そうしたらもう秋田に帰りたくなって。夫も悩んだと思います。でも妻の健康が最優先と判断してくれて、家族全員での帰郷を決めました。

うちの麹や味噌が私のアイデンティティ


(お母さんの象徴・割烹着が、くらをスタイル。なんとこの割烹着、製造しているのは全国で岩手県にある1社だけなんだとか)

— 帰郷後はどのような暮らしだったのですか?

鈴木 地元に戻ってからも、しばらくは自分の身の周りのことしかできませんでした。母が作ってくれたご飯もイヤイヤ食べて。母が用意してくれたのはご飯・味噌汁・お漬物とシンプルなものでしたが、ある朝なめこの味噌汁を食べた時、胃のあたりにブワーッと染みていくような、今までにない体験をしたんです。

そこで私はやっと、「自分の体は食べ物でできているのに、食べることをないがしろにしていたら元気になるわけがない」と気づいたんですね。そこから食べることに執着するようになって、きちんと食事をとるようになったら体調も良くなって、家事もできるようになりました。

—お母さんのご飯が、大切なことに気づかせてくれたんですね。

鈴木 うちで作っている麹や味噌、それが私のアイデンティティであり、根っこだとようやく合点がいったんです。それから両親の仕事を見るようになりました。3代目の父が、明治時代から受け継がれた作り方そのままに、まるで子育てのように目をかけ手をかけ麹を育てている。その姿が神々しくて。私の親が、地域のご飯の下支えをしているんだと。うちはいい仕事をしているな〜と初めて認識しました。

本物を伝える使命感から飲食店を開業

— お店を構えたのはどんな理由からですか?

鈴木 今は、食への向き合い方がカジュアル化していて、本当のものをちゃんと食べている人が減っている。以前の私がそうでした。そう考えたら、本来の食べ方をちゃんと伝える場所を作りたいという使命感が湧いてきて。それには麹が深く関わっているから、お店を持ちたいと思うようになったんです。それで5年前に「旬菜みそ茶屋くらを」を開くに至りました。

— お店が入った建物も、歴史と風情を感じさせますね。

鈴木 平成15年まで酒造りをしていた旧勇駒酒造さんの建物を再利用しています。ここは国指定有形文化財に登録された建物で、江戸後期に建造された内蔵も残っていますし、お酒の仕込み水もそのまま使用しています。平成25年には、中七日町通りを中心に「国の重要伝統的建造物群保存地区」に選定されて、観光客もだいぶ増えてきましたね。


(建物の奥には鞘付土蔵がお目見え。地元では内蔵と呼ばれる、増田町を象徴する建造物です)

地元のお母さん達が最強!

— メニューは最初から今のスタイルでしたか?

鈴木 お店を立ち上げた当初は「お客様に失礼にならないように」と、少しすました和食を提供しようと思ったんです。でも次第に、うちの麹の良さを最大限に引き出した、ここでしか食べられないものを出したい!と強く思うようになって。それまでサポート役だった地元のお母さん達を中心に店づくりをしていこうと方向転換しました。


(旬の食材と麹のやさしい味を楽しめる「いろはセット」1,200円/税込。メインは肉と魚から選べて、ご飯はおかわり自由)

— お母さん達の家庭の味が、お膳に集まっているんですね。

鈴木 お母さん達にはそれぞれ得意分野があって、たくあん一つでもそれぞれの作り方があります。その皆さんの意見をつぶさずに、ちょうどよくまとめて一つにするのが私の役目ですね。お母さん達も、お客様から直接感想を頂戴したり料理を上手に説明できたりすることに、やりがいを感じているようです。

自分の親世代のお母さん達って、台所の常識や保存食の知識の量がもう全然違うんです。干す、漬ける、冷凍などあらゆる方法で食材を保存していますから、何を聞いても「あるよ」と(笑)。


(この秘密基地のような調理場で、お母さん達のほっこり滋味深い料理が生まれています)

それは、家族の健康や経済的にすごく素敵なことですし、生きることをベースに考えたら最強だなと。食べることを大切にしてきたから肌つやもきれいで、まるで樹齢を重ねた桜のような、ゆるがない美しさがある。私もああなりたいなと思っています。

母と息子をつなぐ365日味噌汁

— 現在、毎日中身の違う味噌汁を作り続けているそうですが、なにかきっかけはあったのですか?

鈴木 2年前の息子の高校入学がきっかけです。通学時間が長くなり、帰宅時間も遅くなって、息子がヘトヘトだったんですね。「ちゃんと食べさせて体力をつけてあげたい。ご飯を作る時間が限られていても、バランスのいいものを食べさせたい」と。そこで、毎日違う実を4つ以上使った味噌汁をつくり始めました。味噌汁を食べるとご飯が食べたくなりますから。

この味噌汁づくりを始めて丸2年経ちましたが、出汁の組み合わせを替えたり、同じ素材でも生と乾燥の違いを確かめたりと、これまでいろいろ試してみましたよ。そして3年目の今年から、「本日の味噌汁」としてお店にも出すようになりました。


(大豆1に対して麹3の割合で仕込む羽場こうじ店の「特上㐂助味噌」は、初代から受け継いだ天然醸造。実がたくさんの根菜なら出汁がいらないほど、上品な香味と甘味、旨味が特徴です)
※画像は「旬菜みそ茶屋くらをインスタグラム」より

— 息子さんやお客さんの反応はいかがですか?

鈴木 始めは家族も味見ばかりでモルモット状態でしたが(笑)、1年たった頃には息子も「ここら辺が足りない」なんて味にうるさくなってきましたし、病気もしなくなりました。お客さんの感想も反応でだいたい分かりますね。いいプレッシャーの中でチャレンジしている毎日です。

今一番忙しいお母さんこそ麹を

— 麹を日常の料理に活用する方法を教えてください。

鈴木 麹って、素材を柔らかくしたり、味に奥行きを出してくれる旨みの塊なんですよ。例えばカレーだったら、麹を一緒に使うだけで“二日目のカレー”になります。麹が味のつなぎ役になるからです。食塩3:麹5:お米8の割合でできた三五八は、塩味と旨味が備わっている万能調味料なので、スープや炒め物でも塩代わりに使うとおいしく仕上がります。

忙しい毎日で料理がストレスになっているなら、麹を使うことを本当にお勧めしますよ。せっかく新鮮な旬の野菜を買っても、味の濃い調味料でまぶしてしまってはもったいないです!

— もっと旬の野菜を食べたい気持ちはあっても、結局は定番の野菜を買いがちです…。

鈴木 うちの食材は店の隣で開かれる朝市(※)で仕入れていますが、この地域は季節がはっきりしていて2週間ごとに野菜の種類が変わるので、それで季節の変わり目が分かるんですよ。旬の野菜はエネルギーが詰まっていて、安くておいしい。そんな旬の食材の無理のない食べ方を提案していきたいですね。
(※)約380年前から続く増田の朝市。毎月2・5・9のつく日に開催。


(お店に野菜を卸す農家であり常連の菊地さん曰く、女将さんは「食べ方の良し悪しを、“生きる”こととつなげて周りの人達に伝えてくれる人」とのこと)

麹の伝統とこれからをつなぐ役割に

— 麹をこれからどう広げていきたいですか?

鈴木 ちょうどお店を始めた頃から世の中で発酵ブームが始まったんですけど、ここのお母さん達は発酵料理を作っている意識がないくらい麹が日常で。それがいわゆる「本物」なんだと思います。冷蔵庫のあり合わせだったり、地元の調味料を使って、名もなき料理を作る。本来流行るべきものではないと思うのですが、ムーブメントがあるうちに、麹をいつも台所にあるものに押し上げたいんです。

「麹は古くからあるいい物なのでどうぞ」では若い世代に響かないので、現代の食卓に合わせた麹料理を提案しながら、伝統料理と共存させていく。そうすることで、伝統料理とこれからの麹料理のバトンをつなぐ役割になれればと思っています。

取材の最後に、「あの人に相談してみようとか、あの人と話したら楽になったと思われるような、まちのよろず屋的存在になりたいです」と話してくれた鈴木さん。健やかな笑顔の中に芯の強さを感じて、話しているうちにパワーをもらってきました。今年3月に開催して盛況だった「くらをとミンカの生きるごはん」は、次回も要注目です!

【鈴木百合子さんプロフィール】
1973年、増田町「羽場こうじ店」の次女として生まれる。県外へ進学し、就職・結婚をする。自身の療養のため家族で地元へ帰郷。体と食事の関係、食事と麹屋の関係などの気づきを経て、「身体の内側から元気になるごはん」をテーマに、2013年「旬菜みそ茶屋くらを」を開業。一男の母。


【旬菜みそ茶屋くらを】
横手市増田町増田字中町64
電話番号/0182-45-3710
営業時間/10:00〜16:00(ランチタイム11:30〜14:00)
定休日/水曜
旬菜みそ茶屋くらをホームページ
旬菜みそ茶屋くらをFacebookページ
旬菜みそ茶屋くらをインスタグラム
■現在、内蔵にて「安西肇の世界展」を開催中!詳しくはこちら

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秋田県内エリア

Writer

熊谷 清香

熊谷 清香

地元タウン誌や広告代理店勤務を経て、フリーランスで企画・編集・取材・インタビュー・ライティング等をしています。拠点令和2年度、秋田県よろず支援コーディネーター就任。中高生の母。秋田市出身。

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