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アーティストの顔も持つ、極厚原木しいたけ「絹」を支える若手農業家

齋藤農園三代目 齋藤 瑠璃子さん

秋田県仙北市西木町。ナビがないと辿り着けない、奥の奥まで行くと「齋藤農園」があります。ここで日々、自然と格闘し、農業とアートと酒をこよなく愛する齋藤農園三代目、齋藤 瑠璃子さんが暮らしています。

(ネギ畑で笑顔の齋藤 瑠璃子さん)

美大卒のアーティストとしても活動


―美大の名門、多摩美術大を卒業されたアーティストでもあるとか。いきさつをぜひ教えて頂きたいです!

齋藤 高校で美術部に入ったのがきっかけです。顧問の先生が多摩美出身だったのでその影響もありました。高校卒業後は、上京し、バイトをしながら美大に入るための予備校通いでした。現役で受かる人なんてほんの一握りなので、基礎作りのためにも予備校は当たり前でしたし、予備校生とはいえ神のように絵が上手いのに浪人している人たちばっかりで刺激を受けました。私は二浪しましたが必要な準備期間でした。

(Zokibayasi Obake2008 写真提供/齋藤 瑠璃子)


―大学に入ってからはどうでしたか?

齋藤 油絵の専攻だったのですが現代美術という分野で、課題に対して、絵だけでなく映像や立体の作品など表現方法はなんでもありだったんです。技術を学ぶというよりは、表現の多様性やコンセプトが大事ということを学んだと思います。知識がめちゃくちゃある人、パフォーマンスに優れている人、作品作りのために面白いことを常に考えている人などがいっぱいいる中で、日々課題をこなし、テレアポや展示会の受付、探偵など数々のバイトをし、目まぐるしく過ぎていった感じです。

(「ゼロダテ/大館展」 空と暗闇2012 写真提供/齋藤 瑠璃子)


―その後はどうされたのですか?

齋藤 美術の教員になろうと思ったんです。中学高校の美術教員免許を取得し、東京都の期限付き任用教員という枠の補欠合格に受かったんです。ただ、採用の電話がかかって来た日、友人の誕生日パーティーで昼から酒を飲んでいて…、電話に出られなかった。それで不合格になりました。
仕方なく、大学の先輩たちが始めたシェアアトリエで活動を続けながら、派遣社員として化粧品工場で働いていました。さらに次の年も期限付き任用教員に受かったのですが、合格の電話を待たずに、アトリエの近くにある工場の金属サイディングのデザイナーの仕事をすることにしたんです。

(しいたけ小屋の中で。室内栽培も可能なため、1年を通してしいたけ栽培をしている)

秋田に戻り、農業を手伝うことに


―秋田に戻るきっかけはなんだったのでしょう?

齋藤 東日本大震災が大きなきっかけでした。東京も都心から離れると、インフラの復旧作業に時間がかかって。それでいて人が多い。人が住む場所じゃないな、と思うようになったんです。しかも、実家では父の病気が見つかり、母も入院が必要だと言われていた時で。さらには祖母が徘徊をした、というのが一気に起こってしまって。実家に帰らなくては!と思いましたね。

―そして、農業を?

齋藤 戻ってすぐは東京のデザイナーの仕事の残してきた分を秋田でやっていたので、農業は手伝い程度でした。大学時代もマルシェや学祭で野菜を売るなどして、秋田に帰って農業をやりながら作品を作りたいと思っていたので、いずれやろうと思っていました。ただ、生き物でしょ。日々成長するわけです。草が生えれば抜かなきゃいけない、水やったり、肥料やったり、収穫したり…。次第に農業の時間が増えていきました。

(齋藤農園の看板商品でもある原木しいたけ)

「絹」のはじまり


―齋藤農園といえば、原木しいたけ。それも、極厚のしいたけ「絹」が有名ということですが、はじまりはいつ頃なのでしょう?

齋藤 父の代に始めました。115という菌の椎茸でジャンボしいたけというような名前で売っていたのですが、株式会社食文化の萩原社長が我が家のしいたけを食べて「絹のようだ!」と感動してくださり、『絹』と名づけてくれたそうです。今では、株式会社食文化さんで運営されている「うまいもの.com」でも好評です。

(極厚の原木しいたけ「絹」 写真提供/齋藤農園)


―栽培が大変だったりするのでしょうか。

齋藤 他のしいたけは、温度調整などしながら通年栽培しているのですが、「絹」は冬の時期にしか生産できないんです。また、菌を植え付けて浸水作業をしてから収穫まで、他のしいたけの4倍くらいの期間が必要です。袋掛けなどして水分量や温度を調節したりと手間暇かけて育てています。父が亡くなってからは、母が主にしいたけ担当ですが、私も手伝っています。
原木しいたけは、自然に近い栽培方法なので香りも味も違います。ほとんど卸先が決まっているので、私の口に入るのはごくわずかですが、味噌汁にするとおいしいですよー!ミズも一緒に入れると最高!

(ふつうのしいたけよりも手間暇がかかる「絹」の栽培 写真提供/齋藤農園)


大学に通えたネギに恩返し


―瑠璃子さんの主な担当はなんですか?

齋藤 私は、今の時期はネギ。このネギ、私の学費を稼がないと!と両親が始めたものなんです。私はこのネギのおかげで大学に行くことができたので、大事に育ててます。他にも有機肥料で栽培した米、大根、さやえんどうなど季節ごとにそれぞれ。他にも西明寺栗も育ててます。だから、夏場は忙しい!

(瑠璃子さんが主に担当しているネギ畑。植える作業も機械なので、女性もできますよ!とのこと)

―アーティストとしての活動もされているのですか?

齋藤 上小阿仁村を舞台にした「かみこあにプロジェクト」だったり、青森県立美術館で開かれる農業とアートの展覧会「アグロス・アートプロジェクト」のような展覧会だったり。頼まれると、引き受けたりするのですが、なんせ農業との頭の切り替えが大変で。例えば、イベントのコンセプトを考えたり、外でやるのか、室内なのかで作品も変わってきますし、周りとの調和もある。それらを考えて作品を作ることはすごくストレスになるし、そこに時間と頭と使わないといけないのに、農作業もある。どっちかやったら、そこにどっぶりと浸からないとやれないので農作業が忙しい夏場はオファーがあると大変です。とにかく農作業が忙しいんで!

(2020年上桧木内の紙風船上げにて制作 ハタハタをモチーフにしたもの 写真提供/齋藤 瑠璃子)


冬場は、比較的時間が取れるので、地元のお祭り「上桧木内の紙風船上げ」に作品を出したりしてますね。新しいアプローチをしてみたいなと思って、秋田のハタハタ熱を作品に込めたり、スギッチにしたりあまびえにしたり。報酬は集落の方々から頂くお酒や料理で!
今後の目標とかもないですね。日々色んなことが起きるので。降りかかってくる課題をこなしていくことで精いっぱいです。


(いぶりがっこも作る! 写真提供/齋藤農園)

(西明寺栗も育てる! 写真提供/齋藤農園)

(マルシェもやる! 写真提供/齋藤農園)


農業とアートという2つの全く異なる領域での活動ですが、そのどちらにおいてもプロ。アーティストを息抜きなどではなく、仕事として活動をされているため「絵を描くこともストレスになるんですよ」という言葉は印象的でした。 そのストイックさは農業でも。いい作物を育てることに努力を惜しまず、それを売りさばき、人脈を広げていくパワフルな農業女子の瑠璃子さん。パワー溢れる齋藤農園の野菜を食べれば、暑い夏がなんなく乗り切れそうです!

★日産プリンス×a.woman7 月のプレゼント 瑠璃子さんが作る「原木しいたけ&夏野菜」を抽選で5名様へプレゼントします!締め切りは2021年7月31日迄 応募はこちらから


DATA

【齋藤 瑠璃子さんプロフィール】
秋田県仙北市西木町生まれ。多摩美術大学絵画学科油画専攻し卒業後、実家の農業を継ぐ。アーティストとしても活動しながら、原木しいたけを中心に野菜や米を作る「齋藤農園」三代目。

〈齋藤農園〉
齋藤農園の紹介ページ
メール/info@saitonoen.com
fax /0187-42-8420
※お米と旬の野菜の定期便などは直接ご連絡を

〈齋藤農園の野菜を買えるところ〉
●わかくさマーケット 毎月第4土曜日に秋田市北都銀行泉支店で行われているマルシェ
※コロナウイルスの感染状況により、7月以降の開催は未定です
●秋田市内 肉のわかば 各店舗
●東京 銀座松屋
ほかネット通販も好評

〈主な経歴〉
2009年 第24回ホルベインスカルシップ奨学者
個展
2011年「森の共犯者 郷の抽象化」ゼロダテアートセンター東京(東京)
グループ展
2009年「NEXT DOOR vo.9」T&G ARTS(東京)
2009年「こなたかなた展」「アウトポスト展」TURNERGALLERY(東京)
2010年~13年「ゼロダテ/大館展」大館市商店街(秋田)
2016年「あきたの美術2016」秋田県立美術館(秋田)
2017年「VOCA展2017 新しい平面の作家達」上野の森美術館(東京)
2017年「artline AR」秋田市立千秋美術館(秋田)
2017年~19年「アグロスアートプロジェクト」青森県立美術館(青森)
2018年~19年「かみこあにプロジェクト」秋田県上小阿仁村(秋田)

Writer

kamada minako

kamada minako

由利本荘市出身、二児の母。超時短のパート事務員をしながら、ライターをやっています。フードコーディネーターの資格あり。 日々のお料理ブログ。
http://kamadakikaku.php.xdomain.jp

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