豪雪地帯の湯沢市三関。夏のサクランボが有名ですが、シャキシャキした食感で根っこまで美味しく食べられる「三関せり」の産地でもあります。ここ三関で、江戸時代から続く農家の長女として生まれ、家族でせりやサクランボ、米を育てる三関加敬農園の加藤智子さんにお話を伺いました。
超過酷!せりの収穫現場
ー今年のせりはどうですか?
加藤 すこぶる順調でしたよ!昨シーズンは大雪で、ハウスの周りを除雪してからの収穫作業なので体力的にも本当にきつかったんです。1月に入ってからは雪が落ち着いているのでよかったです。年末のピークの時には、1日に4人で30箱収穫して県内外に発送しました。この辺りは、東鳥海山から流れてくる雪解け水のお陰もあって、根っこが真っ白で長く、葉っぱも大きい、ピンと長いせりが育つんです。
ー葉っぱが顔を出していて、水の中に根が育っているんですね。
加藤 そうなんです。だから摘む作業は過酷でとにかく冷たい!水の中に入りっぱなしなので、足先や手も冷えて痛くなってくるんです。摘む体制も、ずっと中腰でキツイんですよね〜。水の中は土がぬかるんでいるので、慌ててやると転んじゃうんです。だから、ゆっくりゆっくり摘むんですけど2時間が限界ですね。
父や母、家族の背中を追いかけて
ーせりの収穫ってこんなに大変な作業なんですね。
加藤 これでも昔に比べたら今は全然よくなったんですよ。私が小さいときは、まだハウスがなくて露地栽培だったんです。吹雪の中で、ほっかむりをして凍えてやっていた姿を見ていたし、繁忙期には夜中の2時頃まで作業している家族を見て、農業って大変なんだなぁと感じていましたね。
ー家業を継ごうと思ったのはいつ頃ですか?
加藤 うちは江戸時代から続く農家なので、物心ついた頃から私の周りでは誰かが作業をしていました。長女だから農家を継ごう!と決心したわけでなく、自然に一緒にやるようになった感じですね。
ー本格的にやり始めたのはいつからですか?
加藤 高校卒業後は秋田の調理専門学校に行ったので、本格的に農業を始めたのは20歳の時からですね。今年で19年目になるかなぁ。ちゃんと数えたことなかったけど、こんなに経ってました。ちょっと前までは、せりってすごく安かったんです。この地域だとお正月だけ売れるものだったから、冬のお小遣い程度で作っていたんですけど、今はせりの需要が全国的に増えてるんですよね。お陰様で当園のせりも毎年楽しみに待っててくれるお客さんがいるので、続けてこれたと思いますね。
伝統を守りながら、自分らしく
ー「KAKEI坊や」のことを教えてください。
加藤 昨年末に直売所としてオープンしました。当園のせり、サクランボ、りんご、お米など季節ごとに販売します。テイクアウトでクレープやアップルパイ、ジャムなども増やしていく予定です。いつかは、直売所を作りたいなぁと家族でアイディアをあたためていたんですけど遂にオープンできました。
ー真っ白な雪景色に赤い建物が映えますね!
加藤 あれは父のアイディアなんです。内装もサクランボの壁紙ですよ。この辺は、お店がない住宅地なので、近所のおばあちゃんたちがゆっくり休みに来ることもあるんです。
冬期間は週末限定でオープンしていて、私も店に立っています。平日は農作業、週末はお店の方に来るのが今のルーティンですね。農作業をずっとやっているよりも気持ち的にいいリズムで仕事ができているかなぁ。何よりも、大事に育てたせりや果物を直接お客さんに手渡せるのはやっぱり嬉しいですね。「来年も待ってるよ」「友達にも勧めたいな」なんて言ってもらえるんですけど、何にも変えられないやりがいを感じますね。
ー生産者さんから直接買えるのは嬉しいですね。
加藤 普通の農家さんは直売所って作らないので珍しいですよね。農家同士の連携も大事だけど、これからは他業種さんとの繋がりも大切にしていきたいと思っています。アイディアをもらったり、今よりも広い視野で経営に携われたら、秋田の農業全体が盛り上がってさらに楽しくなるんじゃないかな。
加藤 新しく直売所をオープンもしましたけど、「やりたいこと」「やらなきゃいけないこと」はまだたくさんあるんですよ。せり以外でも、りんごやサクランボの作り方は父からもっと学びたいし、両親を助けてあげたいと思っています。でも、焦らず前向きに目の前のことひとつずつと向き合っていきたいです。
同世代で、私も同じ県南出身だからでしょうか。「はじめまして」の挨拶を忘れてしまうほどアットホームで、あたたかく迎えて下さった智子さんご一家。過酷な農作業の中、家族で声を掛け合い、思いやりながら大事に育てたせりは絶品です。夏になったらサクランボを買いに行くのが今から楽しみです。三関から全国へ、三関加敬農園の果物やせりが日本中に広がってほしいです。