秋田県内のカフェやレンタルスペース、コミュニティセンターなど台所(秋田弁でみんじゃ)があればどこへでも出向き、美味しいお料理でもてなしてくれる「旅するMinja(みんじゃ)」の大沢沙織さん。昨年からキッチンカーを本格始動し、これからも多くの人にご飯やかき氷を届けます。食で人を幸せにする大沢さんのルーツやこれまでの経験を伺いました。
恥ずかしがりやな少女の東京生活
ー大沢さんはずっと飲食のお仕事をされてるんですか?
大沢 私は、高校卒業してすぐ東京に出て、服飾関係の会社で働きながら縫製の勉強をしていたんで。夢中で仕事をして毎日過ごしていたんですけど、身近な人が亡くなり、人生の価値観とか目的も少しずつ変わったんです。それで、まずは全力で後悔なく生きるために会社を退職しました。そのあとは、日雇いアルバイトとか色々やったけど、やっぱり夢中になれたのが飲食の仕事だったんです。
ー明るい大沢さんには、飲食のお仕事ってぴったりな気がします!
大沢 実は上京したての頃は、人と接するのが恥ずかしくて引っ込み思案な少女だったんです。飲食店のアルバイトではオーダーが取れるようになるまで3ヶ月もかかるほどの人見知り!でも、慣れてきたら楽しくなってきて、どんどん上を目指したいって思うようになりました。結局、アルバイトから社員になって、飲食業界で経験を積んで、人間的にも成長できたなと感じます。
ー東京での仕事も充実してる中で、秋田に戻るきっかけは?
大沢 20代はとにかくバリバリ働きましたね。店長や副店長などの管理職、人材育成やマネジメントなど、男性社員に混ざって夢中で仕事をしました。20代後半に、縁があって福祉関係のカフェで店長を任せられたんです。4人の障害者の方とカフェを運営するのは苦労することも多かったけどいい経験でした。これがきっかけで、障害者や高齢者の生活に寄り添った手助けをしたいなって思うようになったんです。サービス精神やまごころを持って利用者に接するのは、飲食の仕事にも通じるところもあるから。資格を持っていれば秋田でも仕事できるかなという考えもあって、社会福祉士の資格を取って秋田に帰ろう!と決意しました。
秋田の生活で思い出す料理のルーツ
ー秋田に戻ってからの生活はいかがでしたか?
大沢 地元に戻ったのは32歳頃かな。東京で介護福祉士の資格を取ったので介護施設へ転職しました。新しい環境でのスタートだし、自然や食べ物、田舎暮らしを楽しむぞ!って思ってたのに、仕事がきつすぎて体を壊してしまったんです。気持ちばかり焦ってしまって、周りにも心配かけてしまったので、心と体を整えるためにしばらくお休みしました。この時期に出会った方との縁が大きかったですね。地元にもこんなにかっこいい大人がいるんだなと思ったし、自分の進みたい道や方向性がなんとなく決まりました。
大沢 地元で生活すると思い出すことがたくさんあるんです。おばさんが作るおはぎ、おばあちゃんのぜんまいの煮物やコザキネリ、エゴの寒天など…。美味しかったなぁ、また食べたいなぁって。小さい頃から私の周りには料理名人が多くて、真似して私も自然と台所に立つようになって、幼稚園の頃から朝ごはんの卵焼き担当だったんです。名もなき料理を創作したり、たくさん失敗もしたけど作るのが楽しくて、食べることも大好き!各家庭のみんじゃ(台所)から始まる物語を形にしたいなと思って2020年「旅するMinja」を本格始動しました。
自分らしい働き方への挑戦
ー「旅するMinja」は2020年にスタートしたんですね。
大沢 2020年頃はコロナ禍で、飲食店は本当に大変な時期でしたね。この頃には、湯沢市のカフェバーを借りてランチ営業をする予定だったんですが、急遽テイクアウトに変更しました。世間的にも「飲食店を応援しよう!」っていう流れがあったけど、お客さんって本当に応援してくれるんですよ。外出も大変な中、ご飯を買いにお店まで来てくれたのが本当に嬉しかった!信じられないような世の中になってしまったけど、ご飯をお腹いっぱい食べて幸せになってほしいって思いましたね。
ーどんどん活動の幅が広がっていますね!
大沢 周りの方や家族に感謝ですね。私にとって、人との出会いが財産なんです。カフェに来てくれた方に繋いでもらったご縁で乾燥フルーツを商品化し、「manzke 赤い実食べる」を製造販売しています。お安温泉峡の地熱を使った乾燥野菜を作る方達が高齢化で苦戦しているということを聞いて、すごくもったいないなって思ったんです。野菜だけでなくて果物も乾燥したらいいかも!と思ってやらせてもらったら、美味しくてびっくりしました。添加物なしで体にも優しいのでお陰様でファンが多いんです。まだまだ知らない地域の魅力とか郷土料理もあるので、発見があるとやっぱり嬉しいですね。
ー黄色いキッチンカー素敵ですね。
大沢 幸せの色のキッチンカーにしました!よく目立つし、小さい子たちも喜んでくれます。スタートに合わせて、看板メニューを作った方いいかなぁとも思いましたが、出店場所に来てくれる人、季節、トレンド、その時々で食べてもらいたいものが違うんです。だから、固定メニューではなく、出店場所や来てくれるお客さんに合わせたメニューにしています。臨機応変にそこの台所に合わせて料理を作るのは得意なんです。いずれは自分のお店を構えるかもしれないけど、今は「旅するMinja」のネーミングの通り、いろんな場所に出向いておもてなししたいです。
大沢 いろいろ寄り道しながらやっとここまで辿り着きました。何者でもなかった私が、今では「さおちゃん」「Minjaさん」って声をかけてもらえることも増えてきて、これでやっていけるかもと手応えも感じています。ノスタルジックな雰囲気、懐かしい食卓の光景、秋田の実家らしさ、私のみんじゃから始まる物語をこれからゆっくり紡いでいきたいです。
表情豊かで包容力がある大沢さん。飲食業界だけでなく、介護の仕事をしていたのも納得です。小さい頃に立っていた台所から、旅をして見つけた自分だけの台所。これからは、キッチンカーでもっと多くの方に大沢さんの笑顔と美味しいご飯を届けてくれるはずです。4月以降はイベント出店も多く控えているので、ぜひSNSをチェックしてみてください!
DATA
【旅するMinja 大沢沙織さん】
秋田県湯沢市生まれ。高校卒業後、服飾関連の企業に就職。その後は、焼肉屋、居酒屋、宅配寿司などの飲食業界、介護業界を経て地元にUターン。2020年に「旅するMinja」を起業し、カフェやレンタルスペースで間借り営業。2023年よりキッチンカーを本格始動し、イベントなどにも多数出店。