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自身を表現する彫刻家の道を歩みながら、暮らしに寄り添うハンドメイドの世界も探求する造形作家

造形作家 菅原 綾希子 さん

ある時は県内でも指折りの若手彫刻家、そしてある時は雑貨好きな女性の心をくすぐるハンドメイド作家と、造形作家として多岐にわたって活躍している菅原綾希子さん。今回は自宅に併設されたアトリエにお邪魔して、造形作家としてのさまざまな側面についてお話をお伺いしました。

— 現在の活動を始める経緯を教えてください。

菅原 美術の教員を目指して、憧れの地だった北海道函館市の北海道教育大学に進学したのですが、そこで出会った彫刻家の先生に感銘を受けて、彫刻の世界に惹き込まれるようになりました。その先生いわく「生活の中から出てくるもので立体はできる。その人の内面が出るものだから、まずは生活を正せ」と。規則正しい生活をして、自分に向き合うことの大切さを教えていただきました。

と言っても当時私はバンド活動もしていて、表舞台で音楽を表現することの面白さにもハマっていたので、「バンドはやるな」「彫刻一本に絞っている仲間を見ろ」という先生に反発していました(笑)。

でも結局は、大学卒業後もその先生に師事したかったので、両親に長文の手紙を書いて大学院進学の許しを得て、さらに2年間お世話になりました。そのくらい、先生の教えを受けながら自分と向き合い、姿勢を正したいという気持ちが強かったんです。

— 美術の教員を目指したということは、ご家族も美術関係に携わっていたのですか?

菅原 父が美術と英語の教員で、昔はよく庭で木をチェーンソーで削って彫刻していましたね。母は保育士でしたが油絵をやっていましたし、妹は美大に通っていました。今は両親とも退職して、美術まっしぐらです(笑)。

ですので、両親の才能を引き継がせてもらったという気持ちはあります。私自身は高校の途中から美術部に入りまして、大学ではじめは油絵をやるつもりでいました。

小さな作品の世界観に魅了されて

— 大学院卒業後は、高校の美術教員として勤めるかたわら彫刻の制作も続けていたそうですが、2010年から「h.u.g」としての活動もスタートさせました。そのきっかけは何だったのですか?

菅原 本当に些細なことなんですけれど…。あるカフェに行った時に、アンティーク調の小さな家のオブジェが目に留まったんですね。とても小さいのにすごい雰囲気をまとっていて。さり気なく置かれたものであっても、その場所の雰囲気や暮らしに寄り添う作品っていいな、と思ったんです。それが「h.u.g」として小さい作品を作るようになったきっかけですね。


(左がh.u.gの代表作の一つ「Ouchi」で、右がその初作品。はじめは角を作るのが難しかったそうで、「あまりにもひどいので取っておいています(笑)」)

— この「Ouchi」は思ったよりも軽いんですね!

菅原 これは木粉粘土で作っているんです。弾力があってネバネバしているので最初は難しかったのですが、乾燥しても縮まないし色も塗れますし、落としたりしても壊れにくいんです。それから土に還る素材なのもいい点ですね。


(着色前に約一週間かけて乾燥させます。これだけOuchiが並ぶとなんだか北欧の街並みのよう)


(まるで長く愛されてきたかのような古い風合いが人気のOuchiたち。h.u.gインスタグラムより)


(Ouchiを作るのに欠かせない道具はなんとバターナイフ!今でも理想形を探し求めているそうですが、現在のNo.1は柳宗理のバターナイフだそうです)

お客様の暮らしに寄り添う作品を

菅原 家シリーズの「Ouchi」は今まで何千個と作っていますが、最近では作風からずれない範囲で、委託販売していただいているショップやお客様からのオーダーも受け付けるようになりました。

ショップからの声で誕生した「yozora」は、夜空に浮かぶお月さまとお家をセットにした半立体オブジェです。古材をアクリル絵の具でアンティーク加工した夜空に七宝焼きの月、それに陶器の木や粘土の家と、いろんな素材でできあがっています。


(どれ一つとして同じデザインがない「yozora」。h.u.gインスタグラムより)

— ユニークなモチーフのアクセサリーも人気です。

菅原 陶器のブローチやイヤリング、ピアスは、身に着けられる実用性のある作品が作れたら自分の活動の幅も広がると思い、2015年から始めました。素焼きの陶器に色釉薬をのせて焼いたり、水干絵の具で着色したりしています。

自然界にあるものや食べ物のモチーフが多いですが、さりげなく、でもファッションのワンポイントになるような、遊び心のあるモチーフをいつも考えていますね。そういうモチーフにひと工夫持たせて、ありそうでなかった、世界で一つだけのものになるように心掛けています。


h.u.gインスタグラムより)

— 「h.u.g」としての楽しさはどんなところにありますか?

菅原 どういう場所に置いたらいいか、どういう服に映えるのか、今の時期に合うものはなんだろうかと、お客様の暮らしを思い浮かべながら作っている時でしょうか。自分の好きな形が売れるとは限りませんから、そういう需要は考えます。

あまり主張せずに生活に寄り添うような、ちょっとした幸せを感じられるような作品を作り続けていきたいと思っています。


(どことなく懐かしさやぬくもりが感じられるh.u.gの作品たち。手前は新作の石ブローチ。かわいい!)

(h.u.gの作品はa.woman shopで購入できます。)

彫刻は立体化している日誌

— では、彫刻を制作している時に心がけていることは?

菅原 嘘がないように、ということです。人からどう見られるかを気にするのではなく、自然に生まれた感情を大切にしていますので、その時に悩んでいることや身に起きたことなどが形になりますね。彫刻は、立体化している日誌なんです。

— 昨年、人生初の個展「ツキノヒト」を開催したそうですが、月をテーマにした理由は?

菅原 昔から、月の不可思議さや妖艶さに惹かれていたんです。冷たいようでいてあたたかさを感じられたり、月の満ち欠けに自分自身も同調しているのでは、と思う部分があったり。それで、13年くらい前から月をテーマに制作を続けていました。


(「朧」oboro/2016年制作)

この個展は、周囲のサポートがあって初めて成し得たことなので、公開して日を追うごとに感謝の気持ちが強まりました。また、会期中は常に来場者の方々とお話していましたので、客観的に自分の作品がどう評価されているのかを実感することができました。

この個展をきっかけに、展示や制作依頼のお仕事にもつながるなど活動の幅が広がりましたので、個展を開いて本当によかったと思っています。

— これまで彫刻を続けてこられて、作風に変化はありましたか?

菅原 初期の頃は悩みが高さに表れて、先生に止められながらも3メートルもある作品を作ったこともありました(笑)。結婚後は、丸みを帯びてくるようになりましたし、色合いも優しいものが増えてきましたね。


(子供が生まれてから増えたという母子像。「紡」tsumugu/2017年制作)

菅原 今年3月の「秋田県秀作美術展」では、初めて息子をモチーフにした彫刻を出品しました。息子には会場で初めて見せたのですが、すぐに自分だと分かって、照れくさそうにしていました(笑)。

彫刻の着色は「陰影をどれだけ表現できるか」もとても大切で、作家さんによって使う画材はさまざまです。この「呼吸」は、テラコッタをイメージして日本画材を使用しています。


(息子さんへの慈しみを表現した「呼吸」/2018年制作)

彫刻も「h.u.g」も大事な両輪

— 制作活動は、どのようなスケジュールで行われていますか?

菅原 自宅内のアトリエで毎日制作しています。息子を保育園に送った後、10時から17時まで作業しますが、発送や納品、自分の作品の制作やイベントに向けての制作とさまざまありますので、時間は全然足りないですね。お昼ご飯と一緒に夜ご飯も作って、その分の時間を制作にまわしていますが、もっと時間は欲しいです。

— ご自身の制作活動と「h.u.g」の活動のバランスについてはどうお考えですか?

菅原 彫刻は自分と向き合う作業であり、自分を表現するのためのもの、「h.u.g」は求められるものを形にする楽しさがありますので、彫刻も「h.u.g」も両方ないと自分の中でバランスはとれないと思います。


(自宅玄関口に併設されたアトリエ)

— これからの活動の展望についてお聞かせください。

菅原 まず「h.u.g」としては活動範囲を広げたいです。今年から個人事業主になりましたのでイベントも増やしたいですし、お子さんが描いたイラストを立体化するなどのオーダー会もしてみたいですね。

彫刻の方でも発表の場は欲しいので、来年も個展開催を目標に制作していきたいです。彫刻でも「h.u.g」でも、自分にしか表現できないことをもっと展開していきたいと思っています。

彫刻家として昨年は自身初の個展を開催し、今年度から大学で彫刻を教えながら、「h.u.g」としては今夏、雑貨好きにおなじみの手紙社主催「布博」に出品するなど、着実に活動の幅が広がっている菅原さん。その実直さに、こちらも襟を正さずにはいられませんでした。これからも菅原さんの手掛ける作品にますます注目が集まりそうですね!

【第62回 秋田美術作家協会展】
開催期間/12月1日(土)〜12月5日(水)10:00〜17:00(最終日〜16:00)
会場/秋田県立美術館・県民ギャラリー(秋田市中通1丁目4-2)
入場料/200円(高校生以下無料)

【秋田美術作家協会・若手会員7人展「はじまりの白」】
秋田美術作家協会の若手会員7名が、思い思いに感じた「白」を油彩画、鉛筆画、ミクストメディア、立体造形で表現する企画展。
開催期間/2019年1月30日(水)〜2月3日(日)
会場/ココラボラトリー(秋田市大町3丁目1-12 川端中央ビル1F)
入場料/無料
チラシPDFはこちら


【菅原綾希子さんプロフィール】
秋田市生まれ、秋田市在住。秋田美術作家協会会員。石膏、テラコッタ、木材などを使用し、半抽象的な塑像を制作。高校の美術教員を12年勤めたのち、現在は秋田大学教育文化学部非常勤講師(彫刻分野)として教鞭をとる。2010年から「h.u.g」の活動を始め、全国各地のクラフトイベント参加、ショップへの作品委託、個展などで作品の展示や販売を行うほか、商品パッケージや媒体物のイラストレーションなども手掛ける。5歳の男の子の母。
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熊谷 清香

熊谷 清香

地元タウン誌や広告代理店勤務を経て、フリーランスで企画・編集・取材・インタビュー・ライティング等をしています。中高生の母。秋田市出身。

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