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568kmの想いを届けて。秋田の農業の未来を模索する野菜卸会社「ゴロクヤ市場」

ゴロクヤ市場 佐藤飛鳥さん

東京と秋田を結ぶ「568km」。この距離があっても新鮮な“秋田の野菜”を届けたい!そんなまっすぐな想いを持って秋田の野菜卸会社「ゴロクヤ市場」を1人で立ち上げた佐藤飛鳥さん。東京と秋田の二拠点で活動をすることで、秋田の野菜をおいしく新鮮なうちに東京で販売することを実現!農家さんにとことんに寄り添ったお野菜専門卸会社さんなのです。

-ゴロクヤ市場を始めたきっかけはなんですか?

佐藤:高校卒業後、東京の短大へ進学したのち健康食品会社、高級食品を取り扱う商社などで働いていました。会社員時代に秋田へ帰省した際、おばあちゃんのお友達の農家さんが、「野菜が余ってしまって…」と話していたんです。詳しく聞くと、昨年の売上に合わせて作付け面積を増やしたら、今年は同じ量を買い取れないと言われ、余ったしまったそうなんです。余るほどあるなら、東京でも買えるのでは?と思って秋田の野菜を探してみたのですが、都内の身近なスーパーでは取り扱っていませんでした。欲しいと思っている人がいて、売りたいと思っている人がいて、食材も余っているのに、なぜそこがうまく回っていないんだろうと疑問に思ったんです。仕事で営業などもしていたので、そのノウハウを生かして、“私が秋田の野菜を売ろう!”と思ったのがきっかけです。

(野菜を売るきっかけとなった、おばあちゃん。隣がおじいちゃん)

ゴロクヤ市場、始動!!

-そこから一人で野菜を売り始めたのですか?

佐藤:そうですね。会社勤めをしながら副業のような形で秋田の野菜の販路開拓などをしていました。その後、独立し「ゴロクヤ市場」として活動をしています。当初は企画書を用意して、電話でアポを取って商談をして、というのをしていたのですが、情けで一度だけ購入してもらうことはあっても、長期的な取引にはなかなか繋がらなかったんです。

そこで、消費者の方々の生の声を知るためにも、マルシェに出てみることにしたんです。最初は新宿の改札の外で開催されていた「ルミネのマルシェ」でした。お客さんの反応もよくて手応えを感じてきたので横浜や月島など、あちこちで出店してみました。すると、お客さんとして来てくださった飲食店の方やバイヤーの方などが興味を持ってくださり、そこから長期的な取引ができるようになってきたんです。

(東京でのマルシェ出店の際のようす 写真提供/ゴロクヤ市場)

-秋田の野菜だとどのようなものを販売されるのでしょう?

佐藤秋田らしいものが一番売れます山菜やじゅんさいなどの特産品、産地名が入っているものや、全国的に出回っている種類のものでも、特に根菜類などは寒いところの方がおいしいイメージが強いようで売れます。取引している農家さんも最初はおばあちゃんの知り合いの数軒だったのが、「あそこに行けば、東京で売ってくれるよ!」と口コミで宣伝してくれたり、メディアで取り上げてもらう度に、「うちの野菜も扱って欲しい」と農家さんから依頼があったりして、今では50軒ほどの農家さんとお取引をさせてもらっています。

(山菜の宝庫、秋田の新鮮な山菜は東京では重宝されるのだとか。 写真提供/ゴロクヤ市場

(料理家「たこしほ」さんが考える、おしゃれなレシピの提案もしています。 写真提供/ゴロクヤ市場

どんどん広がる取引先

-取り扱いの農家さんが数軒から50軒!増えましたね。それに伴って、お取引先も増えているのでは。現在はどんなところで販売されているのですか?

佐藤:大きいところだと、無印良品さんでも取り扱ってもらっています。また、昨年からお取引が始まった文京区根津にある複合施設「ウェルネスハウスCÉLULA(セルーラ)」さんで販売している野菜はすべて「ゴロクヤ市場」で選定させてもらっています。飲食店だとトラ男で知られている北秋田市出身の武田さんが営む、日本橋にある「おむすびスタンドANDON」さんなどもあります。その他、マルシェは継続して出店したいので清澄白河のハチミツ屋さん主催のマルシェ「Beeslowマルシェ」には定期的に出店しています。東京だけでなくマカオや香港などの海外輸出も始まっているんです。なので、それぞれの出荷先の要望に応じるためにも取引農家さんは多い方がありがたいです。

(にかほ市産、肉厚のいちじくも取り扱っています。 写真提供/ゴロクヤ市場)

(city farmガイアガーデンさん「寒締サラダほうれんそう」 写真提供/ゴロクヤ市場)

(農園晴晴さんの「おはなにんにく」 写真提供/ゴロクヤ市場)

-集荷に配送、農家さんや販売先とのやり取りなど、一人で大変ではないですか?

佐藤:大変です。スタッフを増員しなくては、と考えているところですね。数年前から、ゴロクヤ市場の取り組みに賛同してくれる方が増えてきてくれて、東京と秋田で5人ほどデザイナーさんやエンジニア、経理などチームを組んでやっています。事業の相談に乗ってもらったり、仲間の存在は心強いです。東京で出店している時には、秋田からの発送は母にお願いしたりして、色んな方に協力してもらっています。やはり生ものは、収穫したその日のうちに配送しなければならないので、その作業も大変です。

(取材に行った朝に、採れたて!の作左部農園さんのカブ)

今後の活動を教えてください!

-佐藤さんの取組によって、廃棄されるはずだった野菜が活用され、販売先を増やすことができた農家さんもたくさんいることと思います。これからの目標はどういったことなんでしょう?

佐藤秋田の農業を盛り上げていきたいな、という想いが一番にあるんです。せっかく作っても売先がなくて余ってしまったり、市場の価格に合わせた買取金額になってしまう、という農業の課題を少しずつでも解決していけたらと思っています。大事に野菜を育てている農家さんへのリスペクトの気持ちを持ってもらえるように、農業の価値を高められたらと思いますね。

(「イージー」の実証実験も兼ねたBeeslowマルシェでの出店の様子。 写真提供/ゴロクヤ市場)


その第一歩として、農家さんが対事業者さんへ直接販売できるシステムを考えています。高齢の農家さんでも扱えるように、タブレットで簡単に出荷できる野菜を登録できる「イージー」という取組です。買い手として、飲食店の方や量販店さんに登録をしてもらい、必要な方が必要な分だけ農家さんから直接購入できるし、農家さんもそれぞれ出荷したい分を売ることができます。個人向けの販売ではないため、ある程度の出荷量も見込めると思っています。まもなく始動します!

(開発中の「イージー」のテスト画面 写真提供/ゴロクヤ市場)
(「イージー」を実際に農家さんに使ってもらった時の様子 写真提供/ゴロクヤ市場)

佐藤さんが一人で秋田の野菜を売り始めて独立したのが22歳。現在28歳!20代前半から一人で葛藤しながら自分の理想の形の商売をするのは並大抵のことではないはず。「農家さんに”お願いします!”と野菜を渡してもらうとき、丹精こめて育てた野菜を任せていただいているんだなぁという実感が湧きます。でも、自分がやりたいことをやっているだけです!」と笑いながらも、真摯な姿に秋田の農業が変わっていくような心強さをヒシヒシと感じました。これからの活動も楽しみです‼

DATA

【ゴロクヤ市場 佐藤飛鳥さん】
由利本荘市出身。食品会社に勤務後、秋田の野菜や山菜を直接仕入れ、東京などで販売を手掛ける野菜専門の卸会社を立ち上げる。秋田と東京の二拠点で活動をし、新鮮なうちに販売ができることを実現。現在、高齢の農家さんでも簡単に事業者向けの販売ができる「イージー」の開発中。

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秋田県内エリア

Writer

kamada minako

kamada minako

由利本荘市出身。二児の母。パート勤務をしながら時々ライターやフードコーディネーターなどの個人活動をしています。 日々のお料理ブログ。
http://kamadakikaku.php.xdomain.jp

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